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新たに進化した「エムポックス変異株」を確認、英国保健当局が報告

  • 2025.12.10
Credit: canva

これまで世界的な流行を繰り返してきたウイルス「エムポックス(mpox、旧称:サル痘)」

その恐るべき進化の一端が、ここに来て明らかになりました。

英国保健安全保障庁(UKHSA)は、アジアへの渡航歴がある個人から、前例のない「ハイブリッド」なエムポックス変異株を確認したと発表しました。

これは致死率が高いとされる「クレード1(Clade 1)」の遺伝子要素と、2022年の世界的流行を引き起こした「クレード2(Clade 2)」系の要素が組み合わさったウイルスでした。

目次

  • ハイブリッド型の変異株を検出
  • 懸念されるウイルスの新しい「戦略」

ハイブリッド型の変異株を検出

英国で確認されたこの新しいエムポックス株が、なぜこれほど注目されているのでしょうか。

その理由は、ウイルスの遺伝子構造にあります。

エムポックスウイルスには、主に「クレード1」と「クレード2」の二つの主要な系統が存在します。

・クレード1(Clade 1):主に中央アフリカで流行しており、一般的に重症化しやすく、致死率が高いことで知られています。

・クレード2(Clade 2):2022年に欧米を中心に世界的大流行を引き起こした系統であり、クレード1に比べて毒性は低いものの、ヒトからヒトへの感染力(特に性的接触を介した伝播)が高い特徴があります。

今回、アジアへの渡航歴を持つ人物から検出されたウイルスは、このクレード1の要素と、クレード2b(2022年流行株のサブタイプ)の要素を併せ持つ「組換え型」であることが判明しました。

科学的に見れば、二つの系統が同じ宿主内で同時感染を起こし、その増殖過程で遺伝子情報が交換され、文字通り「融合」したことを示しています。

UKHSAは、この組換え株の出現について「両クレードが世界的に循環している現状を考えれば予期せぬことではない」としつつも、その重要性を継続的に評価している状況です。

ウイルスが進化する能力を再び証明したことで、専門家たちは警戒を強めています。

では、この組換え型ウイルスは、一体どのような特性を持つ可能性があるのでしょうか?

懸念されるウイルスの新しい「戦略」

最も懸念されるのは、クレード1の持つ高い重症化リスクと、クレード2系の持つ高いヒト間伝播性を兼ね備えてしまう可能性です。

もしこのハイブリッド株が、より感染を広げやすい性質を持ちながら、かつてよりも重篤な病態を引き起こすとしたら、それは公衆衛生にとって大きな脅威となります。

UKHSAの専門家は「ウイルスが進化するのは正常なこと」と冷静にコメントしていますが、オックスフォード大学の専門家は「さらなる症例が確認された場合、伝播経路、症状、重症度を理解することが重要だ」と指摘しています。

これにより、この新株が過去の株よりも危険かどうかを迅速に評価する必要があります。

今できる最も確実な防御策

エムポックスは、発熱、筋肉痛などの非特異的な症状の後、特徴的な水疱や発疹が現れるウイルス感染症です。

感染は主に、発疹やかさぶたとの濃厚な接触、あるいは汚染された物質(寝具など)を介して起こり得ます。

幸いにも、このウイルスには有効なワクチンが存在します。

英国では、複数の性的パートナーを持つ人や、ハイリスクな環境にいる人々を対象にワクチン接種プログラムが実施されています。

UKHSAは、この新株の報告を受けて、「ほとんどの感染は軽度だが、重症化する可能性もある。ワクチン接種は重症化を防ぐ効果的な方法であることが証明されているため、対象となる人々は接種を受けてほしい」と改めて強調しました。

ウイルスの進化は止められませんが、その脅威から身を守るための科学的ツールは人類の手にあります。

参考文献

England health officials identify newly evolved variant of mpox
https://www.theguardian.com/world/2025/dec/08/england-health-officials-identify-newly-evolved-strain-of-mpox

Never-Before-Seen Strain Of Mpox Virus Identified In England
https://www.iflscience.com/never-before-seen-strain-of-mpox-virus-identified-in-england-81833

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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