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朝ドラであまりにも“不器用すぎる”人物が話題に「良いキャラしてる」「おもしろすぎ」物語に安定感を与える“名脇役”

  • 2026.1.26
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『ばけばけ』第15週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』第15週から登場した車夫・永見剣造は、派手な見せ場を持つ人物ではない。しかし、彼が画面に映るだけで、空気がすっと落ち着くようだ。元武士で「不器用ですけん」が口癖の愚直な人力車夫。演じているのは、名バイプレイヤーの大西信満である。多くを語らず、誠実に人の隣に立ち続ける。その静かな演技は、文明開化の熱に浮かされがちな物語のなかで、確かな“重心”となっている。SNS上でも「おもしろすぎ」「良いキャラしてる」と話題だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

「不器用ですけん」に宿る思い

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『ばけばけ』第15週(C)NHK

『ばけばけ』において永見剣造という人物は、決して物語を大きく動かす役ではない。事件を起こすわけでも、恋をかき乱すわけでもない。それでも彼が登場すると、画面に一種の安定感が生まれる。その理由は明快だ。永見はある意味“芝居をしない存在”として、そこに立っているからである。

永見剣造は元武士だ。刀を置き、人力車を引く男として生きている。その設定自体は、明治という時代を描くドラマにおいて、決して珍しいものではないかもしれない。しかし永見が印象的なのは、その“落差”を声高に語らない点にある。

彼は過去を悔やまないし、いまを嘆かない。ただ、目の前の仕事を実直にこなす。その姿勢を象徴するのが、口癖の「不器用ですけん」だ。この一言には、言い訳も、開き直りもない。ただ自分はこういう人間だ、という自己認識だけがある。

この台詞は、昭和映画の名フレーズを想起させるが、永見の場合、それは決してノスタルジーに留まらない。文明開化の波に翻弄されながらも、変わらない自分でいようとする男の、静かな矜持として響いてくる。その一本調子な真面目さが、なんともチャーミングに映るのだ。

沈黙が雄弁となる佇まい

この永見という人物を成立させているのは、大西信満の演技である。彼は、過剰な言葉で感情を説明しない。表情を大きく動かさず、声を張ることもない。それでも、永見がどんな人生を背負ってきたのかが、自然と伝わってくる。

たとえば、人力車を引く姿。背筋はまっすぐで、歩幅は一定だ。そこに誇張はないが、一歩一歩に“生活”が宿る。武士としての身体感覚と、労働者としての現実が、無理なく共存している。そのリアリティが、永見を単なる設定上の人物ではなく、明治に生きる人間にしている。

大西の演技は、まさに引き算の芝居ともいえるだろう。余計な感情を足さないからこそ、視聴者は想像する余白を与えられる。沈黙のなかにこそ、彼の演技の強度がある。

あまりにも不器用すぎる?

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『ばけばけ』第15週(C)NHK

永見の魅力は、渋さや哀愁だけではない。むしろ印象的なのは、その不器用すぎるほどの素直さだ。ヘブン(トミー・バストウ)がこっそり山橋薬舗に通っているという秘密も、「不器用ですけん」と繰り返しながら、結局すべてトキ(髙石あかり)に話してしまう。本人は至って真剣なのに、だからこそ、その正直さが微笑ましさを生むのだ。

この“ズレ”を嫌味なく成立させているのも、大西の間の取り方によるものだ。台詞を急がず、相手の言葉を真正面から受け止めて返す。そのテンポが、永見をチャーミングな存在にしている。

だからこそ、トキやヘブンにとって、永見は頼れる男というよりも、安心して隣に置ける人物なのかもしれない。守るでも、導くでもない。ただ誠実に、同じ温度感でそこにいてくれる存在。その価値が、物語が進むにつれてじわじわと効いてくる。

『ばけばけ』は、異文化が交差し、人々の価値観が大きく揺れ動く物語である。だからこそ、永見剣造というキャラクターは重要だ。彼は変化を象徴する人物ではない。むしろ、変わらないものを体現している。

「不器用ですけん」という言葉が、今後どんな場面で、どんな響きを持つのか。そのたびに、視聴者は彼を少しずつ好きになっていくだろう。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_