「お茶汲みは新人の仕事よ」と昭和のルールを強要するお局。だが、新人の正論に表情が一変【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

私が中途採用で入社したその会社は、一見するとどこにでもある穏やかなオフィスでした。しかし、たった一人、私を悩ませる存在がいました。それは、勤続二十五年というベテランの女性社員、いわゆる「お局様」です。

彼女の口癖は「これがうちの伝統だから」というものでした。

ある日の午後、私が締め切り間近の資料作成に没頭していた時のことです。彼女の鋭い声が響きました。

「ちょっと、あなた。三時よ。全員分のお茶を淹れてちょうだい」

私が「申し訳ありません、今この資料を仕上げてしまいたいので」と丁寧に断ると、彼女の顔がみるみるうちに般若のように険しくなりました。

「お茶汲みは新人の仕事よ。これは昔から決まっている、この会社のルールなの。仕事の手を止めてでもやるのが当たり前でしょ！」

周囲の社員は、また始まったと言わんばかりに目を逸らしています。私は深く息を吐き、静かに立ち上がりました。

「そのルール、就業規則のどこに記載されていますか？」

私の問いに、彼女は「はあ？」と口をあんぐり開けました。

「社長は先日の朝礼で『付加価値のない雑務を減らし、生産性を高めることが最優先だ』とおっしゃっていました。私が今お茶を淹れるために十分間作業を止めれば、この資料の完成が遅れ、会議の準備が滞ります。それは会社にとって損失ですよね？」

さらに私は続けました。

「お茶が飲みたい方は、各自が好きなタイミングでサーバーへ行くのが最も効率的です。どうしても私に淹れてほしいのであれば、それは業務命令として部長の許可をいただけますか？私は自分の給料が、お茶汲みではなくこの専門業務に対して支払われていると認識しています」

一気にまくし立てると、お局様の顔は真っ赤になり、やがて青白く変わっていきました。これまで誰も彼女に反論などしなかったのでしょう。

「な、なによ……。最近の若い子は可愛げがないわね……」

震える声でそう捨て台詞を吐くと、彼女は自分の席へ逃げるように戻っていきました。

その日を境に、彼女が無理な「昭和ルール」を強要することはなくなりました。オフィスには以前よりも自由な空気が流れ、私は今日も自分のすべき仕事に集中できています。

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