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退屈は「うま味のない人生」に見切りをつける信号として進化した可能性がある

  • 2025.12.19
退屈は「うま味のない人生」に見切りをつける信号として進化した可能性がある
退屈は「うま味のない人生」に見切りをつける信号として進化した可能性がある / Credit:Canva

あまりうま味のない人生を送っている個体は自分を大切にするような長期投資をするより、若いうちに子供をつくるなど早め早めの成果を目指したほうが有利だ――というのは一見するとかなり酷く冷酷に思えます。

そんなことを親や友人から言われたら、絶交する人がほとんどでしょう

しかしこの冷酷な理論の示す傾向は多くの生物の進化において目撃されている現象でもあります。

そこで今回韓国科学技術院(KAIST)と高麗大学(Korea University)で行われた研究によって、この冷酷な理論が人間にも当てはまるかが調べられました。

研究では意外なことに、この理論が「退屈」というキーワードで説明できることが示されています。

なぜ退屈が人生に見切りをつけるような、冷酷な理論に関係するのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年(1〜3月号)に『Evolutionary Psychology』にて発表されました。

目次

  • 冷酷な理論が人間にも当てはまるのか?
  • 退屈は「冷酷な理論」に沿うような生き方を強める

冷酷な理論が人間にも当てはまるのか?

冷酷な理論が人間にも当てはまるのか?
冷酷な理論が人間にも当てはまるのか? / Credit:Canva

「退屈」という感情は不思議なものです。

暇を持て余してスマホをダラダラとスクロールしてしまう夜、更に何か刺激を求めてしまうのは、誰しも心当たりがあるでしょう。

多くの人にとって退屈は「やることがない不満」に過ぎませんが、科学者たちは退屈が進化の産物かもしれないと考え始めています。

ここで言う退屈とは「つまらないと感じる」だけでなく「見切りをつける」という態度も含まれています。

例えばランダム要素が強いゲームを思い出してください。

通常、何が起こるかわからないゲームはギャンブルのようにワクワクして退屈の対極にあるように思えてきます。

しかしイベントは派手で刺激的でも、「今の行動が報われる見通しが立たない」「どこを掘っても手応えが薄い」状態が続くと、人は“ワクワク”ではなく「別のルート探そう」「別のゲームに移ろう」という落ち着かない不快感を持ちます。

こうした感覚も、これもまた「退屈」の1つの形だと言えるでしょう。

報われないギャンブルに見切りをつけて、別のことをしようとするのも、退屈の重要な機能と考えられます。

実際、論文においても予測不能な環境で同じ場所に留まるコスト(機会損失:他の選択肢を失う損)が大きくなりやすいときに、押し出すための心理的な仕組みとして「退屈」が存在する可能性があると述べています。

ですが論文ではこの「見切りをつける」という部分をもう少し大きいスケール――つまり人生全体に広げた理論を提示しています。

人は日々の暇つぶしだけでなく、時間や体力やお金といった限られた資源を、勉強や健康などの“長期の自己投資”に回すのか、それとも今すぐ手に入る成果に回すのかを、いつもどこかで選んでいます。

もし環境が不安定で「この先どうなるか分からない」度合いが高いなら、長期投資にかけた分が報われないリスクも増えます。

その場合は長期的な取り組みを「退屈」の仕組みで放棄して、より刹那的な生き方をしたほうが、最終的に得るものが大きくなり得ます。

研究者たちはこのような退屈の仕組みを「生物が一生の配分をどう決めるかという理論(ライフ・ヒストリー理論)」という生命の進化レベルの理論の中に組み込めると考えています。

ライフ・ヒストリー理論+退屈
ライフ・ヒストリー理論に退屈の概念を組み込むと「先が保証されない環境では、長期の自己投資に賭ける価値が下がり、早めに繁殖や短期成果へ資源を振り分ける方が“平均として”子孫を残しやすい。その切り替えを内側から押す信号として、退屈が頻繁に立ち上がる可能性がある」という視点が新たに得られます。

より砕けた言い方をするなら「あまりうま味のない人生を送っている個体は自分を大切にするような長期投資をするのではなく、若いうちに子供をつくるなど短期成果を目指したほうが有利だ」となるでしょう。

もしこの冷酷な理論が人間にも当てはまるのならば、退屈を感じている人々の生き方にも、この理論に沿った特徴的なパターンが現れる可能性があります。

そこで今回研究者たちは退屈の感じやすさと人生戦略にどのような関係があるかを調べることにしました。

退屈は「冷酷な理論」に沿うような生き方を強める

退屈は「冷酷な理論」に沿うような生き方を強める
退屈は「冷酷な理論」に沿うような生き方を強める / Credit:Canva

退屈の感じやすさと人生戦略にどんな関連があるのか?

答えを得るため研究チームはまず大学生97人を対象に予備調査を行い、続いて年齢・職業の異なる成人298人を本調査しました。

さらに研究チームは、既存の国際データを用いて国レベル(15カ国)の退屈傾向と人生戦略の関係も分析しました。

国民の平均的な退屈しやすさと、各国の平均寿命や出生率、思春期の出生率(15〜19歳の出生率)などの統計指標との関連を見ることで、退屈と「国民の人生の速さ」に相関がないか確かめたのです。

その結果、退屈しやすい人ほど「速い人生戦略」に明確に傾いていることが関連として示されました。

例えば、退屈傾向が高い人たちは、長期的な目標よりも今この瞬間の満足を優先しがちであり、将来への備えより目前のリターンを重視する回答傾向が強かったのです。

さらに興味深いことに、「幼少期の親のサポート不足(経済的・情緒的な資源の乏しさ)」→「速い人生戦略の獲得」→「大人になって退屈しやすくなる」という連鎖が示唆されました。

これは、「子どもの頃に親の支援や資源が少ないと感じる環境で育つと、生き急ぐ戦略が身につき、その副産物として退屈しやすい性格が形成される」という仮説と合致します。

そして極めつけは、このパターンが複数の国々でも顔を出したことです。

15カ国を比較した分析によれば、退屈傾向が高い国ほど、「平均寿命が短い」「出生率が高い」「思春期の出産に関する指標」とも関連が観察されました。

例えば退屈しやすい国民性と推定された国々では、平均寿命が相対的に短く、10代での出産に関する指標とも関連が見られました。

これらはいずれも生活史理論でいう「速い戦略」の特徴であり、退屈しやすい社会環境では人々が早めに動く生き方を選びやすいことを示唆する結果です。

以上の結果は「あまりうま味のない人生を送っている個体は自分を大切にするような長期投資をするのではなく、若いうちに子供をつくるなど短期的な成果を目指したほうが有利だ」という進化理論が人間にも当てはまる可能性を示しています。

冷酷さが透けて見えるようですが、むしろその冷酷さこそが進化論的フレームの持ち味です。

コラム:冷酷な進化理論を個人に当てはめてはいけない
ただ注意すべき点として、これは個人に向けての理論ではないという点です。あくまでも「そういう反応が“生き残りの計算”として有利に働き得る」という種レベルの傾向に過ぎません。そのため今現在、望みの薄い退屈な状況であっても、出産を急いだり、自己投資をカットする必要はありません。
・#いのちSOS:0120-061-338(24時間・無料)
・よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)※IP電話 050-3655-0279/岩手・宮城・福島 0120-279-226
・いのちの電話:0120-783-556(毎日16時〜21時/毎月10日は8時〜翌8時・無料)/ナビダイヤル 0570-783-556(10時〜22時)

本研究は退屈という身近な感情に進化という壮大な視点を持ち込み、その機能的な一面を示した点で画期的です。

今後は、退屈を感じてもそれを建設的な行動に移せる人と破壊的な行動に走る人の違い(例えば「退屈への耐性」や「衝動のコントロール力」など)が研究されるかもしれません。

退屈のポジティブな活用法が見つかれば、刺激過多な現代においても私たちの行動選択をより良い方向に導けるでしょう。

もしかしたら未来の世界では、「退屈」は進化からの重要なメッセージとして解釈され、環境の変化に応じて行動を切り替えるための賢い原動力になっているのかもしれません

元論文

Pace of Life Is Faster for a Bored Person: Exploring the Relationship Between Trait Boredom and Fast Life History Strategy
https://doi.org/10.1177/14747049241310772

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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