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「店側がかわいそう」訪日外国人客が…予約した和菓子店での“無断行為”に物議…弁護士「裁くのは現実的に困難」

  • 2025.11.18
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

訪日外国人観光客が急増する中、飲食店や和菓子店が頭を悩ませる問題があります。それが「予約の無断キャンセル」です。

最近、老舗和菓子店が「訪日外国人客による無断キャンセル」に困っているという投稿がSNS(X)で話題になりました。せっかく準備した商品が無駄になり、他のお客様も断らざるを得ない状況に、「店側がかわいそう」「なぜそんなことをするのか」といった声が多く寄せられています。

では、この「無断キャンセル」は法的にどんな問題があるのでしょうか?そして、相手が外国人旅行者の場合、日本の店側は現実的に対処できるのでしょうか?

今回は、TVでのコメンテーターや法律解説などのメディア出演歴も豊富なアディーレ法律事務所の正木裕美弁護士に詳しくお話を伺いました。

無断キャンセルは「犯罪」になるの?

まず気になるのは、無断キャンセルが法的にどのような問題にあたるのか、という点です。

---レストランや居酒屋、菓子店など、「席、商品を予約したがキャンセルの連絡をせずに、その後も連絡を絶った」という無断キャンセル行為は、どのような罪になる可能性がありますか?

正木弁護士:

「単なる無断キャンセルならば犯罪にはなりません。しかし、その店の営業妨害をする目的で行くつもりもないのに予約をして無断キャンセルをした場合、偽計業務妨害罪で3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。また、いたずら目的などであれば、軽犯罪法違反に問われる可能性があります。

また、口頭であっても予約は契約にあたるので、キャンセル料の定めがあったのであればキャンセル料の支払義務を負います。

キャンセル料の定めがなかったとしても、お店は予約に応じた席の確保、料理の準備をしているにもかかわらず、無断キャンセルという契約違反によって他のお客さんをいれられなかったり料理を廃棄するなど損害が生じますので、お店に対する損害賠償責任を負うことになります」

つまり、単純に「うっかり忘れた」程度では犯罪にはなりませんが、悪質なケースでは刑事罰の対象になり得るということです。また、犯罪にならなくても、民事上の損害賠償責任は発生するのです。

実際に裁判になったケースはある?

では、実際に無断キャンセルで裁判になった事例はあるのでしょうか?

---これまで、無断キャンセルで裁判になった事例を教えてください。

正木弁護士:

「無断キャンセルが刑事事件として立件されるのは、かなり悪質な事案です。2019年には、お店に対して嫌がらせ目的で、居酒屋に17人分の料理と飲み放題(計約22万円)の予約をし、さらに他の4店舗でも同様に計58人分(計約30万円)の予約をし、すべて無断キャンセルした男が、偽計業務妨害罪で逮捕された事件があります。

無断キャンセルは民事事件として扱われるのが一般的です。裁判になることは多くはないものの、バーに対して、1人当たり3480円の40人分のコース料理と貸し切り予約をして無断キャンセルした事案で、13万9200円の支払を命じる判決を言い渡した裁判例があります。

『不必要な予約はせず、予約が不要になったら速やかにキャンセル連絡を行う』ということは、客の法的責任の面だけでなく、店側が席を空けて他の客を入れるなど損害軽減策をとりやすくなるという面からも重要です」

実際に裁判になって賠償命令が出たケースもあるということですね。しかし、裁判に持ち込むには時間も費用もかかります。特に相手が外国人旅行者の場合は、さらに複雑な問題が生じます。

外国人旅行者が相手だと…現実的に裁けるのか?

ここが最も重要な問題です。和菓子店のように、相手が訪日外国人客だった場合、店側は現実的に対処できるのでしょうか?

---無断キャンセルをした人が、外国在住の旅行者による場合、刑事処分や損害賠償請求はどのように行われるのでしょうか?

正木弁護士:

「日本で行われた犯罪なので、国内にいる間であれば刑事事件として立件し処罰することは可能です。しかし、帰国してしまった場合、日本の捜査権や裁判権は海外には及ばないので、犯罪人引渡条約や外交ルートでその旅行者の引渡しを求めたり、当該外国の法令に基づいて捜査や処罰を行う代理処罰を求めることが考えられます。

損害賠償についても、国内にいる間は直接請求することも可能ですし、帰国してしまった後でも、手間はかかりますが日本で裁判をすることは可能です。ただし、裁判で仮に勝訴したとしても、海外にある財産に強制執行するにはたくさんの時間や手間がかかるため、現実的には困難なことが多いでしょう」

つまり、法律上は請求できても、実際に回収するのは極めて難しいということです。特に個人経営の小さな店舗にとって、国際的な法的手続きを進めるのは、時間的にも経済的にも現実的ではありません。

年間2000億円の損害…店側ができる「予防策」とは?

では、店側はどのように対策を取ればよいのでしょうか?

正木弁護士:

「経済産業省の「No show(飲食店における無断キャンセル)対策レポート」(2018年)によると、無断キャンセルは飲食店全体の予約の1%弱を占め、飲食店全体に与える損害は年間約2000億円と推計されています。

無断キャンセルに対しては、以下のような予防策をとることが望ましいでしょう。

・明確で合理的な内容のキャンセルポリシー(多言語対応)を設けて予約時に表示をして同意を得ておく

・SMS等を利用して予約確認を徹底する

・キャンセル時の連絡先を複数明示して連絡しやすい体制を整える

・予約時にクレジットカード情報を登録させる

・事前決済や前受金(デポジット)の導入

年間2000億円という途方もない金額の損害が出ているということは、多くの店舗が泣き寝入りしている現状を示しています。

「善意」だけでは守れない…店側の自衛が必要

訪日外国人観光客の増加は、日本経済にとって喜ばしいことです。しかし、その一方で、文化や習慣の違いから生じるトラブルも増えています。

無断キャンセルの問題は、単に「マナーが悪い」という話では済まされません。特に小規模な店舗にとっては、一度の無断キャンセルが死活問題になることもあります。

予約をする側が心がけるべきこと

  • 予約したら必ず行く
  • 行けなくなったら、できるだけ早くキャンセル連絡をする
  • 店側のキャンセルポリシーを確認し、理解する
  • 言葉が通じなくても、電話やメール、SNSなど何らかの方法で連絡を試みる

店側ができる自衛策

  • 多言語対応のキャンセルポリシーを明示する
  • 予約時にクレジットカード情報を取得する
  • 事前決済やデポジット制を導入する
  • 予約確認のSMSやメールを送る
  • キャンセル方法を複数用意し、わかりやすく表示する

「お客様を信じたい」という気持ちは大切です。しかし、残念ながら現実には、善意だけでは店を守れないケースもあります。

特に訪日外国人客による無断キャンセルは、事後的な対処が極めて困難です。だからこそ、事前の予防策が何より重要になるのです。

店側も客側も、お互いに気持ちよく取引ができる仕組みづくりが、これからの時代には欠かせません。「予約は契約」という意識を、もっと多くの人が持つべきなのかもしれません。


取材協力:正木裕美 弁護士(愛知県弁護士会所属) アディーレ法律事務所名古屋支店

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正木裕美 弁護士(愛知県弁護士会所属) アディーレ法律事務所名古屋支店

一児のシングルマザーとしての経験を活かし、不倫問題やDV、離婚などの男女問題に精通。TVでのコメンテーターや法律解説などのメディア出演歴も豊富。コメンテーターとして、難しい法律もわかりやすく、的確に解説することに定評がある。
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