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銅を「鉱石レベル」まで濃縮できる微生物を発見

  • 2025.12.23

スマートフォンや電気自動車、送電網など、現代社会を支える重要な金属資源である「銅」は、いま世界的に需要が急増しています。

一方で、新規鉱山の開発は停滞し、「将来もっとも不足する金属の一つ」とも指摘されています。

そんな中、愛媛大学・九州大学らの共同研究チームが、自然環境の中で銅を“鉱石レベル”まで濃縮してしまう微生物を発見しました。

しかもこの微生物は、化学薬品や有機物を必要とせず、自然の代謝だけで銅を集めてしまうというのです。

研究の詳細は2025年11月30日付で科学雑誌『Environmental Microbiology』に掲載されました。

目次

  • 鉱山跡地で起きていた「異常な銅の集積」
  • 銅を集める正体と、その驚くべき能力

鉱山跡地で起きていた「異常な銅の集積」

研究の出発点は、国内の銅鉱山跡地で見つかった奇妙な現象でした。

中性pH(水素イオン指数)の排水中で鉄の沈殿物が形成され、その固体に銅が最大約2重量パーセントという極めて高い濃度で集積していたのです。

この濃度は、世界の銅鉱石に含まれる平均的な銅濃度(約0.7重量パーセント)を大きく上回ります。

単なる化学反応や物理的な吸着だけで説明するのは困難で、研究チームは微生物の関与を疑いました。

遺伝子解析によって調べたところ、現場では鉄酸化細菌と呼ばれる微生物群が圧倒的に優占していました。

鉄酸化細菌は、鉄(II)を酸化してエネルギーを得る微生物で、その過程で鉄(III)酸化物という沈殿を作ります。

問題は、このグループの多くが「難培養性」で、実験室で増やすことが極めて難しい点でした。

そのため、どの微生物が、どのように銅を濃縮しているのかは、長らく不明だったのです。

銅を集める正体と、その驚くべき能力

そこでチームは、現場の水質条件を細かく再現した独自の培養法「カスタマイズ培地法」を開発しました。

この方法により、現場で最も多く存在していた鉄酸化細菌とほぼ同じ系統の微生物を、世界で初めて純粋分離することに成功しました。

分離されたのは、Sideroxyarcus属に属する新規の鉄酸化細菌(TK5株)です。

純粋分離に成功した鉄酸化細菌の電子顕微鏡写真/ Credit: 愛媛大学- 銅を“鉱石レベル”まで高濃縮する新規微生物を発見 (2025)

実験室での試験では、この微生物が鉄を酸化すると同時に、生成した鉄(III)酸化物に銅を強固に吸着させ、銅を百分率レベルまで濃縮することが確認されました。

さらに驚くべきことに、この細菌は銅に対して非常に高い耐性を持っていました。

多くの微生物にとって銅は猛毒ですが、この分離株は日本の中性鉱山排水に含まれる濃度を大きく上回る銅濃度でも増殖可能だったのです。

ゲノム解析からは、銅を細胞外へ排出する複数の遺伝子群を備えていることも分かりました。

つまりこの微生物は、銅を集めながら、同時に銅から身を守る仕組みを持っているのです。

加えて、この細菌は二酸化炭素を唯一の炭素源とする独立栄養性微生物でした。

外部から有機物を与えなくても、鉄の酸化反応だけで生育し、銅を固定できることを意味します。

微生物が切り開く、新しい銅資源のかたち

今回の研究は、自然界で起きていた「異常な銅濃縮現象」の正体を、微生物の働きとして初めて実証しました。

しかもそのプロセスは、化学薬品や大量のエネルギーを必要としない、カーボンニュートラル型の代謝によって成り立っています。

銅資源の制約が強まる将来に向けて、こうした微生物を利用した回収技術は、環境負荷を抑えた新しい選択肢になる可能性があります。

鉱山跡地で静かに働いていた微生物は、次世代の資源循環を支える存在になるのかもしれません。

参考文献

銅を“鉱石レベル”まで高濃縮する新規微生物を発見
https://www.ehime-u.ac.jp/data_relese/pr_20251212_agr/

元論文

Percent-Level Copper Mineralisation Promoted by Copper-Tolerant Iron-Oxidising Bacteria in Circumneutral Mine Drainage
https://doi.org/10.1111/1462-2920.70212

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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