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8月31日はダイアナ元妃の28回目の命日──伝説のアスコットスタイルとファッションに込めた永遠の想いを振り返る

  • 2025.8.25
レディ・アメリアとレディ・エリザのスペンサー姉妹。
Royal Ascot 2025 - Day Fourレディ・アメリアとレディ・エリザのスペンサー姉妹。

「南アフリカで育った私たちは、成長するまで彼女がどれほど大きな存在だったのかあまり実感していませんでした。なぜなら、私たちにとって彼女はいつも優しい普通の叔母だったからです。子供だった私たちと仲良くなろうと懸命に努力していた彼女は、信じられないほど温かく、母性的で愛情深い人。そして、子供たちの心を読む天賦の才能を持ち合わせていました」

2025年6月20日、イギリス「Town and Country」誌にこう語ったレディ・アメリアとレディ・エリザのスペンサー姉妹は、王室御用達ブランド、Aspinal of Londonのアンバサダーとして目下ファッション界で注目を集めるダイアナ元妃の双子の姪だ。叔母を彷彿とさせる笑顔が美しい二人が、6月に開催された王室主催の競馬行事・ロイヤルアスコットに揃って姿を見せた。

1711年にアン王女が開催して以来、テニスのウィンブルドン選手権、ロイヤル・レガッタ、ゴルフ全英オープンと並ぶイギリスの夏の一大イベントとして、毎年6月の第3週にアスコット競馬場で開催されるこの行事に臨んだ二人は、The Foldの白いスーツに、黒いリボンをあしらったつば広の帽子、そしてAspinal of Londonのハンドバッグと一際エレガントな王道のアスコットスタイルで会場を魅了。この日のファッションについて聞かれた際、毎年アスコットでスタイリッシュなルックを披露していた亡き叔母ダイアナ元妃に想いを馳せ、前述のように語った。

王室行事「ロイヤルアスコット」とは?

1990年アスコット競馬場にて。
Diana Charles At Ascot1990年アスコット競馬場にて。

日本からもエイシンヒカリ(2016)、ディアドラ(2019)とともにプリンスオブウェールズステークス(G1)に2度参戦した武豊らが出場した実績のあるロイヤルアスコットは、さまざまな出走条件・競争格・コース・賞金総額のもと、世界中からトップジョッキーと名馬が参戦する長い歴史に彩られた競馬の祭典だ。

そして王室主催行事であることから、当然ながら観戦客と報道陣にもドレスコード厳守が義務付けられており、特に1807年に国王ジョージ3世が一族やゲストのために特別に予約したことに由来する特等エリア“ロイヤルエンクロージャー”では、ルール違反をした場合は退場を言い渡されることもある。男性は黒かグレーのモーニングとトップハットまたは軍服の着用、女性はフォーマルドレスか上下素材と色が揃ったパンツスーツの着用、ドレスやスカートは膝上かそれ以上の長さ、肩のストラップは幅が2.5cm以上、また帽子かヘッドピースは必須で、最低でもベースの直径が10センチのものを着用、さらにイギリス国籍以外の観客限定で観客本人の国籍に基づいた民族衣装の着用が可能など、その規定はかなり細かく厳密だ。そのため、観戦者は皆この特別なルールに従うべく、かなりの時間をかけて当日の衣装を準備することになる。

ルールを打ち破るファッションアイコン

1990年アスコット競馬場にて。
Royal Ascot, 19901990年アスコット競馬場にて。

しかし、1990年にアスコット競馬場でみせたダイアナ元妃のスタイルは、その規定を見事に打ち破るものとして今もなお記憶に残り続けている。この日当時の夫チャールズ皇太子とその弟のアンドルー王子&セーラ・ファーガソン夫妻(1996年に離婚)とともに会場に現れたダイアナ元妃は、大きなバックルベルト付きの紫色のペンシルスカート、肩パッド付きのチェリーレッドのクロップドジャケットの下にレモンイエローのトップス、さらに赤いリボンをあしらった紫色のハットを合わせるなど、前例にないカラフルなアンサンブルに身を包んで会場の視線を釘付けにした。

1991年のロイヤルアスコットではホワイトのセットアップを着用。インナーにモードなドット柄を合わせていた。
Diana At Ascot1991年のロイヤルアスコットではホワイトのセットアップを着用。インナーにモードなドット柄を合わせていた。

故アンナ・ハーヴェイと作り上げたモダン・プリンセス・スタイル

1988年、アスコット競馬場にて。キャサリン・ウォーカーが手がけたルックはロング丈のジャケットが主役に。
Diana At Ascot1988年、アスコット競馬場にて。キャサリン・ウォーカーが手がけたルックはロング丈のジャケットが主役に。

そんなダイアナ元妃の友人でありファッションメンターだったのが、アナ・ウィンターの元でジュニア・ファッション・エディターを務めていたUK版『VOGUE』の元エディターのアンナ・ハーヴェイ(2018年に他界)だ。1997年にダイアナ元妃が他界するまで公私にわたり深く関わってきたアンナは、生前彼女との関係についてこう語っている。

「ダイアナ妃はメディアや大衆が自分のファッションをどのように解釈するかについて常に気に留めていたため、プライベートや王室行事にふさわしい装いを探るべく、二人で試行錯誤を繰り返しました。そして多くのことを学ぶにつれ、ダイアナ妃は何が自分に似合うかを瞬時に見極めるようになったのです」

鮮やかなオレンジのスーツはヴェルサーチェがデザイン。
Diana Liverpool鮮やかなオレンジのスーツはヴェルサーチェがデザイン。

そして、ヤン・ファン・フェルデンやマレー・アーベイト、そしてジャスパー・コンランらデザイナーが当時ダイアナ元妃の衣装を担当しており、中でもキャサリン・ウォーカーとは公私共に数多くの衣装を手がけたと語っている。

1997年7月、ロンドンのテイトギャラリーで開催されたガラへ。シックなレースの黒ドレスがエレガント。
Diana In Jacques Azagury Design1997年7月、ロンドンのテイトギャラリーで開催されたガラへ。シックなレースの黒ドレスがエレガント。

一方で、後にダイアナ元妃と密接に仕事をするようになったデザイナーのドナテッラ・ヴェルサーチェは、「自分の選択に自信を持つようになったダイアナ妃のファッションへの興味は、チャールズ皇太子との離婚後に顕著に高まった」と証言。ふんわりしたフリルやパステルカラーなど、結婚当初の“理想のプリンセススタイル”から、離婚後は大胆なオフショルダーのボディコンドレスを見事に着こなすモダン・プリンセスへと見事な変貌を遂げ、ディオールの「レディ ディオール」やグッチの「グッチ ダイアナ」、サルヴァトーレ フェラガモの「ダイアナ クラッチ」のインスピレーションとなり、ファッションアイコンとしての地位を揺るぎないものにした。

TPOに合わせて心を込めた公務ファッション

1997年1月アンゴラのルアンダを訪問。胸もとにはイギリス赤十字社のチャリティを象徴するバッジが。
Diana Angola1997年1月アンゴラのルアンダを訪問。胸もとにはイギリス赤十字社のチャリティを象徴するバッジが。

しかし、ダイアナ元妃とよく仕事をしたデザイナーの一人であり、2025年4月に他界したデイヴィッド・サスーンは「ダイアナ妃には強い意志があり、新しいスタイルに挑戦することで既存のルールを打ち破っていた」と明かしており、その“強い意志”は、公務ファッションで多く見られたという。

王室の装いには「一般人と会う際に手袋を着用する」などの細かい規定が数多く存在するが、80年代に当時はまだ未知の病として恐れられていたエイズ患者との握手をメディアに公開した時の彼女の手もとは素手だった。これこそが、重篤な病気に苦しむ人々を含め、出会う人たちと直接繋がりを持ちたい、という彼女の“強い意志”でもある。さらに、入院中の子供たちを訪問するときも、病気の子供の気分が明るくなるようなカラフルなドレスを着用したり、ジャラジャラしたおもちゃのようなジュエリーをあえて選んだり、子供を抱きしめてあやす時に邪魔だと帽子を着用しなかったなど、TPOに合わせて心を込めたファッションを選択したという。

1986年、京都の二条城を訪問した際は日本国旗を連想させるドット柄のスーツを着用。
Charles and Diana Visit Japan1986年、京都の二条城を訪問した際は日本国旗を連想させるドット柄のスーツを着用。

また外交でも、訪問先の国の文化に敬意を込めたファッションを選んでいた彼女は、1986年の初来日時には日本の国旗を思わせる赤と白のドットドレスで日本国民を魅了し、“ダイアナフィーバー”を巻き起こす一方、公のイベントでは主催慈善団体のグッズを着用し、ファッションを通して大衆の視線を社会問題に集めることにも心を配っていた。

贈られた着物を羽織り、柔らかな笑顔を見せたダイアナ元妃。
Diana In Kimono贈られた着物を羽織り、柔らかな笑顔を見せたダイアナ元妃。
地雷撲滅運動に力を注いでいたダイアナ元妃は地雷埋設地帯へも積極的に足を運んだ。
Diana, Princess of Wales wearing protective body armour and地雷撲滅運動に力を注いでいたダイアナ元妃は地雷埋設地帯へも積極的に足を運んだ。

時折見せたカジュアルなスタイルでは、メッセージやロゴが入った“ステートメントニット”にパンツスタイルが多かったが、かつて英国ブランドのWarm & Wonderfulの通称“ブラックシープセーター”を着用したところ、ブラックシープが“はぐれ者”を意味することから、自身が王室の「厄介者」であると感じていることの比喩ではないかと大きな論争を巻き起こしたこともあった。しかし、自身が“使命”と言ってはばからなかった地雷撤去現場の視察など、精力的に取り組んできた人道的活動では、訪問地の惨状を細かに視察しメディアに訴えるため、機能的かつ実用的なボタンダウンシャツやスーツを着用していたことは周知の通りだ。

キャサリン・ウォーカーと作り上げたロイヤルレガシー

デザイナーのキャサリン・ウォーカーとともに。
Diana And Catherine Walkerデザイナーのキャサリン・ウォーカーとともに。

だが、アンナ・ハーヴェイの言葉を借りるなら、ダイアナ元妃が常に心を砕いていたのは自身の美しさを引き立てつつ王室メンバーとしてのイメージを保つファッションであり、特にデザイナーのキャサリン・ウォーカーとは友人同士として二人三脚で公務とプライベートのファッションを作り上げて行った。

1987年、カンヌ映画祭にて。
Princess Diana Retrospective1987年、カンヌ映画祭にて。

1987年のカンヌ映画祭で着用したストラップレスの青いドレスや、1988年のフランス公式訪問時に着用した精緻な総レースのイヴニングドレスなど、印象的なスタイルは数多い。が、中でも香港公式訪問で魅せたパールを散りばめたジャケットとメアリー王妃からその孫のエリザベス2世、ダイアナ元妃、そして現在はキャサリン妃へと継承されたパールとダイヤモンドの“ラバーズ・ノット・ティアラ”との優雅なコーディネートは、今なお世界が記憶するところだ。

香港公式訪問にて。繊細なパールを散りばめたホワイトスタイルを披露した。
Princess Diana waering Catherine Walker香港公式訪問にて。繊細なパールを散りばめたホワイトスタイルを披露した。

ダイアナ元妃は1997年8月31日に、そして王室御用達デザイナー、キャサリン・ウォーカーは2010年9月23日に他界したが、二人が作り上げたレガシーは、2016年のキャサリン妃や2025年のエラ・ウィンザー(=レディ・ガブリエラ・キングストン)らのアスコットスタイルなどに着実に受け継がれている。

1987年、シャネルのレッドルックを纏ってフランス・オルリー空港に降り立つダイアナ元妃。
Diana In Paris1987年、シャネルのレッドルックを纏ってフランス・オルリー空港に降り立つダイアナ元妃。

「初めてのフランス公式訪問で、シャネルの赤いダブルツイードのコートに身を包んで飛行機から出てきたダイアナ妃を見た時、“これぞパリへの凱旋訪問”と思った」と、最も記憶に残るダイアナ妃のファッションについてこう語ったアンナ・ハーヴェイ。だが当のダイアナ元妃自身は、1990年の『VOGUE』のカバー撮影時にヘアメイクを務めたサム・マックナイトに対し、ファッションへの想いについてこんなふうに明かしている。

「サム、(私のファッションは)私個人のためのものではありません。私が訪問したり、私に会いに来てくださる人のためのものです。そして皆さん、普段着の私ではなく“プリンセス”である私を求めている。だからこそ、その期待に応えたいと思うのです」

<参考文献>

https://www.townandcountrymag.com/society/tradition/a65124261/princess-diana-nieces-amelia-eliza-spencer-royal-ascot-2025/

https://www.countryandtownhouse.com/style/anna-harvey-style/

https://www.ascot.com/

https://www.hellomagazine.com/fashion/royal-style/839159/princess-diana-forgotten-rainbow-outfit-would-be-banned-ascot-2025/

https://umatoku.hochi.co.jp/articles/20220614-OHT1T51139.html

https://www.telegraph.co.uk/art/what-to-see/diana-fashion-story-kensington-palace-review/

https://www.bbc.com/news/uk-england-london-38994105

https://www.newyorker.com/culture/on-and-off-the-avenue/the-second-life-of-princess-dianas-most-iconic-sweater

https://www.hellomagazine.com/fashion/royal-style/839117/lady-gabriella-kingston-stole-princess-kate-designer-dress-ascot/

https://www.tatler.com/article/kate-middleton-catherine-princess-wales-diana-trooping-the-colour-2025

https://www.telegraph.co.uk/fashion/people/why-princess-diana-remains-an-enduring-style-icon-for-all-genera/

https://www.vogue.co.uk/news/article/catherine-walker-and-co-duchess-of-cambridge-princess-diana

https://www.hellomagazine.com/fashion/royal-style/839117/lady-gabriella-kingston-stole-princess-kate-designer-dress-ascot/

https://edition.cnn.com/audio/podcasts/when-diana-met

https://www.vogue.com/article/anna-harvey-british-vogue-obituary

https://www.tatler.com/article/princess-diana-clothes-auction-juliens-2025

https://www.newyorker.com/culture/on-and-off-the-avenue/the-second-life-of-princess-dianas-most-iconic-sweater

https://www.nytimes.com/2017/02/22/fashion/princess-diana-exhibition.html

https://www.townandcountrymag.com/society/tradition/a10302981/cambridge-love-knot-tiara/

Photos: Getty Images Text: Masami Yokoyama Editor: Mayumi Numao

ダイアナ元妃
1982年
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デヴィッドとエリザベス・エマニュエル夫妻がデザインしたウエディングドレスに身を包んだダイアナ妃のポートレート。
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