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旅は日常の延長線。旅先で欠かせない、食・美・歴史との出会い

  • 2025.10.22

遡ること数年前、世界が得体の知れぬウイルスの猛威にさらされていた頃、私は旅と出会った。

舞台を見るために東京へのプチ旅行を計画していたが、残念なことに公演は中止となり予定は消えてしまった。

本当は東京に行きたかった私は、半ば不貞腐れたようにリュックを背負い地元から数時間、北海道のとある市に向かったことを今でも覚えている。人生初のひとり旅だった。

この時、偶然出会った地元の方とお話をして自分ひとりでは見つけられなかったであろう素敵なお店を紹介してもらったり、何の計画もなかったからこそ実現した出来事がいくつもあった。

誰とどこへ行って、何をするのか。事前に予定をたててスーツケースを片手に非日常を味わうことが旅の醍醐味だと思っていた私は、この時から旅に対する考え方が変わり始めた。

旅をするとそこには、普段歩むことのない道、目にすることのない景色、初めましての味、その時そこでしか存在しなかったであろう出会いが次々に訪れる。そんな瞬間に魅了され、私は旅することをやめられなくなった。

やがて現地で欠かせない「旅のマイルール」ができた。

旅に欠かせないこだわり

旅のマイルールはその土地ならではの「食・美術・歴史」を堪能すること。

地元ならではの料理や、現地の方がおすすめするお店、その土地が育んだ美術や芸術に触れる。こうして五感を通して味わう時間は、旅をただの移動ではなく心に残る瞬間の連続へと変えてくれるのだ。

たったひとつの料理、絵、建築物や舞台が、その地の歴史を知るきっかけとなることに気がついた私はこれらを味わうことが、自分の中での欠かせないこだわりとなった。

そしてこのこだわりを胸に今回向かったのが、長野県。学生時代の仲間と共に今年の夏を締めくくる9月の旅が始まった。

信州ならではの味、歴史を物語る建築や美術。ここで出会った瞬間は、また新しい発見に満ちていた。

長野の食を堪能

文豪も愛した信州そば

長野県の郷土料理で、日本三大そばのひとつに数えられるのが戸隠そば。県内には、他にも伝統の味を守る美味しいそば屋が数えきれないほどある。

今回は長野県上田市にある昭和36年創業の老舗、手打ちそば刀屋さんへ。文豪、池波正太郎さんが愛した名店としても知られており、市内のコーワーキングスペースを訪れた際スタッフさんにおすすめしていただいた。観光客はもちろん、地元の方も足繁く通う人気のお店だ。

到着後店の前には行列があったが、回転も早く日曜のお昼に15分ほど並び店内へ。ざるそばは小・中・普・大と4種類のサイズ表記があり、おすすめしていただいたスタッフさんに「量には気をつけてください」と忠告があったことを思い出した。普通サイズの「普」で、通常のおそば3枚分程の量があるらしい。

写真は中サイズ、量はあったが2枚分のそばもペロリと食べてしまうほどの美味しさだった。

焼いて楽しい、食べておいしい名物おやき

長野県発祥のおやき。その歴史は縄文時代まで遡り、当時の遺跡からもその原型が発見されている。

県内に複数ある人気店、あづみ堂の本店の中央には大きな囲炉裏がある。店内には常時20種類以上のおやきが販売されており、定番の味から季節限定の味まで、きっと誰もがお気に入りの味を見つけられるはず。

購入したおやきはすぐに炭火が入っている囲炉裏で焼き食べることができる。おやき以外にも特産品であるわさびやワイン、そば等も販売されているためお土産を選びながらアツアツのおやきを楽しむのも良し。長野県に来た際はぜひ立ち寄って欲しいお店。

安曇野で出会う美術の世界

こころ温まる、安曇野ちひろ美術館

日本人なら子供の頃、多くの人が目にしてきたであろう、いわさきちひろさんの可愛らしい作品。

信州出身の両親をもつ彼女が幼少期の多くを過ごし心のふるさととされている安曇野には、彼女の生涯や作品に触れることのできる世界初の絵本美術館がある。

雄大な自然とあたたかい空気に包まれた木造建築は、まるで彼女の作品に込められた子どもの幸せと平和への願いを象徴しているかのようだった。

美術館のある安曇野ちひろ公園からは壮大な北アルプスの山々を背景に、彼女の見た同じ景色を感じることができる。また、黒柳徹子さんの著書『窓ぎわのトットちゃん』に登場するトモエ学園の精神を未来へつなぐ願いを込め、当時を再現した電車の教室と図書館も大きな見どころ。

この電車はとても可愛らしく中に入って写真を撮ったり本に関する資料を読んだり、実際の体験を通して歴史に触れることができる。この美術館に訪れる際はぜひ、窓ぎわのトットちゃんの作品にも事前に触れてみてほしい。

同じ教室で学生生活を送っていた友人らと懐かしい机と椅子に向かい絵を描いた時間は、なんだか数年前にタイムスリップしたかのようで不思議な気持ちになった。卒業後それぞれの道を歩みそれぞれの場所で生活する私たちは、今でもあの頃と変わらず約束を重ね、新たな思い出をつくっている。そんな友人がいることは決して当たり前のことではなく、なんて幸せなことなのだろうかと何度も実感した旅だった。

力強い彫刻の世界、碌山美術館

安曇野での美術館巡り、私たちがもうひとつ訪れたのは禄山美術館。

荻原守衛さん、芸術家として碌山(ろくざん)という名を持つ彼は、長野県安曇野市の農家の息子として生まれた。日本近代彫刻の先駆者であり、若くして海外で学びを続けさまざまな影響を受けたのち独自の表現を追求していった彫刻家。

彫刻に詳しくない私でも、美術の教科書で何度か目にした作品を間近で見ることができ、ハッとした瞬間があった。31年と言う短い生涯とわずかな作品数ながら、日本彫刻の新しい道を切り開いた偉大な人物の美術館、のどかで落ち着いた場内にはいくつものベンチがあり、彫刻の歴史をゆっくりと堪能することができる。

上高地でたどる長野の歴史

数年前からずっと行ってみたいと思っていた地、上高知にも足を運んだ。

上高地は100年以上前から自然を大切に守ってきた場所である。多くの植物や動物は保護され、現在では日本の美しい場所に与えられる称号、特別名勝や特別天然記念物にも指定されている。

日本屈指の山岳景勝地として昔から手付かずの自然が残っていた場所であり、1916年頃から周辺の山の登山道が整備され始め、やがて山岳リゾート地としてホテルやキャンプ場がつくられ現在に至っている。

明治時代、日本の近代化のため来日したイギリスのウィリアム・ガウランドさんは1877年槍ヶ岳に登頂した際、「Japan Alps」という呼び名を広め、この地が日本アルプスと呼ばれる語源となった。

私たちは途中の駐車場に車を停め、そこからタクシーに乗りかっぱ橋へと向かった。かっぱ橋は中心的な観光スポットであり、お土産屋さんやレストラン、ホテルが並び、それぞれの目的にそって楽しむことができる。

歩き疲れた体に透き通る上高地の水は絶品。ぜひマイボトルを持ってここで水をくんでみて欲しい。

旅を日常に

小学生の頃、大好きな夢の国に行くと言われた私は出発日の3ヶ月も前からスーツケースを引っ張り出し荷物の準備を始めていた。ハンカチやティッシュ、カチューシャも全てお気に入りのキャラクターを選び出発の日を心待ちにしていた。

今や前日、ひどい時は当日にバックパックを取り出し必要なものを詰め込み、時間に追われながら出発する。子供の頃に感じていた何にも変え難い胸躍らせる瞬間を、同じように感じることはできなくなってしまった。

少し寂しい気もするが、旅が自分にとって限りなく日常に近づいてきた証拠でもあるように思える。これから先、どんな旅が待っているのだろうか。

まだ見ぬ景色を求めて、日本中そして世界中を飛び回っていきたい。

All photos by Tsumugi Azumaya

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