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【ネタバレあり】笑いのための血しぶきに嘔吐…初心を忘れないサム・ライミ監督最新作『HELP/復讐島』をレビュー

  • 2026.2.10

絶海の孤島に流されサバイバルを余儀なくされる者たち…。

【写真を見る】無人島に流れ着いた2人…サム・ライミ印の死霊も登場する!?(写真は『死霊のはらわた』より)

古くはリナ・ウェルトミューラーの『流されて…』(74)やロバート・ゼメキスの『キャスト・アウェイ』(00)、最近ではリューベン・オストルンドの『逆転のトライアングル』(22)等々、そんな映画はこれまでたくさんつくられてきた。複数の人間がサバイバルする『流されて…』や『逆転のトライアングル』では、文明社会での立場が逆転し、使用人が王となり、雇い主が従者(というか奴隷?)になる。サム・ライミの4年ぶりの監督作『HELP/復讐島』(公開中)もそのジャンルに数えられ、同様のパターンを踏んではいるのだが、そこはライミ。数多の作品とは一線を画する“らしい”出来栄え。笑えて怖くて驚かされるサバイバルホラーになっている。

※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

孤島では財力は無意味!爽快感を生み出すクソ上司の転落

主人公は大手コンサル会社に勤める向上心も人一倍のリンダ。ライミの前作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(22)に続くキュートなレイチェル・マクアダムスが演じていることで、こんないい子が邪悪な上司に搾取され虐げられるんだと思ってしまいそうだが、そうはなっていないのだ。このリンダ嬢、上司が嫌がるのもわからんでもないキモい系の女子。話し相手はペットの小鳥だけで、本棚は自己啓発本ばかり。家にも会社のデスク周りにも自己啓発ワードをペタペタと貼って常に自分を鼓舞している。ファッションには無頓着、縁起担ぎらしい靴はボロボロ。食べかすがほっぺにつきっぱなしでもお構いなしで、会社ではひとり浮きまくり。ライミはそんな彼女を得意の大胆アップや動き回るカメラワークで次々と捉え、その変人っぷりを強調する。

趣味はアウトドアのコンサル会社で働く会社員、リンダ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
趣味はアウトドアのコンサル会社で働く会社員、リンダ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

リンダはしかし、数字には滅法強く仕事ができるので出世も約束されていたのだが、その社長が亡くなり息子ブラッドリー(ディラン・オブライエン)が跡を継いだことで冷遇されてしまう。それも悔し涙に暮れるほどの意地悪な言葉と方法で、この無能で俗物としか思えない若造に!

ところが、リンダも同行するタイに向っていたプライベートジェットが上空で大爆発。これまでリンダをいじめ笑い者にしてきた上司や同僚たちが次々と夜空の彼方に飛んで行く!その悲惨な様をライミは得意の過剰演出の連続とホラーテイストで表現するので笑いがこぼれ、観ているほうは痛快な気分になる。

無人島では権力・財力はまったく役に立たない [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
無人島では権力・財力はまったく役に立たない [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

かくて南海の孤島に漂着するのは、リンダとブラッドリーの2人だけ。サバイバル番組への出演が夢だったリンダが主導権を握り、大怪我をしているうえにそんな能力皆無のブラッドリーは彼女に従うしかなくなる。リンダのサバイバル能力はあらゆるシチュエーションで活かされまくり、文明社会ではあんなに冴えなかった彼女が俄然、輝き始める。一方、ブラッドリーは動くことすらできないのに、相変わらずの横柄さだが、それがこの世界では通用しないことを身をもって知ることになる。

見事なほどの逆転っぷり。リンダはクレバーな頭脳をもっているにもかかわらず文明社会ではサバイブできなかった女性だ。このブラッドリーのように、処世術と権力と財力がある者が生き残るのが現代の資本主義社会だが、孤島ではそんな財力はなにも生まず、生命力とサバイバル能力だけが命を保証してくれる。その大逆転が本作のおもしろさのひとつ。クソ上司の転落は爽快感を生んでくれる。

一番ヤバいのはリンダ!?ホラーキャラへの進化していく血みどろの狂気

とはいえ、そこに勧善懲悪の小気味よさがあるわけではない。なぜならリンダがどんどんおかしくなっていくからだ。

リンダはこのサバイバル生活のほうがダンゼン楽しく、生還するための努力は一切しない。文明社会に還りたいブラッドリーは相変わらずの邪悪っぷりでリンダを陥れそのチャンスを狙ったりする。そんな彼を無視すれば死ぬだろうにそうしないのは、彼女の優しさなどではない。ブラッドリーはリンダにとってかつて飼っていた小鳥と同じ。話を聞いてくれるだけの存在。話し相手がいないとサバイバルは難しいことを彼女は知っているからだ。

イノシシ狩りもウキウキでこなしてしまう超人ぶりを発揮するリンダ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
イノシシ狩りもウキウキでこなしてしまう超人ぶりを発揮するリンダ [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

さらにリンダは、島の近くを漁船が通ってもヘルプを叫ぶどころか、「いや、まだダメ」といって身を隠してしまう。このあたりから徐々にリンダが恐ろしくなってくる。

こういった2人の関係性やリンダの加速して行くヤバさは、スティーヴン・キングの同名原作の映画化『ミザリー』(90)を思い出させる。思い込みの激しい熱烈ファンにとらえられてしまった、怪我で身動きできない人気作家という構図。徐々に想いが加速したファンがありえない行動を取るという展開。リンダがその狂気を秘めたファン(キャシー・ベイツが演じていた)と重なってしまい、気が付けばホラーキャラクターと言っていいほどの恐ろしさ!まさにヤバいおねえさんだ。

リンダのこの表情にだんだんと恐怖を感じてくる [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
リンダのこの表情にだんだんと恐怖を感じてくる [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

が、だからといってシリアスなノリばかりではない。狩りに出かけたリンダが手製のヤリを黒いイノシシにこれでもかと突き刺すと、血みどろ状態のスプラッタな流血っぷり。やりすぎることで笑いを誘うライミらしい演出で緊張感のなかに笑いがこみ上げてくる。このイノシシがいかにものデジタルなところもライミらしい。彼はリアルを求める監督ではなく、自分が感じるおもしろさこそを重要視する。かつて『ダークマン』(90)でも主人公が火だるまになって落下するシーンを、まるでアニメのような火だるま状態にしていて驚かされた。映像技術はイマイチでもやっちゃうのがライミ流。自分がやりたい演出のためなら技術に目をつぶる大胆さをもっているということ。それがユニークな表現を生み、いまでもそういう感覚をもっていることがファンとしてはうれしくなる。

男女の関係をほぼ描かないのが『HELP/復讐島』の大きな特徴 [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
男女の関係をほぼ描かないのが『HELP/復讐島』の大きな特徴 [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

もうひとつ、ライミらしいと思ったのはセックス・ネタがほとんどないところだろう。『流されて…』も『逆転のトライアングル』も、そういう男女の欲望が、新しいヒエラルキーに大きな意味をもつのだが、本作に関してはほとんどない。そういう展開になるのかと思わせるエピソードもあるにはあるが、それ以上は追求していない。また、ブラッドリーに対するリンダのセックス系の行動はホラーな展開、サスペンスな展開、さらに笑いのため、血しぶきのために使われている。そもそもリンダにとって彼の存在は小鳥だから、そんな気にもならないということなのかもしれないが。

では、ホラーキャラになってしまったリンダはどうなるのか?そのラストでライミが用意してくれたのは意外な結末。これがピカレスク的なおもしろさがあって痛快だ。

『HELP/復讐島』は公開中! [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『HELP/復讐島』は公開中! [c]2026 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「スパイダーマン」シリーズの大成功によってハリウッドのトップディレクターになったライミは、その三部作が終わったあと、初心に戻るべく『スぺル』(09)を撮ってくれた。とてもミニマルでカルトなホラーだったが、本作もそういう色が強くにじんでいる。監督と2人の役者、そしてわずかなスタッフだけ。まさにライミの出発点。考えてみたらマーベルの超大作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』であっても、後半は『死霊のはらわたII』(87)していたのを思い出す。いい監督は決して初心を忘れないということだ。

文/渡辺麻紀

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