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「ダム建設を阻止した希少カエル」が今度は洪水で生き残る

  • 2025.12.24
ダム建設と洪水を乗り越えた希少カエル。イメージ / Credit:Canva

人間だけが希少な生物を絶滅に追い込むわけではありません。

気候変動がもたらす極端な洪水もまた、小さな生き物の生存を一気に揺さぶります。

ブラジル南部のForqueta川にしかいない希少な両生類が、かつて水力発電ダムの建設計画を止めたあと、今度は2024年の大洪水をどう乗り越えたのか。

研究者たちが現地に戻り、その行方を確かめました。

目次

  • 希少すぎるカエルを守るため「ダム建設計画」が中止される
  • 洪水という新たな試練と、調査で見えた現実

希少すぎるカエルを守るため「ダム建設計画」が中止される

今回の主役は、Melanophryniscus admirabilis(※画像はこちら)という小型の両生類です。

分類としてはヒキガエル科に属しており、この種が特別なのは、分布がとにかく狭いことです。

科学的に記載されたのは2006年で、生息地として知られているのは、ブラジル南部リオ・グランデ・ド・スル州のArvorezinha周辺、Forqueta川沿いのごく限られた岩盤露頭と湿潤な森林だけです。

世界中を見渡しても、同じ環境条件が確認された場所はなく、事実上「この場所にしかいない」超局地的な固有種とされています。

しかも、このカエルの生活史はきわめて繊細です。

繁殖に必要なのは、強い雨のあとに一時的にできる浅い水たまりです。

その後に日が差し、水温が上がることで、卵やオタマジャクシが育つ環境が短期間だけ整います。

岩盤の形状、森林が保つ湿度、川の自然な増水と減水。

これらが偶然重なったときにだけ、世代交代が成り立つという、きわめて限定的な条件で生きてきました。

研究者たちは、このカエルの腹部にある斑点模様を撮影し、個体ごとに識別する方法で長期調査を続けてきました。

こうした積み重ねの中で、2010年にForqueta川へ小規模水力発電ダムを建設する計画が持ち上がります。

計画地は、このカエルが確認されている場所から300メートルにも満たない距離でした。

ダムが建設されれば、水位変動は人工的に制御され、岩盤は水没し、一時的な水たまりも消える可能性があります。

それは、この種にとって繁殖の場そのものを失うことを意味していました。

研究チームは、長年のデータをもとに絶滅リスクを評価し、このダムが完成すれば、回復の余地なく種が消える可能性が高いことを示しました。

その結果、2013年に世界レベルで「深刻な絶滅危惧」と評価され、続いて地域や国内でも同様の位置づけが整理されていきます。

そして2014年、地域の環境当局が建設許可を認めない判断に至りました。

深刻な絶滅危惧にある両生類の存在が、インフラ計画を止める決定打となった、ブラジルでは前例のない出来事でした。

しかし最近になって、この「ダム建設を乗り越えたカエル」に新たな危機が生じました。

洪水という新たな試練と、調査で見えた現実

ダムを止めたことで、このカエルの未来が保証されたわけではありませんでした。

2024年、リオ・グランデ・ド・スル州は記録的な豪雨と洪水に見舞われます。

州内では約240万人が影響を受け、川は氾濫し、各地で壊滅的な被害が出ました。

Forqueta川も例外ではなく、水位は場所によって20メートル以上上昇し、川沿いの景観は一変しました。

岩盤露頭は水に飲み込まれ、植生は引きはがされ、卵やオタマジャクシ、さらには成体までもが流された可能性がありました。

生息地が一か所しかないこのカエルにとって、たった一度の大洪水が、種全体の消失につながりかねない状況だったのです。

洪水から約一年半後の2025年、研究者たちは現地に戻り、これまでと同じ方法で調査を行いました。

31の区画に分けた調査地を歩き、個体を探し、腹部の模様を撮影して記録します。

その結果、2日間で成体や幼体、オタマジャクシを含む111個体が確認されました。

交尾行動や幼生も見つかり、繁殖サイクルそのものは維持されていることが分かりました。

一方で、以前もっとも個体が集中していた場所が使われなくなるなど、生息場所の使い方が変化している兆候も見られました。

環境が元通りになったわけではなく、カエルたちは変化した環境に適応しながら、ぎりぎりで生き延びていると考えられます。

今後の脅威は洪水だけではありません。

周辺ではタバコや大豆、ユーカリの単作が進み、森林は分断されています。

生息地は私有地であり、観光地として利用されている側面もありますが、正式な保護区はいまだ設立されていません。

さらに、目立つ体色は、希少性ゆえに違法取引の対象になるリスクも抱えています。

このカエルの物語が示しているのは、「ダム建設を止めたから安心」という単純な話ではありません。

科学的な調査、法制度、地域社会の協力がそろって初めて、一種が生き延びる余地が生まれます。

そして気候変動の時代には、その努力の上に、さらに大きな不確実性が重なります。

これほど厳しい条件が重なった中で小さな両生類が今も生きているという事実は、絶滅危惧種の存続がどれほど不安定で奇跡的なものなのかを教えてくれます。

参考文献

This Tiny Brazilian Toad Became the First Amphibian Ever to Halt a Hydroelectric Dam. Now, It Faces a Climate Disaster
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/admirable-little-red-bellied-toad-brazil/

The first amphibian to halt a hydroelectric dam now takes on the climate crisis
https://news.mongabay.com/2025/12/the-first-amphibian-to-halt-a-hydroelectric-dam-now-takes-on-the-climate-crisis/

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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