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ネオン街に“豪華キャスト”が大集結! 話題のドラマ“第1話で感じた戸惑い”とレジェンド脚本家が作り上げた世界観

  • 2025.10.7
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『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』完成披露試写会 (C)SANKEI

10月1日。三谷幸喜脚本の連続ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(以下、『もしがく』)の放送が始まった。

本作は1984年の渋谷を舞台にした青春群像劇。劇団「天上天下」の演出家・久部三成(菅田将暉)は、劇団員と大喧嘩して追放される。その後、渋谷の街を彷徨っていたところ、ネオンが光る商店街「八分坂」に迷い込んでしまう。

物語は群像劇となっており、八分坂で生きる人々の姿が描かれるのだが、三谷ドラマらしい豪華超大作となっている。
まず出演俳優がとても豪華だ。
主演の菅田将暉を中心に、神木隆之介、二階堂ふみ、浜辺美波といった若手実力派が集結。
そして、小池栄子、菊地凛子、秋元才加といった三谷脚本の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で印象深い演技を見せた女優や、井上順、小林薫、坂東彌十郎といったベテラン俳優が脇を固める隙のない布陣となっている。

一方、舞台となる渋谷の八分坂は、野外に建設した巨大なオープンセットで、とても見応えがある。

第1話で感じた戸惑い

本作の放送はフジテレビだが、三谷が民放のゴールデン・プライム帯で連続ドラマの脚本を書くのは、2000年の『合い言葉は勇気』以来、約25年ぶりとなる。
映画や舞台を手掛ける一方、近年はニュース番組のMCも務めるマルチな活躍で注目される三谷だが、連続ドラマの脚本は『新選組!』、『真田丸』、『鎌倉殿の13人』といったNHKの大河ドラマが中心で、民放の連続ドラマからは遠ざかっていた。
それだけに、三谷が90年代に『古畑任三郎』シリーズや『王様のレストラン』といった数々の話題作を手掛けたフジテレビで連ドラを書くと報じられた時は、多くのドラマファンが歓喜した。

筆者も『もしがく』の放送が待ち遠しかったのだが、第1話が思った以上にクセの強い内容だったため、正直戸惑っている。

まず冒頭で、久部が演劇に対する思いを吐露して、劇団員と大喧嘩するのだが、この激しいやりとりをシリアスなシーンと観るべきなのか、コメディとして観るべきなのかが、判断できなかった。
これが現代が舞台のドラマだったら、久部の熱い語りは独善的すぎて共感できないものだと誰の目にも理解できるため、彼がおかしなことを主張している変人だというツッコミが入ると思うのだが、そういう目線が本作には用意されていない。
では、84年はこういう熱い語りをする若者が大勢いて、あれが普通のやりとりだったのか? というと、それを判断することができるのは当時若者だった一部の人だけではないかと感じる。
少なくとも自分は、84年は子供だったので、あの時代の若者のリアリティがよくわからないため、どう観ていいのかわからず戸惑った。

たとえば、昨年話題になった宮藤官九郎脚本の連続ドラマ『不適切にもほどがある!』では、昭和から令和にタイムスリップした中年男性と、令和から昭和にタイムスリップした中年女性とその息子が、その時代ならではの文化に驚く姿をギャグとして見せていた。そのため、昭和の風俗や価値観がわからなくても、ギャグを通して説明されていたため、最後まで振り落とされずに観ることができた。
また、昨年放送された野木亜紀子脚本の連続ドラマ『海に眠るダイヤモンド』(以下、『海に眠る』)は、現代の東京と1955年の長崎県・端島(軍艦島)を行き来する物語だが、神木隆之介が現代パートと過去パートの主人公を一人二役で演じ、異なる時間の物語を交互に見せてくれたため、作品世界に入りやすかった。

『もしがく』のアプローチは『海に眠る』と近いのだが、補助線となる現在の視点がない状態で過去を舞台にした物語が始まるため、どう観ていいのかわからず戸惑った。

舞台劇のようなドラマ

また、『海に眠る』は過去の端島の風景を、現在の風景とCGを上手く組み合わせることでリアルに再現していた。 『もしがく』も、八分坂のオープンセットを建てることで、箱庭的世界観を打ち出しているのだが、端島と違い八分坂は架空の商店街で、看板や建物のビジュアルは作り物感が強調されているため、まるで舞台のセットの中にいるような手触りを視聴者に与える。

その意味で舞台劇のような作品だ。

ジャズ喫茶「テンペスト」を筆頭に、お店や人の名前は、ウィリアム・シェイクスピアの作品から引用されている。久部が演劇青年だということを踏まえると、演劇を象徴する虚構の世界に彼が迷い込んだようにも見える。 この作り物めいた世界、それこそ、舞台のセットの中に各登場人物がいるような感触はとても面白いと思うのだが、テレビドラマとしてはあまりにも異質なため、面白がりながらも戸惑っているというのが正直な感想である。

仮にこれが80年代の演劇文化に憧れている令和の青年が「交通事故に遭ったショックで、1984年の渋谷に迷い込んでしまった」といった設定だったら、違和感なく作品世界に入りこめたのかもしれない。

いわゆる、タイムスリップモノや異世界転生モノのアプローチだが、そういった現在の流行に乗らずに物語を書きたいという三谷の脚本家としての矜持も理解できる。そのため、“とっつきにくさ”に戸惑いつつも、決して嫌いになることができない不思議な魅力を『もしがく』に感じている。

今回の第1話は八分坂で生きる人々の紹介に終わったため、本格的に物語が動き出すのは、これからなのだろう。
次週の予告では、WS劇場で働くことになった久部が、芝居をやると宣言している。おそらく新人放送作家の蓬莱省吾(神木隆之介)が脚本家として関わり、倖田リカ(二階堂ふみ)やいざなぎダンカン(小池栄子)といったダンサーや「天上天下」の劇団員が参加して演劇を始めるという展開になっていくのだろう。
 
各登場人物が同じ場所に集まり交流が始まれば、三谷が得意とする役者の魅力を活かした群像劇の面白さが一気に爆発するはずだ。個人的には浜辺美波が演じる巫女の江頭樹里がどう動くかが楽しみである。

今やドラマ脚本家のレジェンドと言える三谷だが、 古巣のフジテレビで手掛ける『もしがく』は、どこに向かうのだろうか。

戸惑いながらも、この豪華超大作を最後まで楽しみたいと、第1話を観て感じた。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。