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NHK大河出演“アクション女優” 第1話の冒頭から視聴者の心を掴んだ『八重の桜』

  • 2026.1.3

2013年に放送されたNHK大河ドラマ『八重の桜』は「幕末のジャンヌ・ダルク」と呼ばれた新島八重(綾瀬はるか)の物語だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

会津藩砲術師範の父・山本権八(松重豊)の長女に生まれた八重は、幼い頃から砲術に興味を持ち、銃の使い手として成長していく。

物語は南北戦争が終結した1865年のアメリカから始まり、南北戦争で使用された武器が日本に持ち込まれたことが語られる。
そして明治元年(1868年)の会津に舞台が移り、会津戦争の渦中で明治政府軍の攻撃に遭う会津藩士たちが鶴ヶ城(会津若松城)に籠城して抵抗する姿が描かれ、そこにスペンサー銃を手に戦う八重の姿が映し出される。
そこから時代は八重の幼少期へと遡り、彼女の成長していく姿と幕末という激動する時代の中で翻弄される会津藩の人々の姿が描かれていくのだが、第1回冒頭で描かれた砲弾が飛び交う鶴ヶ城の籠城戦と、銃を構えて戦う綾瀬はるかの颯爽とした佇まいに心が掴まれ、この戦いはいつ観られるのかと、続きを観るのが楽しみになる。

アクション女優としての綾瀬はるかの凛々しい佇まい

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綾瀬はるか (C)SANKEI

『ホタルノヒカリ』や『ひとりでしにたい』で見せたコメディの芝居に定評がある綾瀬だが、実は激しい殺陣のあるアクション作品にも多数出演している。
2008年の映画『ICHI』では、かつて勝新太郎が演じた座頭市を女性にした盲目の剣士・市を演じており、激しい殺陣を披露した。 2016年から2018年にかけてNHKで放送された連続ドラマ『精霊の守り人』シリーズでは、短槍使いの女用心棒・バルサを演じ、2017年の連続ドラマ『奥様は、取り扱い注意』では、普段は主婦として暮らしている特殊工作員を演じており激しい格闘術を披露。
そして、2023年の映画『リボルバー・リリー』では、拳銃の使い手である元スパイを演じ、どの作品もアクションが高い評価を受けている。

『八重の桜』の八重もスペンサー銃を武器に戦うヒロインで、劇中では大きな米俵を持ち上げる剛腕ぶりも披露される。
もちろんこれは新島八重の史実を踏まえた描写なのだが、創作のアニメや漫画ならともかく、歴史上の人物を描く大河ドラマでこんな女性が主人公になるのかと驚いた。

『八重の桜』と聞いて真っ先に思い出すのは八重がスペンサー銃を構える凛々しい姿で、史実に忠実な歴史劇でありながら、主人公のビジュアルとキャラクターが際立っているキャッチーさこそが、本作最大の魅力だったと言えるだろう。

だが、八重が活躍するアクションドラマとして気軽に楽しもうと考えていると、その期待は容赦なく打ち砕かれることになる。

大河ドラマ史に残る戦争描写

旧幕府軍と新政府軍の間で戊辰戦争が勃発すると、新政府軍は会津に進軍し、会津藩の人々は鶴ヶ城に籠城して抵抗することになる。
そして八重も城の中で銃を持って戦うこととなるのだが、彼女のように勇ましく抵抗する者たちがいる一方で、藩士の家族や少年だけで結成された白虎隊が集団自決をおこなう凄惨な場面も描かれた。
闘いが長引くほど会津の人々の心身は疲弊し、弱い者たちから犠牲になっていくのだ。

第1回の冒頭で描かれた鶴ヶ城籠城戦は、第26回から第29回にかけて描かれる物語前半の山場だが、激しい砲撃が容赦なく城を破壊していくことで、城に籠った人々が追い詰められていく姿が描かれている。
そのため、戦国武将が戦う時代劇の合戦よりも、第一次世界大戦以降の近代戦に近い描写となっており、大河ドラマにおける戦争描写の中では突出した生々しさとなっている。

2010年の『龍馬伝』以降、大河ドラマの映像は大きく変化し、土煙の舞う荒涼とした風景と顔や衣装の汚れが強調されたドキュメンタリーのようなリアルな映像に挑戦する作品が増えていった。

『八重の桜』もリアル志向の作品で、この籠城戦のシーンも、アニメヒロインのような八重のビジュアルと裏腹に、映像も物語もどんどん生々しいものへと変わっていった。

本作を観ているとフィクションにおける戦争描写は、城や砦に多くの人々が立てこもる籠城戦においてこそ真価を発揮するように感じる。
ここで描かれるのは圧倒的な破壊によって犠牲になる一般人の姿であり、無数の砲弾が飛び交う戦場においては、どれだけ強くても八重の存在はちっぽけなものだと思い知らされる。

最終的に会津藩は新政府軍に降伏。鶴ヶ城は制圧される。
その後、八重は紆余曲折の末に夫と別れ、京都へと向かい女学校の教師となり、アメリカ帰りの新島襄(オダギリジョー)と再婚。八重は襄が設立した学校の経営に関わることで後進を育て、教育の力で世の中を変えようとする。

そして、襄の死後は日本赤十字社のボランティア組織・篤志看護婦人会に参加。最終回では日清戦争の戦場で看護師として従事する八重の姿が描かれた。
かつてスペンサー銃を手に戦った八重が看護師となって傷ついた人々を看病する側に回る姿は感慨深いものがある。

入口こそ銃を構えて戦う八重の勇ましい姿を魅力的に描いていたが、本作はそこで終わらず、勇ましく戦うことの限界も描き切っていた。 八重の変化する姿を通して戦争の愚かさと平和の尊さを描いた『八重の桜』は、生々しい戦争描写を通して反戦を訴えた大河ドラマだったと言えよう。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。