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名俳優が“20代後半”まで苦手だったこと「とても良い話」「発想力がすごい」NHKで放送中のリーガルドラマとの“親和性”

  • 2026.1.28
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ドラマ10『テミスの不確かな法廷』1月6日放送 第1話より(C)NHK

ドラマ『テミスの不確かな法廷』で、発達障害を抱える裁判官・安堂清春を演じている松山ケンイチ。そんな彼が『あさイチ』のプレミアムトークに出演した。ドラマの裏話はもちろん、独自のSNSへの向き合い方や、人とコミュニケーションに対する彼らしい思いが語られた時間。その飾らない率直な言葉たちは、松山がドラマ本編で演じている安堂の人物像とも重なって見える。あらためて浮かび上がってきた、俳優・松山ケンイチの人物像に触れたい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

20代後半までコミュニケーションが苦手だった

『テミスの不確かな法廷』で松山ケンイチが演じている安堂清春は、ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)という特性を抱えながらも、その事実を同僚に隠し、あえて“普通”であろうと必死に振る舞う裁判官だ。

衝動性や、日常的に忘れ物をすること、同時に複数のことができない不器用さ。そんな生きづらさを抱えつつも、誰よりも事件の細部に目を凝らし、矛盾を見逃さない。その執拗なまでのこだわりが、法廷では真実に近づくための武器になる。

本作が秀逸なのは、安堂の特性を“弱点”や“才能”といった安易な言葉で回収しない点だろう。彼は自分の生きづらさを重々自覚しながら、それでも逃げずに法廷の場に立ち続けている。“普通”とは違う特性を持っている自分が、果たして人を裁けるのか。そんな問いを、切実な実感として持ち続けている人物なのだ。

そんな安堂の姿を見たあとに、『あさイチ』プレミアムトーク内で語られる松山本人の言葉を聞くと、不思議な重なりを覚える。番組のなかで松山は、「20代後半までコミュニケーションが本当に苦手だった」と率直に明かしていた。俳優という職業からは想像しにくい告白だが、その言葉はどこか安堂の佇まいと響き合っていた。

SNSやコミュニケーションに対する姿勢

番組にVTR出演した、松山の20年来の親友・ピアニストの清塚信也を、松山は「コミュニケーションおばけ」と表現する。清塚と話しているうちに、自分でも気づいていなかった本音が引き出され、“これが本当の自分の気持ちなんだ”と気づくことがあったというエピソードは印象的だった。

人と関係性を築いていくうちに、少しずつ自分なりの言葉を獲得していく。その感覚は、安堂が法廷で他者と向き合いながら、自分の居場所を模索していく姿と重なる。

さらに興味深いのが、松山のSNSでの振る舞いだ。彼が発案した「誰も傷つけない悪口選手権」は、誹謗中傷が溢れる時代に対する、静かな投げかけでもある。わざわざ刺さる言葉を使う必要はない、という彼のスタンスには、何かを口にする前に、一度立ち止まることを選ぶ慎重な姿勢がにじむ。

それは、決して感情的な裁きではなく、あくまで事実と向き合おうとする安堂の態度と、驚くほど似ているのではないだろうか。

また、スレッズでは“トマト農家”として振る舞い、一人ひとりに誠実にコメントを返す松山の姿も見られる。これも、コミュニケーションを“整えよう”とする意志の表れだろう。俳優として前に出るのではなく、ひとりの生活者として存在する。その距離感が、多くの人に安心感を与えているのだ。SNS上では、そんな松山に対して「平和なSNS」「コミュ力も最高」「とても良い話を聞けた」「発想力がすごい」という声も見られる。

ユーモアや軽やかさは、作品のため?

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ドラマ10『テミスの不確かな法廷』1月6日放送 第1話より(C)NHK

撮影現場での様子について、共演者の一人である遠藤憲一は「オンとオフの切り替えがすごい」と語る。重たいテーマを扱う作品だからこそ、役に飲み込まれすぎないことが重要。いわば、切り替えが必要になる。

松山がSNSで見せるユーモアや軽やかさは、そのための術なのかもしれない、とも思わせられる。作品や役柄に真剣に向き合うために、あえて力を抜いて遊ぶ。そのバランス感覚が、松山ケンイチという俳優の強さなのだろう。

『テミスの不確かな法廷』というタイトルが示す通り、この物語は“不確かさ”を抱えたまま進んでいく。完璧ではない裁判官、完璧ではないコミュニケーション。それでも、人と向き合おうとする姿勢だけは手放さない。

ドラマ本編と『あさイチ』プレミアムトークを通して見えてきたのは、松山ケンイチという人が、正しさよりも誠実さを、淡々と選び続けているという事実だった。

だからこそ、安堂清春という人物は信じられる。不確かであることを引き受けた先にしか、人と人が向き合う場所は生まれない。そのことを、松山ケンイチは役と素顔、その両方で静かに証明しているのだ。


NHK ドラマ10『テミスの不確かな法廷』毎週火曜よる10時
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_