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才能ある若者の育て方が判明【特化すべきか、色々やらせるべきか】

  • 2025.12.19
世界トップパフォーマーになるための「教育方法」とは? / Credit:Canva

ノーベル賞受賞者、オリンピックメダリスト、世界トップのチェスプレイヤー。

このような、世界で活躍するトップパフォーマーへと若者を育てていくには、どんな方法が適切なのでしょうか。

幼い頃から一つの分野に集中させ、才能を徹底的に磨く方法が良いのでしょうか。

それとも、複数の分野を経験させ、可能性を広げるほうが良いのでしょうか。

この長年続いてきた議論に対し、ドイツ、カイザースラウテルン・ランダウ大学(RPTU)の研究チームが、これまでの常識を揺るがす答えを示しました。

この研究は、科学、音楽、スポーツ、チェスといった分野で世界最高峰に到達した人々の発達過程を大規模に再分析したものです。

その成果は、2025年12月18日付で学術誌『Science』に掲載されました。

目次

  • 「神童」と「大人になってからの世界のトップパフォーマー」は、そのほとんどが別人だった
  • 世界トップの人々は、若いころに「多分野の経験」をしていた

「神童」と「大人になってからの世界のトップパフォーマー」は、そのほとんどが別人だった

これまでの教育現場や英才教育プログラムでは、比較的一貫した考え方が採用されてきました。

それは、若い頃に優れた成績を示すこと自体が、将来の成功を示す重要なサインであるという前提です。

学校成績が突出している子どもや、若年大会で好成績を収める選手、幼少期から高度な演奏技術を示す音楽家の卵などが、早い段階で選抜されてきました。

そして、その分野に特化した訓練を集中的に行うことで、才能を最大限に伸ばせると考えられてきたのです。

この発想の背景には、若年層や学生、若手選手を対象とした研究で、早期の高成績や大量の専門的練習が、その後の成績と関連していると示されてきたことがあります。

多くのエリート校や音楽院、スポーツアカデミーが、こうした研究結果を根拠に育成制度を設計してきました。

しかし、RPTUの研究チームが問題視したのは、こうした従来研究の対象そのものでした。

多くの研究は若年からサブエリート層を中心に行われており、成人期に世界トップへ到達した人々が、若い頃にどのような発達をしていたのかは、ほとんど検証されていなかったのです。

本当に、若い頃に優れていた人が、そのまま世界最高峰に到達しているのでしょうか。

若年期の成功要因は、成人期の世界トップも予測できるのでしょうか。

この根本的な疑問に答えるため、研究チームは新たな実験ではなく、既存研究の体系的な再分析に取り組みました。

研究チームが統合したデータは、34,000人以上に及びます。

対象となったのは、ノーベル賞受賞者、著名なクラシック音楽作曲家、オリンピックメダリスト、世界トップレベルのチェスプレイヤーなど、その分野で疑いなく最高水準に達した人物たちです。

重要なのは、科学、音楽、スポーツ、チェスという異なる領域を横断して分析した点です。

その結果、分野を超えて共通する発達パターンが明確に浮かび上がりました。

最も衝撃的な発見は、若い頃に優秀だった人と、成人期に世界トップへ到達した人は、ほとんど同一人物ではなかったという点です。

たとえば、若年期に世界トップ10に入っていたチェスプレイヤーと、成人期に世界トップ10に到達したプレイヤーを比べると、約90%が別人でした。

同様の傾向は、学業成績やスポーツ競技でも確認されています。

これは単に途中で脱落した人が多いという話ではありません。

若年トップ層と成人世界トップ層は、同じ人がそのまま成長したというより、異なる発達の道筋をたどっていたと考えられるのです。

もう一つ重要なのは、世界トップに到達した人々の多くが、若年期に突出した成績を示していなかった点です。

ノーベル賞受賞者や世界的音楽家、オリンピック王者の多くは、若い頃に同世代で目立つ存在ではありませんでした。

論文では、「成人期のピークの高さと、若い頃の成績を比べると、成績が早く高かった人ほど、必ずしも最終的な頂点に到達していない傾向が見られた」と報告されています。

早くから目立つこと自体が、最終的な頂点に届くかどうかを正確に示す指標ではないという傾向が、分野を超えて共通していたのです。

そしてこの研究はもう1つの重要な知見も与えてくれました。

世界トップの人々は、若いころに「多分野の経験」をしていた

研究がさらに明らかにしたのは、若年期の成功と結びつく要因の傾向と、成人期の世界トップと結びつく要因の傾向が、大きく異なっていたという点です。

若年期に高い成績を示す人は、単一分野に多くの時間を投入し、他分野の経験が少なく、初期に急速な成長を示す傾向がありました。

一方で、成人期に世界トップへ到達した人は、若い頃に複数の分野を経験し、専門化は比較的遅く、成績の伸びも緩やかでした。

これらの特徴は偶然にばらついて現れたのではなく、互いに強く結びついた一つの発達パターンとして確認されています。

論文では、この違いを説明するために、断定を避けながら3つの仮説が提示されています。

1つ目は、多様な経験を通じて、自分に最も適した分野を見つけやすくなるという「探索と適合」の仮説です。

2つ目は、異分野での学習経験が、学び方そのものを豊かにし、その後の専門的学習を支える仮説です。

3つ目は、燃え尽きや怪我、興味喪失といったキャリアを妨げる要因を抑えるという仮説です。

これらはいずれも、観察された事実を理解するための理論的な枠組みとして提示されており、結論として断定されたものではありません。

また、この研究は、早期教育や専門化そのものを否定しているわけではありません。

努力や訓練の価値を否定しているわけでもありません。

示しているのは、若年期の成績や早期専門化を、そのまま成人期の世界トップ予測に用いるのは科学的に正確ではないという点です。

この研究が示した核心は、世界トップを生む鍵が、早く結果を出すことではなく、長期的に適合し、成長し続けられる発達の道筋にあるという点です。

今後、教育や才能育成の現場では、短期的な成績だけで可能性を狭めるのではなく、より長い時間軸で若者を支える視点が求められるでしょう。

才能は早く咲くか遅く咲くかで価値が決まるものではありません。

若者たちにとって重要なのは、時間をかけて成長し続けられる道筋だったのです。

参考文献

Are talented youth nurtured the wrong way? Top performers develop differently than assumed, says study
https://phys.org/news/2025-12-talented-youth-nurtured-wrong-differently.html

Is talented youth nurtured the wrong way? New study shows: top performers develop differently than assumed
https://www.eurekalert.org/news-releases/1110493

元論文

Recent discoveries on the acquisition of the highest levels of human performance
https://doi.org/10.1126/science.adt7790

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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