1. トップ
  2. おでかけ
  3. 【荒川区尾久・台東区谷中】安藤玉恵さんとめぐる下町さんぽ

【荒川区尾久・台東区谷中】安藤玉恵さんとめぐる下町さんぽ

  • 2025.9.1

生粋の「尾久っ子」だからわかる変化しても息づく街の魅力

初エッセイの題材に選んだのは、実家のある東京の下町・尾久とそこに暮らす家族や街の人々。あとがきに書かれた「愛された記憶や愛されたと思い込んでいることを、堂々と披露しよう」との言葉通り、安藤さんの幼少期に見た風景、出会った人々の悲喜こもごもが余すことなく記録されている。

「自分事って、本にしておもしろいのかな?って不安だったんですけど、担当編集者さんが『下町のお話を本にしましょう』って言ってくださって。実は私、昔から散々友人にも商店街の話をしていたんです。小さい時は誕生会をスナックでやってもらっていたとか。
そういう昭和の下町の話を友人もおもしろがって聞いてくれていたので、これなら書けるかなと」

思い出を形にしたことで、再確認できたこともあったようで、「3歳からお店に出ていたから、初対面の人と話すのも昔から平気なんです。子どもが『いらっしゃい~』っておしぼりを出したりして。下町のこういう店だから、店に子どもがいても苦情が出ない。知らない人ともほどよい距離感で話せるようになったことは、私の大きな強みかもしれません」

地元の街が変わっていくことに関しては一抹の寂しさも。

「昔よりは活気がなくなって、シャッターを下ろす店も増えています。エッセイに出てくる『鮨福』も今は公園になっています。昔は個人商店で物を買うのが当たり前。人と話さないと物が買えなかった。でも、得られることも多かったんですよね。旬の食材の知識だったり、ちょっとオマケしてくれたりね。世代の違う人と会話するコツも学べたかもしれない。怒られてばかりでしたけど(笑)」

安藤さんの中には、街で過ごした記憶が色濃く残っている。

「人に揉まれて過ごした幼少期。家族や街のみんなが私にとってはキャラクターの見本帳みたいなもので。台本を読んでいて、『あ、この人は焼き鳥屋のおばちゃんに似ているな』とか、生きたサンプルの宝庫。そうやって蓄積された実際にいる人のリアリティーが、今演じるうえでも、すごく役立っているような気がします」

安藤さんが商店街を歩くと、親戚のおじちゃんやら、商店の人やらが次々に声をかけてくる。中には、エッセイに出てくる人も。

「エッセイの登場人物は読者さんにとっては知らない人。でも、『あ、こういう人、私知ってる!』っていう人が一人はいるんじゃないかな?そんなふうに楽しんでくれたらうれしいです。
それから商店街も寂しくはなったけど、まだまだ魅力的な個人商店が残っています。店の人たちとの交流は、今も変わらず楽しい。今回紹介した『梅の湯』さんや『天ふじ』さんは、昔からあった古い木造建築をリノベーションして、街の人が気軽に集まれる場所にした『おぐセンター』の立ち上げにも協力しています。次世代の取り組みも少しずつですが増えていて、街の新しい魅力が増えるのも楽しみです」

都電荒川線「宮ノ前」停留所を降りると目の前には「尾久八幡神社」が。
年が明けると家族で連れだって初詣に行くのが安藤家の恒例行事だった。

都電で通えるからというのも理由の一つで早稲田大学への進学を決めた安藤さん。
愛称は「東京さくらトラム」。荒川区を象徴する存在。

「私のお気に入りの散歩コースに入っています。ふれあい動物園が楽しい」のが、こちらも荒川区を代表するスポット「あらかわ遊園」

とんかつと酒鍋の店 どん平(ぺい)

しょうが、ネギ、日本酒、おからで6時間煮込んだ豚バラ肉に衣をまとわせて揚げたとんかつは、噛むとサクッと香ばしく、中の肉はとろりとやわらか。
ソースはデミグラス。「とんかつソースを足して味変するのもおすすめです」と安藤さん。とんかつ定食1,300円。

「どん平」の二代目である兄の安藤正高さん。大学4年時、就職活動はしていたものの「この味は残すべきだ」との思いに至り、父の跡を継いだ。
早稲田大学の演劇サークル時代から安藤さんをいちばん身近で応援してきた。エッセイで描かれる兄妹エピソードを読めば、お店に足を運びたくなるはず。

昭和36年に安藤さんの父が創業。以来、ここでしか食べられない「とんかつ」を求め、地元民はもちろん、グルメ通も通う。店名にもある「酒鍋」は、夜限定メニュー。
2 階のお座敷席で楽しみたい。

【とんかつと酒鍋の店 どん平ぺい】
住 荒川区西尾久2 -2 -5
☎ 03 -3893 -8982
営 月~土11 :00 ~13 :30、17 :30 ~21 :00(L.O.)
休 日、祝日

天ぷら 天ふじ

「小台橋銀座商店街」にある持ち帰り専門のお店。
その日に市場で仕入れた鮮魚や野菜を質のいい植物油でカラリと揚げた天ぷらは、冷めてもおいしい。

二代目の長沼理さんと女将の美香さんと顔を合わせると、ショーケース越しにさっそくご近所トークに花を咲かせる安藤さん。
普段は、「天ふじ」の住居スペースに移動して天ぷらを肴に飲むこともあるのだそう。「安藤さんは野菜系の天ぷらがお好きですね」と理さん。

定番のキス天やイカ天をはじめ、穴子や真いわし、メヒカリなど、その日の仕入れによって変わる具材も。野菜天は、なす、かぼちゃ、いんげん、まいたけのほか、夏季限定のもずく天も人気。天丼をテイクアウトする人も多く、海老、キス、かき揚げ、野菜天をのせた「天ふじ天丼」が750円、好みの具材を選ぶ「おこのみ天丼」は天ぷら代+300円で作ってもらえる。

【天ぷら 天ふじ】
住 荒川区西尾久1 -32 -7
☎ 03 -3894 -4746
営 月~土10 :30 ~ 19 :15
休 日、月(月に1 回)

梅の湯

清潔感のある広いロビーでひと際目を引く「いろはカルタ絵」は、昭和26年の創業時に描かれた天井絵。廃棄するには忍びない出来なので、リニューアル時、壁に移設した。
安藤さんのお気に入りはサウナ。「追加料金なしで入れるなんて、今時めずらしくないですか?」。入浴料は大人550円。

「小台橋銀座通り商店街」の名物銭湯。高濃度水素風呂、露天岩風呂、ジェット、薬湯のほか、サウナも完備。焼き鳥屋「梅京」も併設。風呂上がりの一杯も楽しめる。

【梅の湯】
住 荒川区西尾久4 -13 -2
☎ 03 -3893 -1695
営 火~土15 :00 ~翌1 :00、日8 :00 ~ 12 :00、
15 :00 ~翌1 :00
休 月

雑貨と本 gururi

「安藤さんが阿佐ヶ谷姉妹さんをモチーフにした人形を展示していたのを、ふらりと見に来てくれたんです」と話すのは店主の渡辺愛知さん。
隣接する「展示室」をオープンする際には、こけら落としとして、トークイベント「安藤玉恵のよんできかせて」を開催した。お店が出すフリーペーパー「meguru」で連載もしている。

猫を題材にした書籍や絵本、猫モチーフの文房具や雑貨など、猫好きにはたまらない陳列棚。ほかにも、「きっと彼女ならこんなものを選ぶはず」と、「架空の女の子」の好きなものを想像して、店主の渡辺さんが厳選したものが並ぶ。
「安藤さんはよく韓国文学も手に取られています」

雑貨もよく買うという安藤さんがこの日気になったのは、倉敷意匠katakataの猫皿2 ,640円。

店のアイコンになっている架空の女の子をイメージして選んだ本や生活雑貨を集めた、通称「へび道」沿いにある小さな本屋。
隣接する「展示室」では展示会やイベントも開催。

【雑貨と本 gururi】
住 台東区谷中2 -5 -14 C
営 水、木、土、日12:00~18:00、金12:00~20:00
休 月、火 ※臨時休業あり

ビアパブイシイ

「イシイさんとは10年くらいのお付き合い。ここで日本のクラフトビールの味を覚えて、すっかり虜になりました」と安藤さん。
店主の石井寛之さんの料理もこの店に通う理由の1つ。
「メニューにある料理はだいたい食べたかな。何を食べておいしいです」

この日安藤さんが選んだのは、神奈川県厚木市の地ビール「サンクトガーレン」のペールエール850円(半パイント)。深いコクと苦味、芳醇な味わいが魅力。
イシイには4つのタップがあり、1つ打ち抜かれるたびに新しいビール樽につなぎ替える。つまみに選んだのはコロネーションチキン700円。
「近所の青果店に行ってその日の料理を決めています」と石井さん。

東京芸術大学関係の常連も多い。こちらは、卒業生による石井さんの木彫りの人形。

イギリスのパブ文化を日本で再現したいと「谷中よみせ通り」に開店。国内でていねいに作られたクラフトビール(地ビール)を中心に店主が厳選した1 杯が味わえる。

【ビアパブイシイ】
住 文京区千駄木3 -45 -8
営 水~土17 :00 ~翌1 :00、日15 :00 ~22 :00
休 月、火

pásele(パセレ)

店主の稲垣侑香さんいわく、「チュロスをチョコレートに浸して食べるのが本場流。チュロスが甘すぎないのもそのためです」。

チュロス・コン・チョコラテ(プレーン)1,310円。
地元民の編者おすすめ。

揚げ立てのチュロスとホットチョコレートは、スペインのポピュラーな朝ごはん。そのおいしさを知ってほしいと始めた隠れ家的なカフェ。静寂のひとときを過ごせる。

【pásele(パセレ)】
住 台東区谷中2 -15 -5
営 水~金10 :00 ~ 18 :00、土、日9 :00 ~ 19 :00
休 月、火

撮影/白井裕介 スタイリング/平井律子 ヘアメイク/成田祥子 編集・文/鈴木香里

大人のおしゃれ手帖2025年8月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

元記事で読む
の記事をもっとみる