「イルミネーションも俺の税金だろ」と役所で怒鳴る男。だが、職員が告げた事実に恥をかいた話【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

私が市役所の市民課で働いていた冬のある日のことです。

年末で慌ただしい窓口に、一人の男性が怒鳴り込んできました。

彼は駅前で開催されているクリスマス・イルミネーションのポスターを指差し、顔を真っ赤にして叫びました。

「おい！なんだこれは！景気が悪いこのご時世に、こんなピカピカした電飾に金を使ってる場合か！」

「俺たちが必死に納めた税金を、こんな遊びに使われたらたまらないぞ！電気代だってタダじゃないんだ。今すぐ中止して、その金を福祉に回せ！」

窓口の若い職員がなだめようとしますが、男性はヒートアップするばかり。

「これが公務員の無駄遣いだ」「俺の血税を返せ」

と、周りの利用者が眉をひそめるほどの大騒ぎになりました。

私は奥から出て行き、対応を代わることにしました。

私は男性の目をまっすぐ見て、冷静に、かつハキハキと説明を始めました。

「お客様、貴重なご意見ありがとうございます。ですが、一つ大きな誤解がございます」

男性は「あ？何が誤解だ！」と食ってかかりますが、私は続けました。

「駅前のイルミネーションですが、実は『市税』は一円も使われておりません。あのイベントは、地元の商店街組合の皆様が『暗い夜道を明るくして、子供たちを喜ばせたい』と自費で開催してくださっているものです。電気代も設備費も、すべて商店街の方々のポケットマネーと、一般の募金で賄われているんですよ」

その瞬間、男性の口がポカーンと開きました。

「え……？いや、でも、駅前でやってるじゃねえか……」

「はい。市は場所の使用許可を出しているだけです。つまり、お客様の税金が無駄遣いされている事実はありませんし、むしろ中止を求めるなら、商店街の方々に直接言っていただくことになりますね」

周囲のお客様からは

「なんだ、ただの勘違いか」

「商店街の人に失礼よね」

というヒソヒソ声が聞こえてきます。
振り上げた拳のやり場を失った男性は、顔を耳まで真っ赤にして、

「そ、そうか……ならいいんだ」

と捨て台詞を吐き、逃げるように帰っていきました。

文句を言うなら、まずは事実確認をしてからにしてほしいものです。

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