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「それはできないんだーッ!?」【シゴデキ秘書】の初めて見る『情けない姿』って?

  • 2025.11.5

人生の大切な瞬間に立ち向かう時は、どんな立場の人でも等しく不器用になるのかもしれません。今回は、高級レストランで働く私の知人の早苗さん(仮名)に聞いた、とあるエピソードをご紹介します。

代議士秘書からの意外な相談

私が高級フレンチレストランで働いていた頃、常連客の中には代議士の先生がいらっしゃいました。そして、予約の連絡はいつも、秘書の谷口さん(仮名)から電話でいただいていました。

ある日も谷口さんから予約の電話が入り「今回は何名様ですか? いつもの個室がよろしいでしょうか?」と尋ねると、「今回は僕のプライベートで……」と、なんだか様子が違います。

「何か特別なお席ですか?」と聞くと、谷口さんは少し恥ずかしそうに「実はプロポーズをしようと思っているんですが……。初めてのことでよく分からなくて、相談に乗ってもらっても良いですか?」と打ち明けてきました。

念入りな打ち合わせ

いつもと違い、たどたどしい口調の谷口さんに驚きを覚えつつ、「はい、なんなりと」と快く応じました。谷口さんはホッとしたのか、プロポーズをするタイミングやその後のサプライズ演出について矢継ぎ早に質問してきました。

プロポーズは食事が終わったタイミングで行い、無事にOKをもらえたら合図を送ってもらい、デザートプレートに「これからもよろしく」とメッセージを入れてお出しすることで決定。
秘書として常に周囲に気配りを怠らない仕事ぶりと同様、段取りの確認は実に細かく丁寧でした。これですべて整ったと、私も安心したその時です。

まさかの質問

谷口さんが「それで肝心のプロポーズはなんて言えばよいですかね?」と真剣な声で尋ねてきたのです。まさかの質問に、私は一瞬言葉を失いました。

重要な法律の草案を書くこともあるような方が、自分のプロポーズの言葉を他人に委ねようとしている……その意外性に驚きながらも「それはご自身の言葉で伝えられた方が、きっとお相手の方に届くと思います」と丁重に答えたのです。

それに対し、谷口さんは渋々といった様子で電話を切りましたが、きっと頭を抱えていたに違いないと、私は少し気の毒になりました。

愛の告白に肩書きは関係ない

当日、どんな言葉を伝えたかはわかりませんでしたが、食事が終わった頃、谷口さんからプロポーズ成功の合図が送られてきました。私がメッセージ入りのデザートプレートをお持ちすると、お二人とも嬉しそうなホッとした表情を浮かべていました。

仕事では先を見越して完璧に立ち回る谷口さんでも、愛する人への想いを言葉にする時は、ひとりの不器用な男性になってしまうのだということを知りました。
愛の告白に肩書きや地位は関係ない――合図を送ってきたときの嬉しそうな谷口さんの笑顔が、微笑ましく思い出されるのでした。

【体験者:60代・会社員、回答時期:2025年9月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

EPライター:Sachiko.G
コールセンターやホテル、秘書、専門学校講師を歴任。いずれも多くの人と関わる仕事で、その際に出会った人や出来事を起点にライター活動をスタート。現在は働く人へのリサーチをメインフィールドに、働き方に関するコラムを執筆。

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