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夫へのイライラが止まらないのは"実母の呪縛"だった…カウンセラーが指摘する夫婦問題がこじれる意外な端緒

  • 2025.12.25

夫婦間の不満を解消するにはどうしたらいいのか。家族問題カウンセラーの山脇由貴子さんは「まずはお互いの生い立ちを知ることだ。イライラや不安の背景には育った環境が大きく影響しており、違いを理解できれば解決策が見えてくる」という――。(第2回)

※本稿は、山脇由貴子『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た絶望と変化』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

※事例は全て仮名です。

家事を手伝わない男性に欲求不満な女性
※写真はイメージです
「すぐやる」が苦手な夫にイライラする妻

相談に来たのは30代のご夫婦でした。妻の尚美さん(32歳)、夫の孝彦さん(34歳)。結婚6年目、初回から揃っての相談です。子どもは4歳の娘と1歳の息子の2人。お二人ともIT関係の仕事で、コロナ禍以降の出勤は週1回だけ。テレワークが基本との事でした。

「とにかく、私が夫にイライラして仕方がないんです」尚美さんは言います。特に2人目が生まれてからイライラがひどくなったそうです。

「夫は家事も育児も手伝ってはくれますけど、何か違うんです。まず『やって』と言った事をすぐにやってくれないんです。『ゴミ捨てて来て』と言うと『うん』って答えますけど、スマホを見ていて立ち上がろうともしない。何度か言って、ようやく立つって感じです。いつもです」

これは多くの妻から聞くお悩み。皆さん「なんですぐやらないのか意味が分からない」と言います。尚美さんの話は続きます。

「あと、子どもがなかなかご飯を食べようとせずにぐずっていると『じゃあ、ジュース飲む?』『バナナ食べる?』ってきつい口調で次々たたみかけて、子どもが余計にぐずるんです。『しばらく放っておけば、そのうち食べるから』って言ってるのに、たたみかけ続けるので、結局私があやして食べさせることになって……」

何をしても怒られてしまう現状

「寝かしつけもそうです。寝かしつけを頼んだのに、しばらくすると『寝ないから』と言って、子どもをリビングに戻して遊び始めちゃうんです。そんなことしたら、翌朝起きなくて大変になるのに……」尚美さんの話はさらに続きます。

「片付けもそうなんですよね。食器の置き場所が毎回違ったり。『探すのが大変だから』って何度も言っているのに。掃除も、四角い部屋を丸く掃除機かける感じだし、食器洗いも汚れが残っていたり、テーブルを拭いてもらっても、適当なんですよね。子どもの食べこぼしが残ったままだったり。電気のつけっぱなしもドアの開けっぱなしも多くて、イライラします」

夫の孝彦さんは妻の隣で黙り込んでいます。おとなしそうな方で普段から口数は少ないそう。私が、「ご主人はどうですか?」と尋ねると、少し考えてから口を開きました。

「僕としては、精一杯手伝っているつもりなんですけど……。いつも怒られてばかりで。何をしても怒られるので、どうしたらいいか……」

「カウンセリングに来るのは嫌ではなかったですか?」妻主導でカウンセリングに来たご夫婦の夫に、私が必ずする質問です。

「嫌ではなかったです。毎日怒られてばかりで、どうにかしたいと思っていたので、第三者に入ってもらって何か変わるなら、と」

夫婦問題の解決には「生い立ち」が重要

良かったです、と言った後に、私は今後について説明しました。

「ただお話を聞くだけのカウンセリングではなく、ご夫婦間の問題の原因を分析して、解決方法を見出す方が有効的です。そのために、まず、ご夫婦それぞれの生い立ちを聞かせて頂きます。

私たちはどう育ってきたかによって今の性格が作られているので、生い立ちを聞かせて頂くことはとても重要なんです。それにより、何が怒りのきっかけになるのか、どんな事に傷つきやすいのかなどの傾向が見えてきます。

その後に心理テストを受けて頂くと潜在意識が分かりますので、生い立ちから見えてきた傾向に対する確証が得られ、また、親からの影響や、外での人との関わり方と家族に対する関わり方の違いなども見えてきます。それによって、お互いの違いや今起こっている夫婦の問題の原因が見えてくるので、今後気を付けなければならない事が分かります」

そして、ご夫婦共に生い立ちの聞き取りと心理テストを希望して下さったので、後日別々に行いました。

子供を叱る母
※写真はイメージです
母親が厳しかった子ども時代

まずは尚美さんの生い立ちです。私は最初に、ご両親がどんな性格か、どんなお父さん、お母さんだったかを尋ねます。例えばこんな感じです。

「お母さんはどんな方でしたか? 例えば、社交的だったとか仕事で忙しくしていたとか、厳しかったとか、いつも優しくてたくさん遊んでくれたとか。小さい頃の思い出から聞かせて頂ければと思います」
「母は厳しかったです。いつも注意されていた気がします。部屋の片付けとか。『尚美はだらしない』って常に言われていました。家の中はいつもすごく綺麗だったし。あと、母は教育熱心で、小学生の頃から塾に通って、中学受験をしました」

聞くと、かなり偏差値の高い中高一貫の女子校。大学受験も順調で志望校に入学。やはり私立のレベルの高い大学です。

「母は、私の事以外にも細かくて、ショッピングセンターに買い物に行った時には周りの親子を見て『あの子、靴下はいてないけど寒くないのかしら』『服のサイズが合ってないけど、お母さん気づかないのかしら』とか、いつも言ってました。だから私もいつの間にか細かいことが気になるようになったのかも……」
「お父さんはどんな方でしたか?」
「忙しくてあまり家にいなかった印象ですが、父も母から色々注意されてました」
「お父さんはそれに対しては?」
「言い返したりはしていなくて、黙って言う事を聞いてる感じでした」

無意識に刷り込まれていた基準

心理テスト結果からも細部が気になって感情的になってしまう事、また、順調に育って来た事による、思い通りに行かない事への耐性が弱い点も分かりました。さらに、無意識のうちに、母親からの教えを自分の内部に取り込み、それが尚美さん自身の考えや判断の基準になっている事も分かりました。

厳しかった事には辛さも感じていた一方、「逆らってはいけない」「言う事は聞かなくてはいけない」とずっと思って来たので、従わされてきた基準が自身の基準になってしまったのです。

そして、父親のことを「弱い」と感じていること、これは母に対して何も反論できない父の姿を見て来たことによるもので、「頼りにならない存在」という意味が含まれています。

よって「男性に頼る」という意識は育たず、結果、夫に対しても口うるさく指示する事に抵抗がなくなっていたのです。夫への感情は否定的ではないものの、やや怒りが含まれている結果でした。

「人間というのは、見て来た事を模倣する傾向があります。子どもの行動も大人の模倣から始まりますよね。尚美さん自身は気にしていなくても、お母さんが細かい事を気にすれば、自然に目が行ってしまうので、自分も気になるようになってしまうという事です」

いつの間にか夫と母親を比較していた

「厳しく言われて育つと、『優しく伝える』というのがどういう事か分からないまま大人になってしまう事もあるのです。尚美さんの場合は知らず知らずのうちにお母さんの基準が内面化されていた事と、ご両親の夫婦関係を見て来たので、妻から夫に注意するのが当たり前になっていた事も、今の夫婦関係に影響していますね」と説明すると、尚美さんは頷きました。

「そういえば、2人目出産直後は母に手伝いに来てもらっていたんです。母の家事はとにかく完璧で。トイレもピカピカにしてくれていたし、牛乳がないと買っておいてくれるし。夫と母を比較してしまっていたのかもしれません」

そこでため息をつきながら続けました。

「母みたいになりたくないって思っていたのに、まだ母の存在が大きいんですね」少なからずショックを受けており、夫への申し訳なさも言葉にしました。

一方、夫の孝彦さんは、小学生の時に両親が離婚。父親に引き取られ、父子2人での生活をしてきました。

「父は忙しくて家にいない事も多く、食事もいつも買って食べていたし、家の中はぐちゃぐちゃでした。でも父も僕も特に気にならなかったです」

お互い、自分に必要な事だけをやる生活で、父から何か頼まれる事もなかったとの事。さらに、たまに父から何かを頼まれてやらずにいても何も言われなかったし、怒られなかったそうです。だから「頼まれたら必ずやらなくては」という意識が作られなかったとも言えます。

指示されてもすぐに動けなかったワケ

子どもというのは、親から「〜をやりなさい」「〜を早くやりなさい」などと言われながら成長しますが、言われた事をやるのは、「しかられるからやろう」と思うか、あるいはやらないと自分が困るからやるようになる、このどちらかです。しかし孝彦さんはどちらにも当てはまらなかったのです。

また、孝彦さんに限らず、「夫は頼んだ事をやってくれない」という妻の不満はよく聞きますが、これは、妻に頼まれた事の必要性が分かっていないので、すぐやらなくてもそのうちやればいいだろう、と考える夫が多い事が一つ。また色々口うるさく言われているうちに、妻の言う事を聞き流すようになる、という事も言えます。

心理テストの結果からは、妻と逆で、細部への観察力が低いという特徴が出ました。また、家族に対するイメージが持てていないという事や、母だけでなく、父の存在も心の中で薄い事も分かりました。

妻に対しては、今は戸惑いの感情が強く出ています。それから、男性に多いのですが、人の感情に鈍感な傾向。また、興味深いのは「食」に対する執着が極端に薄い事でした。

さらに、理系という事もあるのか、頼まれてもすぐやらないのに、自分が問題だと思った時はとにかくすぐに解決しないと気が済まない傾向。これが育児にも出ていて、子どもがぐずると「なんとか解決しよう」という気持ちになるので、孝彦さんなりの解決方法を見出そうとしている事も分かりました。

心理テストで分かった夫婦のズレ

結果を伝えると、深く頷きました。

「確かに……父と何かした記憶はほとんどありません。母の事は記憶にもあまりなくて、誰かからしかられた事ってほとんどないんです。だから妻から怒られて、初めて人から怒られたのですごく驚いて。子どもがぐずった時も『どうにかしなきゃ』って考えているのに、そのやり方がダメだと言われるのでどうしたらいいか分からなくなって……」

食についても、「ずっとお金だけ与えられて、適当だったので……。子どもには食べさせなきゃって思いますけど、僕自身はお菓子とかでも別にいいんです。子どもの頃からそうだったから」

後日、夫婦の心理テスト結果の照らし合わせをしました。生い立ちから生じているお互いの違いにはお二人とも納得していました。尚美さんは、

「確かに、夫って私が頑張って料理しても全然喜ばないんです。それもイライラする理由の一つで。それに週末、どこかに行こうって話になって、夫に行き先を決めてもらうように頼むと全然思いつかないって言うんです。それもイライラの原因です」
「ご主人は、家族での思い出が少ないので、イメージがわかないんです。それに、ご主人が親から誉めてもらったり、何かして喜んでもらった経験がないので、人の感情に鈍感なんです。片付けや掃除もそうですね。お互いの『当たり前』の基準は育って来た環境で作られますから」

関係を良好にする簡単なフレーズ

まず尚美さんには夫への要求水準を下げる事、イライラした時は「母親と比較しているからだ」と自覚して冷静になる事をアドバイスしました。週末のお出かけ先は夫に委ねず、二人で考えるように、とも。

孝彦さんには、子どもがぐずった時は、お願いして妻に委ねる事、あるいは正解はないと自覚して、放っておく事に慣れるよう伝えました。

山脇由貴子『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た絶望と変化』(幻冬舎新書)
山脇由貴子『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た絶望と変化』(幻冬舎新書)

また、良い関係というのは形容詞をたくさん共有出来る関係である事も説明し、「楽しいね」「嬉しいね」など、会話を増やす事もアドバイス。形容詞の中で一番簡単なのは「美味しい」なので、孝彦さんには食事を楽しむ意識を持つように伝えました。

何より大事なのは、尚美さんが、夫は経験がない故に出来ない事が多いと理解して、「知らないんだから仕方ない」と考えるようにすること。お互いの「出来ない事を許す」が夫婦関係改善のポイントです。

それぞれがアドバイスを実行できるかが課題だったのでカウンセリングは継続。現在、関係は改善に向かっています。

山脇 由貴子(やまわき・ゆきこ)
家族問題カウンセラー
東京都出身。横浜市立大学心理学専攻卒。東京都に心理職として入都。都内児童相談所に心理の専門家として19年間勤務。2006年に刊行した、現代のいじめ問題の核心をついた『教室の悪魔』(ポプラ社)がベストセラーとなり、以後全国的に講演活動を行う。他の著書に『告発 児童相談所が子供を殺す』『夫のLINEはなぜ不愉快なのか』(ともに文春新書)、監修書に『子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!』(幻冬舎)など。

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