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おたまでもヘラでもない…料理のプロが「これ一択」と認める無印良品のシリコーンキッチンツール

  • 2025.12.21

無印良品のシリコーン調理器具シリーズが好調である。料理のプロから「使いやすさでこれ一択」と評価される秘密はどこにあるのだろうか。生活史研究家の阿古真理さんが取材した――。

調理が楽しくなる道具とは

毎日使うものだからこそ、キッチンツール選びは難しい。炒め物や煮物で活躍するヘラもそんなツールの一つ。

鍋の中で素材を混ぜやすいか、そうでないか。完成した料理を皿によそいやすいか、そうでないか。お手入れがラクかどうか。長持ちしそうかどうか。同じような形状のヘラでも重さや素材、サイズが少しずつ違い、選ぶのに苦労する人は多いのではないか。

「目指す硬さと最適なしなり具合を再現するため何パターンも試作品を作りました」と語る良品計画生活雑貨部の野瀬知美さん(左)と木柄のシリコーンスプーンシリーズ(右)
「目指す硬さと最適なしなり具合を再現するため何パターンも試作品を作りました」と語る良品計画生活雑貨部の野瀬知美さん(左)と2024年に発売した木柄のシリコーンスプーンシリーズ(右)

木柄のシリコーンスプーンシリーズ:
(左)「木柄 シリコーン スリムスパチュラ」690円
(中)「木柄 シリコーン ターナースプーン」790円
(右)「木柄 シリコーン 調理スプーン」790円

柄の長さや厚さが違えば、持ちやすさが変わる。素材が違っても、扱いやすさや耐久性が変わる。一見ささやかな違いが、くりかえし使っていくうちに料理が楽しくなることへつながることもあれば、逆に苦手意識へつながる場合もあり得るのが、キッチンツールの難しいところだ。

そんな中、台所の担い手の間でとても評価が高いのが、無印良品のシリコーン調理器具シリーズである。シリーズの商品にはもちろんヘラ(スパチュラ)もあるが、特に注目を集めているのはヘラ代わりに鍋でかき混ぜる際に使え、器によそう際にも重宝する「シリコーン調理スプーン」である。

料理家やレシピ本編集者の中には、「ヘラを選ぶなら、これ一択だよ」と主張する人までいる。SNSにも「スプーンが絶妙な深さと角度で、料理をすくいやすい」といった喜びの声が、投稿されている。そこで、無印良品を展開する良品計画生活雑貨部でハウスウエアの開発に携わる野瀬知美さんに、シリコーン調理スプーンを含むシリコーン調理器具シリーズについて聞いた。

なぜ前年比170%も伸びているのか

「シリコーン調理器具は2024年9月~2025年2月の秋冬シーズンに品ぞろえを見直し、ナイロン素材だったターナー(フライ返し)やレードル(お玉)もシリコーン素材に切り替えるなどしました。現在、サイズ違いなども含め22種類を展開しています。品揃えの見直しを行い、新商品が追加になったこともあり、2024年の秋冬期は前年同時期に比べて売上金額が170%増となり、25年の秋冬も2024年に比べ120%の見込みと大きく伸長しています」と野瀬さん。

最初に、無印良品でシリコーン調理器具を発売したのは2006年で、スパチュラ(ヘラ)だった。シリコーン調理スプーンは、ジャムスプーンとスクレーパー(食材や汚れをはがし取るヘラ状の道具)と同時で2009年の発売。

当時、シリコーン素材に注目した理由を、野瀬さんは「よく売られているのはナイロン製やステンレス製のキッチンツールでしたが、調理器具を傷つけてしまう、鍋底に残った料理を最後まですくいきれない、といったお悩みを抱える方が多かった。適した素材を探す中で、耐熱性、弾力性に優れたシリコーンに行き着きました」と説明する。

2000年代半ばはル・クルーゼの鍋が流行した時期。ステンレス製のヘラを使うと、ホーロー製のル・クルーゼは鍋の中をうっかり傷つける恐れがあった。また、フッ素加工したフライパンでも同じく、コーティングした樹脂を傷つける可能性がある。ステンレス製のキッチンツールは、錆びにくくゴシゴシこすって洗え、長持ちするので今でも愛用者は多いが、繊細な道具とは残念ながら相性が悪い。

狙った硬さとしなり具合の再現性が生命線

それまで、日本の調理器具には製菓用のゴムベラはあったものの、使ううちに硬くなりやすい難点があり、シリコーン製はあまり見かけなかった。しかし、2010~2011年にかけて、電子レンジでもオーブンでも使えるシリコーン製の蒸し器が大流行。「その頃から、お客様の認知度も上がったような売れ方をしていました」と野瀬さん。

シリコーン樹脂はシリカ鉱石を主原料として、水やエタノールなどの成分を加え、高温下で複雑な化学反応をさせるなどしてできる生ゴム。耐熱性や防水性など、求められる性能に合わせて製品を作ることができる。加工の仕方や配合で調整しやすい分、製品作りの最適解に至るまでが難しい。

先端のしなり具合が最適になるように工夫されている(左)。ケーキの生地などもすくいやすい(右)
先端のしなり具合が最適になるように工夫されている(左)。ケーキの生地などもすくいやすい(右)

「目指した硬さと、最適な先端のしなり具合を再現するため、何パターンも試作品を作りました。厚みや重さも、使いやすさに関わります。品質試験を行い、さらに社内モニターで、複数人の生活者視点で使い勝手についてヒアリングするところに時間をかけました。自分にとって使いやすくても、他の人にとってはそうでもない場合がありますから。商品や部位によって求められる硬さが違うので、スパチュラは少し柔らかくしましたが、少し硬めに仕上げた製品もあります」と説明する野瀬さん。

もう一つ気になるのは、シリコーン調理器具シリーズが黒一択で、カラーバリエーションがないこと。確かに近年、キッチンもモノトーンが流行し、黒いキッチンツールはモダンなキッチンに似合うが、シリーズの発売当初の2006年はまだ、黒いキッチンは流行っていなかった。それどころか、黒いキッチンツール自体があまりない時代だった。

商品ラインナップを黒色に統一した理由

「真っ黒なキッチンツールが世の中にあまりなかった当時、チャレンジングなところは確かにありました。長く使っていただきたいので、お手入れに気を使わなくても良い色にしよう、と黒を選んでいます。当社の大人気商品に、ウレタンフォーム三層スポンジがあるのですが、こちらは白とグレーのみ。先に発売した白は、替え時が分かりやすいよう、あえて汚れが目立つ色に決めましたが、「汚れが気になる」などお客様からのご要望が多くグレーを追加しました。お客様から『毎日使うものだからキッチンに置いておきたいけれど、市販品に多いピンクや黄色、緑は好みじゃない』といった声も多かったので、シンプルな色を選んだ側面もあります。いずれの場合も、機能性を重視した結果、モノトーンに落ち着きました」と説明する。

シリコーン調理器具については2024年春から秋にかけて、木製の柄がついた調理スプーン、ターナースプーン、スープスプーン、スリムスパチュラ、立てられるしゃもじの5種類を発売した。

バリエーションを増やした理由を「住宅の狭小化の影響もあり、汎用性が高くいろいろな使い方をできる道具が求められています。最近はまた、卓上調理のシーンが多くなってきておりまして、卓上に出すことを念頭に置けば、黒一色より木製の柄がついているほうがよいのではないか、と開発しました。食器売り場でもテーブルコーディネートと一緒に提案させていただいており、『テーブルとなじみがよい』『通常の調理スプーンより軽くて使いやすい』といった声も寄せられています」と説明する野瀬さん。

時代はシリコーン製が主流に

確かに最近は、テーブルに器として出せる鍋が人気になっている。狭いキッチンで厳選した道具を使う必要に迫られている人や、少しでも家事の時間を減らしたい時短ニーズも、汎用性が高いキッチンツールの追い風となっているようだ。今、同社のキッチンツールの売れ行きは、シリコーン製6に対しステンレス製が4の割合で、すっかりシリコーン製が主流になった。

「シリコーン レードル」小390円 大590円【左】。「シリコーン 調理スプーン」スモール390円/レギュラー490円【右】。
「シリコーン レードル」小390円/大590円(左)。「シリコーン 調理スプーン」スモール390円/レギュラー490円(右)。

黒一色のシリコーン調理器具は、食洗機でも洗えるが、天然素材である木製の柄がついた製品は、食洗機に入れること、長く水に漬けておく、太陽光に長時間晒すことがNGだ。こちらを選んだ人は、手で洗い、できるだけ早く水分を拭き取って収納しよう。

私も木製の柄がついた「木柄シリコーン調理スプーン」を買ってみた。テーブルに置くときに違和感がない長さとして、柄を含む全長は26センチになっている。以前から使っている木製のヘラより5センチほど短いので、炒め物などの際は少し熱さを感じた。しかし、お菓子やカレーなど粘性が高い料理は、隅々まですくい取れるので無駄なく使えて便利だった。

長く使える製品開発をしてきた無印良品の製品は、海外でも人気が高い。店舗面積が広めなこともあり、売り上げ規模は国内のほうが大きいが、店舗数では東アジアや欧米を合わせた海外が約700店、国内が600店強と海外が上回っている。新宿などの都心の店ではインバウンドらしい外国人の客も見かける。特に東アジア圏の観光客のお土産需要が大きいそうだ。

これまで、鍋をかき混ぜるのは平らなヘラの類、料理を盛り付けるのはお玉が一般的だった。しかし調理スプーンはその両方を兼ねるので便利だ。そして、シリコーン製はしなるので使いやすい。だから無印良品のシリコーン製調理スプーンの人気が高いのだと思われる。

もしかすると、他社も次々と類似商品を開発していき、鍋で使うキッチンツールはそのうち、シリコーン製の調理スプーンという選択が一般的になっていくかもしれない。

※参考価格を記載しています。

阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。

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