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父親になるとテストステロンが何年も低下、「良い父親」になるのかも

  • 2025.12.11
父親になるとテストステロン値が何年も低下するが、それが男性を「良い父親」にしているのかも / Credit:Canva

久しぶりに友人と会うと様子がずいぶん変化していて、「やっぱり父親になると変わるな」なんて話すことがあるかもしれません。

実はその変化、単なる気のせいや生活習慣の問題ではなく、ホルモンレベルで起きている可能性があります。

米ノートルダム大学(University of Notre Dame)の研究チームは、約5000人の男性を対象とした大規模調査により、父親のテストステロン低下が乳幼児期だけでなく、子どもが学齢期や思春期になっても続くことを明らかにしました。

しかも、このホルモン低下は健康上の問題ではなく、むしろ「良い父親」になるための適応的な変化である可能性が示されています。

研究の詳細は、2025年10月18日付の学術誌『Psychoneuroendocrinology』に掲載されました。

目次

  • 「年長の子ども」を持つ男性はテストステロン値が最も低い
  • 父親の身体は家族の変化に適応し続ける

「年長の子ども」を持つ男性はテストステロン値が最も低い

テストステロンは男性ホルモンの代表格で、筋肉の発達、性欲、攻撃性などに関わることで知られています。

進化生物学では、このホルモンが「繁殖競争」と「養育」という二つの戦略のバランスを調整していると考えられています。

高いテストステロンは配偶者を獲得するための競争に有利ですが、低いテストステロンは養育行動や長期的なパートナーシップを促進するとされています。

この仮説は、「Challenge Hypothesis」と呼ばれ、鳥類から霊長類、そして人間まで広く観察されてきた現象です。

これまでの研究で、男性が結婚したり父親になったりするとテストステロンが低下することは分かっていました。

しかし従来の研究には問題がありました。

多くは乳幼児を持つ家庭に焦点を当てており、サンプルサイズも小さく、測定の精度にも限界がありました。

そのため、「子どもが成長した後もこの低下は続くのか」「父親のテストステロン低下は健康上問題なのか」といった重要な疑問が未解決のままだったのです。

そこで研究チームは、米国疾病予防管理センター(CDC)が実施するNHANES(国民健康栄養調査)の2011年から2016年までの3回分のデータを統合し、20〜60歳の男性4903人を分析しました。

テストステロンの測定には、臨床診断のゴールドスタンダードとされる「液体クロマトグラフィータンデム質量分析法」を用いた血清データを使用。

年齢、採血時間帯、教育水準、体脂肪、睡眠時間、運動量など多くの要因を統計的に調整した上で、パートナーの有無や同居する子どもの年齢・人数との関係を調べました。

その結果は明確でした。

まず、パートナーがいる男性は、子どもの有無にかかわらず、独身で子どもと同居していない男性よりテストステロンが有意に低いことが確認されました。

次に、意外な発見がありました。

0〜5歳の幼い子どもと同居しているパートナー男性と、子どもと同居していないパートナー男性の間には、テストステロンの有意差がなかったのです。

つまり乳幼児期の父親のテストステロン低下は、「父親であること」よりも「パートナーがいること」に主に起因していると考えられます。

そして最も注目すべき発見は、6〜17歳の年長の子どもと同居するパートナー男性、特に2人以上の子どもがいる場合に、研究対象の全グループ中で最もテストステロンが低かったことです。

この傾向は20〜40歳の若い男性でも、41〜60歳の中年男性でも同様に見られ、年齢による違いはありませんでした。

一方で重要な点として、パートナーがいる男性や子どもと同居している男性が、臨床的に低いテストステロン(300 ng/dL未満)になるリスクは、独身男性と比べて高くありませんでした。

では、どうしてこのような結果になったのでしょうか。

父親の身体は家族の変化に適応し続ける

なぜ年長の子どもを持つ父親のテストステロンが最も低いのでしょうか。

研究チームは、これが「家族の状況が変化するにつれて、父親の心理生物学的反応も動的に変化し続ける」ことを示していると解釈しています。

他の縦断研究では、乳幼児期を過ぎると父親のテストステロンが一度リバウンド(回復)することが示されていました。

しかし今回の結果は、子どもが学齢期や思春期に入ると再びテストステロンが調整される可能性を示唆しています。

思春期の子どもに対する父親の役割、例えば教える、支える、導くといった関わりが、乳幼児期とは異なる形でホルモン調節を促しているのかもしれません。

実際、過去の小規模研究では、テストステロンが低い父親ほど思春期の子どもとの親子関係の質が高いという報告があります。

そして健康面での懸念についても、この研究は重要な示唆を与えています。

低テストステロンは一般的に疲労、体重増加、代謝リスクと関連するため心配されがちですが、今回の研究では家族状況に関連したテストステロン低下が病的なレベルに達するリスク増加は見られませんでした。

研究チームは、このテストステロン低下を適応的な生理反応と位置づけています。

父親の身体が繁殖競争から協力的養育へとホルモン資源を再配分する仕組みが備わったと考えられるのです。

今後は、宿題を手伝う、スポーツ観戦に付き添うといった日常的な育児行動とホルモン変化の関連や、思春期の子どもを持つ父親に特化した縦断研究が期待されます。

父親になって「丸くなった」と言われる現象、その背景には身体レベルでの適応が隠れているのかもしれません。

参考文献

Becoming a Dad Can Lower Men’s Testosterone for Years — and That Might Actually Make Them Better Fathers
https://www.zmescience.com/science/news-science/dad-lower-testosterone-trade-off/

元論文

U.S. men’s testosterone (T), partnering, and residence with children: Evidence from a nationally-representative cohort (NHANES) and relevance to clinically low T
https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2025.107658

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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