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【NBAナビ】八村塁、河村勇輝が挑む“いまのNBA” 知っているようで知らない、その面白さの正体を佐々木クリスさんへ聞いてみた!

  • 2025.12.25

サッカーは好き、スポーツ観戦も好き。でも「NBAは知っているけれど、正直どんなところが面白いのかよく分からない」——そんな人も多いのではないだろうか。選手が多く、試合展開も速いNBAは、最初の一歩を踏み出しにくいと感じる人も少なくない。
しかし近年のNBAは、スピード、技術、戦術のすべてが大きく進化し、ポイントさえ押さえれば、初めて観る人でも一気に引き込まれる魅力にあふれている。
そんな“いまのNBA”を紐解くために話を聞いたのが、NBA docomo始め各媒体でNBA解説を務める佐々木クリス氏だ。佐々木氏は元プロバスケットボール選手で、現在はバスケットボール解説者、B.LEAGUE公認アナリスト、NBAアナリストとして幅広く活躍している。
本記事では、2025-26シーズンの話題を入り口に、サッカーファンの視点も交えながら「NBAはよくわからない」から「ちょっと観てみたい」へと感じ方が変わる理由を探っていく。
なお佐々木氏は、12月26日(金)午前9時45分から「ヒューストン・ロケッツvs.ロサンゼルス・レイカーズ」の解説も担当予定で、試合の模様はNBA docomoで無料ライブ配信される。
聞き手:木村英里(フリーアナウンサー)

スピード、技術、シュート力―― “いまのNBA”はなぜこれほど面白いのか

1990年代、マイケル・ジョーダンを擁したシカゴ・ブルズの黄金時代によって、NBAは世界的なスポーツエンターテインメントとして確固たる地位を築いた。さらに『SLAM DUNK』の大ヒットも重なり、日本国内でもNBAやバスケットボールがカルチャーとして広く浸透していった。そしていま、そのNBA最前線で、日本人選手が確かな存在感を放つ時代を迎えている。

NBAキャリア7シーズン目を迎え、名門ロサンゼルス・レイカーズの一員として各国のスターと肩を並べる八村塁。そして昨シーズン、NBA挑戦で大きな注目を集めた河村勇輝。日本人選手の動向がNBAの話題として語られること自体が、リーグの現在地を物語っている。

――現代のNBAの魅力を教えてください。

佐々木:いまのNBAは、過去一番スピーディで、ダイナミックかつアップテンポな展開が魅力です。90年代のシカゴ・ブルズ時代や『SLAM DUNK』に描かれたバスケットボールは、それぞれの選手が役割をこなす専門家が集まるチームでした。現在は、5つの全ポジションでオールラウンダーが求められています。シュート、ドリブル、パス、すべてを兼ね備えたような選手たちが全ポジションにいるため、NBAの技術力は最も高くなっています。シュートの成功率の高さにも驚きますし、ボールが次々とリングに吸い込まれるように入っていくので、見ていて爽快感がありますね。

――ルカ・ドンチッチやヤニス・アデトクンボなど、幼少期にサッカー経験を持つ選手も増えていますね。

佐々木:最近は7年連続でアメリカ国外出身選手がシーズンMVPを獲得していますし、リーグ全体でも国外出身選手はここ10年以上にわたって100人を超えています。彼らは、ユーロステップと言われるようなサッカーでのステップワークをNBAに持ち込んでいますね。たとえばルカ・ドンチッチは、股抜きドリブルやパスでファンを魅了しますが、あの感覚はサッカー経験がなければ身につきません。空間把握能力を生かして駆け引きが1対1にとどまらない選手もいますし、サッカーが大好きでプレミアリーグのチーム株主になっている選手もいますね。

――2025-26シーズン印象を聞かせてください。

佐々木:コート全体を使ったアップテンポな展開がより顕著になっています。ディフェンスでも運動能力が高く、スピード感があるチームが躍進している印象です。また、近年はスリーポイントが多用されていますが、ただ打つだけでは差がつきません。リバウンド争いや、ボール奪取など、守備の重要性が強く意識されているシーズンだと感じています。

――注目のチームはどこでしょうか?

佐々木:(取材日:12月21日現在)ウェスタン・カンファレンス首位のオクラホマシティ・サンダーですね。ここ7シーズン、異なるシーズンチャンピオンが誕生しているNBAの中で、サンダーは昨シーズン、史上2番目の若さのチーム平均年齢で優勝しました。それでも、まだ伸びしろがあります。昨シーズンは1試合あたりの平均得失点差が12.9と史上最高記録でしたが、今シーズンは16.1と、さらにその数字を更新しています。エースのシェイ・ギルジャス=アレクサンダーも「僕たちは去年よりもいいチームだ」と断言しています。サンダーが連覇を果たすのか、それともライバルが止めるのか。かつて、マイケル・ジョーダンを応援するか、ジョーダンを倒そうとするライバルを応援するかで盛り上がった時代のように、楽しんでもらえたらうれしいですね。

――いま、注目の選手も教えてください。

佐々木:やはり、サンダーのシェイ・ギルジャス=アレクサンダーです。もともと稀代のスコアラーで、得点への嗅覚が非常に鋭い選手ですが、昨シーズンからはドリブルからのスリーポイントや外角シュートも身につけ、いよいよ完全無欠に近づいてきました。最近は味方を生かすプレーや、ディフェンスを手玉に取るような知性的なプレーも見せています。現代において、最もマイケル・ジョーダンに近い選手だと思います。もう一人挙げるなら、ミネソタ・ティンバーウルブズのアンソニー・エドワーズですね。かつてNBAを観ていた方なら、彼のプレーを見て、あの頃の衝撃が蘇るのではないでしょうか。

いまのNBAは、スターシステムや役割分業の時代を超え、コートに立つ全員が主役になり得る進化を遂げている。一度観始めれば、そのスピードと完成度の高さに、きっと引き込まれるはずだ。

NBAを代表するスリーポイントシューターへーー八村塁

そんな進化を遂げたNBAの中で、確かな役割と存在感を築いているのが八村塁だ。

画像: 2025年11月2日、ヒート戦でシュートを放つレイカーズの八村塁(#28) Eric Thayer / Los Angeles Times via Getty Images
2025年11月2日、ヒート戦でシュートを放つレイカーズの八村塁(#28)

――2022-23シーズンからロサンゼルス・レイカーズでプレーをする八村塁選手をどのように見ていますか?

佐々木:本当に素晴らしいキャリアを歩んでいると思います。2019年、ドラフト全体9位で指名されたことは、NBAでのプロキャリアをスタートさせる大きな節目でした。そして、もう一つの大きな転機が、ワシントン・ウィザーズからレイカーズへの移籍ですね。そこでいよいよ、NBAで“生きる道”を見つけたと感じています。移籍当時、チームにはレブロン・ジェームズやアンソニー・デイビスといったペイントアタックを得意とする選手がいました。彼らと共存するために、八村選手のスリーポイントシュートは大きく磨かれて行きました。その結果、今シーズンは3シーズン連続でスリーポイント成功率40%超え。いまや、リーグを代表するシューターの一人と言っていいと思います。今オフに本人とも話しましたが、NBAで自分の役割を完全に見つけたという手応えが伝えわってきました。

――今シーズンの八村選手の活躍はいかがでしょうか?

佐々木:何より、スリーポイントシュートが今シーズンも高い確率で決まっています。キャリア初のブザービーターで試合を決めた場面や、残り1分という勝負どころでボールを託され、コーナーから沈めたシーンも印象的でした。ヘッドコーチが勝負どころで主力とともにコートに立たせるというのは、それだけ信頼されている証拠です。いまや八村選手がいないと、戦術やオフェンスが成立しないところまで来ていると感じます。欲を言えば、あの成功率なら、もっとスリーポイントを打ってほしいですね。

――レイカーズの戦いからも目が離せませんね。

佐々木:チームとして決してケガ人が少ない状況ではありませんが、勝つべき試合はしっかり勝てています。この勢いのまま、シーズン後半に進んでいきたいですね。

八村塁はいま、名門レイカーズの一員として、世界最高峰の舞台で確かな存在感を放っている。スリーポイントという武器を磨き上げ、試合終盤をも託される存在へと成長した姿は、NBAという最高レベルの競争の中で評価を勝ち取ってきた証だ。その歩みは、日本バスケットボール界にとって大きな誇りであり、刺激であり続けている。

NBAへ挑戦中!――河村勇輝の現在地

かつてマイケル・ジョーダンが在籍し、2度の三連覇を成し遂げた名門シカゴ・ブルズ。その歴史あるフランチャイズに、いま日本人ガードが挑戦している。

ブルズとツーウェイ契約を結んでいた河村勇輝は、右脚負傷の影響もあり10月に契約解除となった。しかし、その後もブルズの練習施設でトレーニングを続けていることが伝えられており、今後の動向に引き続き注目が集まっている。

画像: 2025年プレシーズン、ブルズに在籍していた河村勇輝(#8) Photo by Jason Miller/Getty Images
2025年プレシーズン、ブルズに在籍していた河村勇輝(#8)

――河村選手の現在、そして今後についてどう見ていますか?

佐々木:チームの施設を使って練習を続けていますし、私服ではありますが試合に帯同している様子も見られます。そういう意味では、今もチームの一部であることに変わりはないと思います。ケガが完治すれば、まずはGリーグ(下部育成リーグ)のチームで調整しながら、NBAでの出場チャンスをうかがう形になるでしょう。僕自身も、まだ可能性は十分にあると思っています。

――河村選手は、日本バスケットボール界にとってどのような存在でしょうか。

佐々木:八村選手とともに、日本の夢であり、希望の存在ですね。河村選手は身長172センチ。日本だけでなく、世界中の“アンダードッグ”を象徴する存在だと思います。NBAの平均身長は2メートル前後と言われていますが、その中で戦う姿は、アメリカを含め世界中のNBAファンの心をつかんでいます。まさに、みんなの夢を背負っているプレーヤーです。

河村勇輝の挑戦は、ひとりの選手のNBAチャレンジにとどまらない。172センチというサイズで世界最高峰に挑む姿は、日本代表を目指す若い世代や、日本バスケットボール界全体にとって大きな希望だ。いわゆる“アメリカンドリーム”を体現する存在として、その行方は今後も大きな注目を集めていくだろう。

年に一度の祭典、NBAのクリスマスゲーム

NBAの伝統行事である「クリスマスゲーム」が、現地12月25日(日本時間12月26日)に開催される。「クリスマスゲーム」は、NBAで75年以上の歴史を紡いできた伝統的なイベントで、例年、強豪チームやスター選手を擁する人気チームがそろい踏みする。

クリスマス当日に5試合を開催するのは今年で18年連続。連覇が期待されるオクラホマシティ・サンダーや、八村が所属するレイカーズなど、計10チームが特別な一日を彩る。1日を通して複数試合が全国中継されるこの日は、NBAにとって“ショーケース”のような位置づけでもある。日本でも全5試合がNBA docomoで無料ライブ配信される予定だ。

シーズンの流れを占う意味でも注目度の高いカードが並ぶ「クリスマスゲーム」は、NBAファンにとっては、毎年恒例の特別なイベントとして定着している。

――クリスマスゲームの注目試合を教えてください。

佐々木:クリスマスゲームは、紅白歌合戦のような毎年の恒例行事ですね。私が解説を担当するのは、ヒューストン・ロケッツとロサンゼルス・レイカーズの一戦です。新しいスターが次々と登場する中で、レイカーズのレブロン・ジェームズは今シーズン、NBA史上初となる23シーズン目を迎えています。そのレブロンと対峙するロケッツには、同じく長年NBAを牽引してきたケビン・デュラントがいます。NBAの“顔”とも言える2人の英雄を同時に見られる機会は、そう多く残されていないかもしれません。だからこそ、この試合はぜひ観ていただきたいですね。

佐々木氏が注目チームとして挙げていたオクラホマシティ・サンダーは、サンアントニオ・スパーズとの対戦が組まれている。スパーズには「エイリアン」の愛称を持つビクター・ウェンバンヤマという規格外の才能を持った選手がいる。身長220センチを超えながら、高いスキルとシュート力を兼ね備える異次元のプレースタイルで、リーグ内外から大きな注目を集める存在だ。

異次元の強さを誇るサンダーと、異次元のエイリアンを擁するスパーズ。その対戦も、クリスマスゲームならではの見どころと言えるだろう。

今こそ、NBAに注目したい理由

NBA docomo始め各媒体でNBA解説を務める佐々木クリス氏は、2025年8月にバスケットボール情報のキュレーションおよび発信プラットフォーム「The Playmaker」を立ち上げた。取材日には、東京・高円寺にあるNBA関連の古着などを扱うショップ「am3:41」で、「The Playmaker」のPOP-UPイベントを開催。NBAをきっかけに集まったファンと交流し、リアルな場でのコミュニケーションを楽しんでいた。

画像: 今こそ、NBAに注目したい理由

――「The Playmaker」について教えてください。

佐々木:日々解説をしながら、「一日に1人でもNBAファンを増やしたい」という思いで活動しています。NBAは本当に面白いので、その楽しさを伝え、この輪を広げていきたい。そうした思いから、ファン同士が語り合える場所をつくりたいと考え、「The Playmaker」を立ち上げました。プラットフォーム上での情報発信だけでなく、リアルなイベントも開催し、ファン同士が語り合える場所をつくっていけたらと思っています。

――最後に、Qoly読者へ、メッセージをお願いします。

佐々木:NBAは、全プレーがハイライトと言っていいほど楽しいエンターテイメントです。世界トップレベルのアスリートたちによるダイナミックなプレー、その一挙手一投足にのめり込み、ジェットコースターに乗っているような感覚で楽しんでいただきたいですね。

スピード、技術、そして個の魅力。いまのNBAは、スポーツの枠を超えたエンターテイメントとして進化を続けている。八村が示す世界最高峰での現在地、河村が挑むアメリカンドリーム、そして年に一度の祭典であるクリスマスゲーム。佐々木クリス氏の言葉を通して、その奥深さや熱量に触れることで「NBAはよく分からない」から「一度観てみたい」へと、気持ちが少しでも動いてもらえたら。

サッカーを愛する人にも刺さる瞬間が、いまのNBAにはきっとあるはず。

【プロフィール】

佐々木 クリス(ささき くりす)
元プロバスケットボール選手。現役引退後は解説者として活動し、B.LEAGUE公認アナリスト、NBAアナリストとして国内外のバスケットボールを各媒体を通じて幅広く分析・発信している。「NBA docomo」では試合解説のほか、NBAの週刊情報番組「WEEKLY NBA docomo」のMCも担当。2025年8月には、バスケットボール情報のキュレーションおよび発信プラットフォーム「The Playmaker」を開設し、オンライン・オフライン双方でNBAの魅力を伝える活動を続けている。

木村 英里(きむらえり)
バスケの魅力にハマったフリーアナウンサー。テレビ静岡、WOWOWのアナウンサーを経て、2015年よりフリーアナウンサーとして活動。NBA中継や関連番組をはじめ、B.LEAGUEの取材や「バスケを観に行く旅をしよう!」がコンセプトのWEBマガジン「balltrip MAGAZINE」副編集長を務めている。

執筆:木村 英里

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