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【50代のための上方伝統芸能】笑いのパワーで元気になれる!上方落語〈案内人:噺家・桂吉坊さん〉

  • 2025.12.13

こんにちは、奈良在住の編集者・ふなつあさこです。皆さんは、歌舞伎やお能、狂言、落語、文楽といった古典芸能をご覧になったことはおありでしょうか? お好きな方も多いとは思いますが、興味はあるけれど気後れしている方も少なくないのではないかと思います。

江戸時代には、江戸に対して、京都や大阪は「上方(かみがた)」と呼ばれていましたが、多くの古典芸能はその上方から生まれました。東京で生まれ育った私は、歌舞伎を中心に江戸の古典芸能に少しは親しんできましたが、関西で暮らすようになって「えー! 同じ古典芸能でも江戸と上方って結構違う!」とビックリしています。

今回は、なかでも「ちゃうな!」と感じた上方落語について、人気噺家・桂 吉坊(かつら きちぼう)さんの独演会に伺うとともに、その魅力をインタビューしてきました!

上方唯一の定席(じょうせき)「天満天神繁昌亭」へ

落語は、さまざまなホールや劇場でも行われていますが、一番その雰囲気を楽しめるのは「寄席(よせ)」(演芸=大衆芸能を上演する興行場)だと思います。なかでもほぼ毎日、落語を中心とする公演が行われているのが「定席」です。

東京の定席では、月の上旬に「上席(かみせき)」、中旬に「中席(なかせき)」、下旬に「下席(しもせき)」として、昼夜二部制で公演が行われていて、落語や漫才、奇術などさまざまな出演者が次々と登場することが通例です。

戦時中に空襲によって焼失して以来、上方の定席は長く途絶えていましたが、2006年に大阪天満宮の敷地内に開設されたのが天満天神繁昌亭です。大阪の夏を彩る「天神祭」は、「天満(てんま)の天神さん」と呼ばれて親しまれる大阪天満宮のお祭りです。

繁昌亭では、昼席は東京の寄席のようにたくさんの出演者の方々が次々と登場するスタイルで、夜や朝、深夜には独演会などの企画公演が行われていることが多いようです。

10月24日には、吉坊さんの独演会「坊ん倶樂vol.19」があり、そちらを聞きに伺いました。

落語の楽しみ方は人それぞれだと思いますが、初心者はまず「とりあえず行ってみる」がいいかもしれません。大阪旅行の際や、大阪でちょっと時間空いたぞ、というときに落語はうってつけ。お芝居だと最初から最後まで座ってるもの、というイメージがありますが、出入り自由なのが寄席の面白いところ。もちろん、最初から最後までいたっていいんですけどね。

ちなみに吉坊さんは、落語には縁もゆかりもない一般のご家庭で育たれたそう。「中学校の課題のためにラジオを録音しておいたんですが、時間を間違えて、たまたま録れていたのが、落語やったんです。聞いてみたら面白くて、そこから小遣い握って手当たり次第聞きにいくようになったんです」と吉坊さん。出会いはいつも突然。

そのとき聞いたのが、一世を風靡した噺家・桂米朝(べいちょう)師匠の「けんげしゃ茶屋」。後年、吉坊さんは桂吉朝(きっちょう)師匠に弟子入りし、3年ほど米朝師匠のご自宅に住み込みの内弟子修行も経験されています。運命ってすごい。

今年は米朝師匠生誕100年にあたり、繁昌亭では下旬に「桂米朝 生誕百周年記念ウィーク」、11月に「文化勲章受章 桂米朝 生誕百年記念月間」として米朝一門の面々を中心に構成された華やかな公演が行われるとあって、繁昌亭の場内には米朝師匠の懐かしいお写真が飾られていました。

舞台と客席が近いというより一体化 気づけばきっと笑ってる

前座で笑福亭喬龍(きょうりゅう)さんの「つる」ののち、いよいよ吉坊さんが登場。独演会の前に、桂米朝一門として昼席にも出演していたと話し始めます。昼夜の間に休憩するはずが、出演者に誕生日の人がいて楽屋でお祝いが開催され休むことなく独演会が始まってしまったそうで、疲れているとボヤキ節。

古典芸能だからといってかしこまっていると拍子抜けするかもしれませんが、落語の導入部分「マクラ」はたいがいそんなふうに実にゆる〜く始まります。吉坊さんのフレンドリーな笑顔に誘われて、気づけばクスクスッと笑っているんです。

途中、噺家さんがおもむろに羽織を脱いだら、話が本題に入った合図。この日の一席目は「花筏(はないかだ)」。上方落語の演目のひとつで、看板力士・花筏の地方巡業の替え玉に抜てきされた提灯屋の七兵衛さんのお話です。

当然ですが、登場人物は噺家さんがたった一人で演じ分けます。「ひぃがしぃ〜」と相撲の呼出を演じる吉坊さん。小道具は、扇子と手拭いだけ。このふたつがあれやそれやに七変化するのも、落語の楽しみです。

落語のオチに当たるのが、サゲ。これはなんとなくなんですが、上方落語の方が身振り手振りが大きいような気がします。吉坊さんも座布団から大きく膝立ちしてはりました。替え玉相撲の顛末(てんまつ)やいかに。

噺のなかに江戸時代の上方文化がギュッと凝縮

上方唄松浪流 家元、松浪千壽(まつなみ せんじゅ)さんと吉坊さんの対談、上方唄にうっとりしたあと、仲入り(=休憩)。お客さんたちはワイワイ楽しそうな雰囲気。まさにあったまってる状況。

そんななか、二席目は「稽古屋」。ここで登場したのが、上方落語でしか見かけない小さな机「見台」とその前に置かれた衝立「膝隠し」。見台には「小拍子」も置かれています(写真では、格子の間からの覗いているシーンの小道具としても活躍!)。

上方落語特有とはいえ、必ずしもどの演目でも登場するというわけではなく、音を出すのが主な目的だそうです。ちなみに、机のようなものは講談でも登場しますが、釈台といって、形などが違います。

落語には、江戸時代のさまざまな文化や芸能が詰まっています。「稽古屋」はモテたいがためにひとつぐらい芸事を身につけたいと稽古に行く男の話なので、お師匠さんの三味線の所作や唄なんかも習得せねばならないことになります。吉坊さんはさまざまな古典芸能に通じていて、日本舞踊などのお稽古もされているそうです。

兵庫県西宮市で生まれ、中学生で落語に出会い、どハマりした吉坊さん。高校へも行きたくなかったそうですが、たまたま新聞で見かけた芸能文化科のある府立高校に進学。学校が終わったら落語を聞いて回っているうちにいつしか顔を覚えられ、楽屋に出入りするようになり、休みに稽古をつけてもらえるように。高校卒業前には、桂吉朝師匠に入門し、3月には初舞台を踏みます。

そんな吉坊さんに、上方落語の魅力を聞いてみると、ちょっと困り顔。「ラジオで米朝師匠の落語聞いて、単純にめっちゃ面白かったんですよね」。つまり、ちょっとでも興味があったら、聞いてみればいいということなのかもしれません。吉坊さんは、大阪だけでなく東京でも落語会を開催しているので、ぜひ足を運んでみてください!

舞台写真撮影:佐藤 浩

この記事を書いた人

編集者 ふなつあさこ

ふなつあさこ

生まれも育ちも東京ながら、幼少の頃より関西(とくに奈良)に憧れ、奈良女子大学に進学。卒業後、宝島社にて編集職に就き『LOVE! 京都』はじめ関西ブランドのムックなどを手がける。2022年、結婚を機に奈良へ“Nターン”。現在はフリーランスの編集者として奈良と東京を行き来しながら働きつつ、ほんのり梵妻業もこなす日々。

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