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自信満々のズレ(ダニング=クルーガー効果)は、わりと遺伝するようだ

  • 2025.12.19
Credit:Canva

アメリカのシンシナティ大学(UC)などの研究者による研究によって、ダニング=クルーガー効果でも重要な自己評価と実際の知能の点数のズレには、遺伝要因の影響が意外に強く関わっている可能性が示されました。

研究では双子920人が調べられており、個人の自己評価と客観点数のズレのばらつき(個人差)のうち約44%が遺伝的要因で説明できる可能性があると述べられています。

もし能力(才能)そのものに加えて、ダニング=クルーガー効果でよく注目される自己評価と実際の点数の間のズレという要因までもが遺伝の大きな影響を受けているなら「自信も遺伝」と言えるのでしょうか?

研究内容の詳細は『Intelligence』にてオンライン公開されました。

目次

  • ダニング=クルーガー効果が語る「自信のズレ」
  • ダニング=クルーガー効果の「自信のズレ」は44%が遺伝のようだ
  • 自信のズレは遺伝子の影?

ダニング=クルーガー効果が語る「自信のズレ」

知能とダニング=クルーガー効果
知能とダニング=クルーガー効果 / 今回の研究でも、中央の0を挟んで、低IQ群は右側(過大評価)にあり高IQ群は左側(過小評価)によっていることがわかります。/Credit:Heritability of metacognitive judgement of intelligence: A twin study on the Dunning-Kruger effect

有能なのに自分に自信が持てない人もいれば、まだ経験が浅いのになぜか自信満々に見える人もいます。

心理学では、こうした「自分の能力の自己採点」と「実際の能力」のズレをめぐる代表的な考え方として、ダニング=クルーガー効果(Dunning-Kruger effect)がよく挙げられます。

能力や知識が低い側ほど自分の出来を実力以上に見積もりやすく、その背景には「そもそも出来ないこと」だけでなく「自分が何を分かっていないかに気づきにくい」という二重の不利がある、と説明されます。

一方、能力が高い人は「周りの人も同じくらい出来るはず」と考えて相対的な位置づけを低めに見積もる場合があるとされています。

実際、ダニング=クルーガー効果が確認された場合は、おおむね「下位は上に大きく外れやすく、上位は下に大きく外れやすい」という“方向”が現れます。

これにより「低実力の人が点数を高めに多く間違いやすく、高実力の人が低めに多く間違いやすいのだから、それらは過剰評価と過小評価なのでは?」という解釈が成り立ちます。

では、この“自信のズレ”はいったい何によって生じているのでしょうか?

多くの人は、こうした自己評価のクセは教育や経験など後天的な影響で培われるものだと考えるでしょう。

しかしもし生まれつき「自信過剰になりやすい」「逆に自信を持ちにくい」気質が遺伝で左右されているとしたら…?

そこで今回、研究者たちは双子を対象にこの謎に切り込み、「自分の知能に対する自信のクセ」に遺伝要因がどの程度関与しているのかを確かめることにしました。

果たして能力だけでなく、こうした「自信のズレ」の個人差にも生まれつきの影があるのでしょうか?

ダニング=クルーガー効果の「自信のズレ」は44%が遺伝のようだ

ダニング=クルーガー効果の「自信のズレ」は44%が遺伝のようだ
ダニング=クルーガー効果の「自信のズレ」は44%が遺伝のようだ / Credit:Canva

まず研究チームは、米国の大規模縦断調査データから双子920人分(一卵性双生児388人、二卵性双生児532人)を抽出しました。

一卵性双生児は遺伝情報を100%共有し、二卵性双生児は平均して50%程度共有するため、両者を比較すれば形質に対する遺伝と環境の影響を推定できます。

参加者それぞれに「自分は同年代の中でどれくらい賢いか?」といった質問で自らの知能スコアを自己申告してもらい、続いて客観的なテストによって知能指標を測定しました。

結果、今回の研究でも、平均的に低IQ群は自己評価が実測より高め(過大評価)に寄り、高IQ群は低め(過小評価)に寄る傾向が見られました。

問題はここからです。

一卵性双生児と二卵性双生児の分析から自己評価と実際の点数のズレ(ばらつき)について、遺伝子がどれほど影響しているかが調べられたところ約43〜44%が、遺伝的要因で説明できると推定されました。

この結果は、ダニング=クルーガー効果でよく注目される指標である自己評価と実際の点数の差が、遺伝的要因の影響も受けている可能性を示しています。

DKE(ダニング=クルーガー効果)の効果量
DKE(ダニング=クルーガー効果)の効果量 / 図 は横軸が Objective IQ(客観IQ)、縦軸が 「LOESS(局所平滑化)で予測した値 − 線形回帰で予測した値」という“予測値同士の差”で、著者はこれを 「効果の大きさ(magnitude)」としてプロットしています。形としては、低IQ側でプラスが大きく、いったん0付近〜マイナス側へ沈み、その後また高IQ側でプラス側へ戻るようなカーブになります。平均としては平均的に低IQ群は自己評価が実測より高め(過大評価)に寄り、高IQ群は低め(過小評価)によりますが、高IQの右側では過大評価が現れるという興味深い結果が得られています。/Credit:Heritability of metacognitive judgement of intelligence: A twin study on the Dunning-Kruger effect

平たく言えば、知能(頭の良さ)という「エンジン」が遺伝によって影響される部分があるように、「自分はどれくらいできるのか」という感覚=心の中の「スピードメーター」の値も、ある程度は生まれつき左右されるのかもしれません。

さらに興味深いことに、遺伝の影響の出方は知能水準によって異なることも分かりました。

IQが低いグループでは、遺伝の影響が占める割合は約31%程度でしたが、最もIQが高いグループではその割合が約75%にも跳ね上がったのです。

ここでいう「31%」や「75%」という数字は、「自信のズレがどれくらい大きいか」ではなく、ズレの中で遺伝的要因の影響が占める割合です。

つまり、知能が高い人たちのあいだでは、「自分の実力をどう感じるか」という感覚のばらつき(個人差)のうち、遺伝的要因で説明される割合がとても大きかったわけです。

自信のズレは遺伝子の影?

自信のズレは遺伝子の影?
自信のズレは遺伝子の影? / Credit:Canva

今回の研究により、本研究は「自信の錯覚」の遺伝的要因という未知の領域に研究者たちの知る限り初めて光を当て、重要な一歩を示しました。

言い換えれば、「自分はどれほど賢いか?」という自己評価の仕方そのものに、私たちの生まれ持った設計図(DNA)が影響を及ぼしているかもしれないのです。

研究者らは、もしこのズレがメタ認知(自分の理解を点検する力)を反映しているのだとすれば、ダニング=クルーガー効果が単なる統計上の錯覚とだけは言い切れない可能性を支える、と述べています。

自分の能力を誤って評価してしまうのは一見ただの勘違いのようですが、その裏には遺伝的な要因が潜んでいる可能性があるというわけです。

この発見は、「自信は後からついてくるもの」という私たちの直感に一石を投じるものです。

生まれつき自信を持ちやすい人・持ちにくい人が存在するとなれば、「自分に自信がないのは気持ちの持ちようが悪いせいだ」といった精神論だけでは言い切れないからです。

例えば、何度失敗してもめげずに「自分はできる」と思える人もいれば、どれほど成功しても「自分はまだ足りない」と感じてしまう人もいます。

その違いには、努力や環境だけでなく先天的な気質が関わっているかもしれない――そう考えると、他人に対しても自分に対しても、安易に「自信がないのは甘え」などと決めつけずもう少し優しく接するべきかもしれません。

今後は知能以外の能力分野にも対象を広げたり、人生のさまざまな時期に自己評価がどのように変化し、遺伝要因と環境要因に影響されるかを追跡したりすることで、この現象の理解がさらに深まることが期待されます。

もしかしたら未来には、一人ひとりが生まれ持った“自信メーター”の特性に合わせて、自信過剰や自信不足を補正する教育・トレーニングが提供されるようになるのかもしれません。

自分の「自信」という心のクセまで遺伝と向き合う時代が、いつか訪れるかもしれないのです。

元論文

Heritability of metacognitive judgement of intelligence: A twin study on the Dunning-Kruger effect
https://doi.org/10.1016/j.intell.2025.101931

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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