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人々が行き交う公園のような建築――妹島和世+西沢立衛(SANAA)【世界に誇る日本の建築家たちvol.3】

  • 2025.11.12

【金沢21世紀美術館】街に開かれ、街と一体になる美術館

正面や裏側といった区別のない360度からアクセスできる円形のデザインで街と一体化。
正面や裏側といった区別のない360度からアクセスできる円形のデザインで街と一体化。

金沢市の中心部に位置し、誰もがいつでも立ち寄れて、さまざまな出会いや体験が待っている公園のような美術館。「金沢21世紀美術館」は、ミュージアムとまちの共生により、金沢に新たな魅力と活力をもたらした。建築家として「公園のような空間をつくりたい」と考えてきた妹島和世にとって、この美術館は、ある意味その理想に一番近い建物かもしれない。

三方を道路に接する敷地内にどこからでもアクセスできるよう、表と裏の区別のない円形を採用。回廊部分を一周すると、展示室やカフェレストラン、アートライブラリーなどを巡ることができるよう、各施設を分け隔てなく同列に配置し、街のような広がりを生み出した。外壁や内部の壁の多くにガラスを使い、SANAAがこの美術館に求めた「透明であること、明るいこと、開放的であること」を実現。外と中という異なる空間にいる者同士が互いの存在を感じ取れる、出会いの感覚も演出した。

展示室やカフェレストラン、アートライブラリーなどの各施設を巡る回廊。ガラス越しに屋外展示作品も楽しめる。
展示室やカフェレストラン、アートライブラリーなどの各施設を巡る回廊。ガラス越しに屋外展示作品も楽しめる。

金沢21世紀美術館

石川県金沢市広坂1-2-1

Tel./076-220-2800

https://www.kanazawa21.jp/

【サマリテーヌ】パリの街並みを映し出す全面ガラスのファサード

ポン・ヌフ館のガラス天井には調光機能を持つガラスを導入。クジャクの壁画は南仏アヴィニョンの工房で修復した。
ポン・ヌフ館のガラス天井には調光機能を持つガラスを導入。クジャクの壁画は南仏アヴィニョンの工房で修復した。

2021年6月にリニューアルオープンした「サマリテーヌ」は、ルーブル美術館やノートルダム寺院からも徒歩圏内のパリ中心部に建つ1870年創業の老舗百貨店。LVMHによるリノベーションによって、16年もの長きにわたる休業期間を終えて復活した。ポン・ヌフ館、リヴォリ館、ホテル「シュヴァル・ブラン」の3館のうち、アール・ヌーヴォー様式の装飾を継承しつつ、現代の建築基準に合わせて改修したポン・ヌフ館の監修と、新築したリヴォリ館の設計を担当したのがSANAAだ。

リヴォリ館のファサード。当初は景観に賛否両論の議論があったが、 今やリヴォリ通りの顔として街並みにすっかり溶け込んでいる。
リヴォリ館のファサード。当初は景観に賛否両論の議論があったが、 今やリヴォリ通りの顔として街並みにすっかり溶け込んでいる。

新生リヴォリ館の外壁は、2.7×3.5mのガラスパネルを343枚組み合わせたファサードで覆った。スペイン・バルセロナの工場で、平面のガラスを1枚ずつ、数時間かけて約550℃に加熱し、ゆっくりと冷却するという手のかかる工程を経て、パネルを曲面に成形。さらにその内側に、シルクスクリーンを施して直射日光を反射するガラスと断熱ガラスを貼り合わせることによって、省エネルギーにも貢献している。ウェーブを描くそのガラスが、歴史を重ねたパリの景色を映し出し、時間や季節によって美しく変化する。パリのモダン建築の新名所として、早くも人気のスポットになっている。

ポン・ヌフ館のアール・ヌーヴォー様式の設計(1910年完成)を手掛けたのはフランツ・ジュルダン。当時の技術と美術を伝える国の歴史的建築物として登録されている。
2020/11/05 Samaritaineポン・ヌフ館のアール・ヌーヴォー様式の設計(1910年完成)を手掛けたのはフランツ・ジュルダン。当時の技術と美術を伝える国の歴史的建築物として登録されている。

サマリテーヌ(La Samaritaine)

9 rue de la Monnaie, 75001 Paris, France

Tel./+33-1-8888-6000

https://www.dfs.com/en/samaritaine

【ニューサウスウェールズ州立美術館ナーラ・バドゥ館】館内の至るところから海が見える美術館

2022年に開館した「ニューサウスウェールズ州立美術館」。公園の斜面に階段状に建物を配している。Aerial view of the Art Gallery of New South Wales’ new SANAA-designed building, 2022, Photo_ Iwan Baan
2022年に開館した「ニューサウスウェールズ州立美術館」。公園の斜面に階段状に建物を配している。Aerial view of the Art Gallery of New South Wales’ new SANAA-designed building, 2022, Photo: Iwan Baan

オーストラリア国内で最大の収蔵数を誇るニューサウスウェールズ州立美術館の新館(ナーラ・バドゥ館)がオープンしたのは2022年12月。3年間の工期と、総事業費3億4400万オーストラリアドルを費やした一大プロジェクトの設計を手掛けた。シドニーの中心街から歩いて15分ほど、市民の憩いの場となっている公園、ザ・ドメインの一部を構成し、眼下にウルムルー湾を望むひな段状の土地に建つ。3つのメインギャラリー、カフェや多目的ホールを、20m以上の高低差のある敷地に高さをずらしながら配し、一番低い位置にあったオイルタンクの遺構をシドニーの歴史を語り継ぐものとして生かした。

本館と新館の間を結ぶ「ウェルカムプラザ」。波状のガラス屋根が開放的な空間を創る。Exterior view of the Welcome Plaza of the Art Gallery of New South Wales’ new building, featuring Francis Upritchard Here Comes Everybody 2022, Photo_ Iwan Baan
本館と新館の間を結ぶ「ウェルカムプラザ」。波状のガラス屋根が開放的な空間を創る。Exterior view of the Welcome Plaza of the Art Gallery of New South Wales’ new building, featuring Francis Upritchard Here Comes Everybody 2022, Photo: Iwan Baan

SANAAの代名詞でもある曲線とガラスを多用したファサードは、ここにも登場する。地上階では四方にガラスを使用し、陽光にあふれる空間を創り出した。ギャラリー内部はシンプルな設えだが、国内屈指のアボリジナル・アートのコレクションをはじめ、広々とした空間を活かした大型のアートなど、見ごたえのあるものが多い。草間彌生の「Flowers that Bloom in the Cosmos」をはじめ、屋外にも作品が点在し、建物と建物の間に設けられたテラスや小径からは、美しい湾の風景を見渡すことができる。

SANAAが得意とするガラスを多く配した透明度の高い建築物。Interior view of the Art Gallery of New South Wales’ new SANAA-designed building, featuring Takashi Murakami Japan Supernatural_ Vertiginous After Staring at the Empty World Too Intensely, I Found Myself Trapped in the Realm of Lurking Ghosts and Monsters 2019, Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. 2022, Photo: Iwan Baan
SANAAが得意とするガラスを多く配した透明度の高い建築物。Interior view of the Art Gallery of New South Wales’ new SANAA-designed building, featuring Takashi Murakami Japan Supernatural: Vertiginous After Staring at the Empty World Too Intensely, I Found Myself Trapped in the Realm of Lurking Ghosts and Monsters 2019, Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. 2022, Photo: Iwan Baan

ニューサウスウェールズ州立美術館(Art Gallery of New South Wales)

Art Gallery Rd, Sydney, NSW 2000, Australia

Tel./+61-1800-679-278

https://www.artgallery.nsw.gov.au/

【あなぶきアリーナ香川】瀬戸内の風景に溶け込む有機的なフォルムのアリーナ

大小のドームは瀬戸内海に浮かぶ島々をイメージ。Photo_ SANAA
大小のドームは瀬戸内海に浮かぶ島々をイメージ。Photo: SANAA

最新作は、2025年2月にサンポート高松内にオープンした「あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)」だ。直島をはじめ瀬戸内の島々と結ぶ船が発着する高松港に隣接し、高松駅からもわずか300mほど。約1万人を収容できる中四国最大級のアリーナ「メインアリーナ」と、「サブアリーナ」、「武道施設」の3つで構成され、有機的な大屋根を介してそれらがつながり、さらに周辺へと広がっていく。港の景観や海からの風を考慮し、単層ラチスシェル構造を用いて全体の高さを抑え、讃岐平野の山々や瀬戸内海の自然との連続性を感じさせるデザインにした。

仮設席を含めると約1万人を収容できる中四国最大級のアリーナ「メインアリーナ」。Photo_ SANAA
仮設席を含めると約1万人を収容できる中四国最大級のアリーナ「メインアリーナ」。Photo: SANAA

メインアリーナの内部は、5,024席の固定席と周辺の交流エリアの間が壁で仕切られていなく、座席からも海が見える。地上レベルでは、各アリーナの間を市民が自由に通行でき、街の中心から海辺への絶好の散歩コースに。広々とした交流エリアには、元気に走り回る子どもたちがいたり、仕事の合間に休憩するサラリーマンがいたり、おしゃべりに夢中になる学生たちがいたり。人々が行き来する公園のような建築を目指す妹島らしい設計だ。

サブアリーナの交流エリア。イベント開催時にはロビーや通路となり、併設の催しや物販コーナーなどにも使われる。Photo_ Kagawa Prefecture
3-3 サブアリーナ交流エリア.jpg サブアリーナの交流エリア。イベント開催時にはロビーや通路となり、併設の催しや物販コーナーなどにも使われる。Photo: Kagawa Prefecture

あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)

香川県高松市サンポート6-11

https://kagawa-arena.com/

伊東豊雄建築事務所で出会った妹島和世と西沢立衛が1995年にコンビを組んでから30年。毎回、スクラッチから構想を練り、アイデアを積み重ねて、あらゆる可能性を追求するという手法によって生み出された建築物の数々。その自由で、しなやかで開放的な世界を体験する旅に出よう。

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