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デムナの新生「グッチ」デビューショー。「好きか嫌いか分かれる。それがファッション」

  • 2026.3.5
Daniele Venturelli / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

「このコレクションが私自身の“グッチ像”です。好きか嫌いかは分かれるでしょう。感情を揺さぶるのがファッションですから」。ほとんど表情を変えずに、淡々と言葉を並べるショー直後のデムナ。バックステージにジャーナリストとセレブリティが押し寄せ、身動きが取れないほどの喧騒の中で、コレクションに込めた思いについて率直に語る。

Daniele Venturelli / Getty Images

「セクシーでありたい、魅力的でありたい、自分を好きでいたい。過去10年間、自分を賢いデザイナーだと証明しようとしてきました。でも『グッチ』で、知性ではなく感情から創造できると気づいたのです。それは好き嫌いが分かれるかもしれないが、新しい可能性を開く。壮大なヴィジョンやデザインを生み出すうえで、感情は欠かせないのです」。

Getty Images

デムナが「グッチ」アーティスティック・ディレクターに就任してから約1年。昨年9月にルックブックと映像で発表した“La Familia”と、続く12月に披露した“Generation Gucci”は「『グッチとは何か』を理解するためのリサーチの一環」だった説明した。今季は、美術史上最も難解で謎に満ちたボッティチェリの作品『プリマヴェーラ』にかけて、“GUCCI PRIMAVERA”と名付けた同コレクションでランウェイデビューを飾った。

Courtesy of Gucci

会場に選んだのは、本来無機質な空間であるパラッツォ・デッレ・シンティッレ。大理石を思わせる壁と階段に、メゾンが創設した都市フィレンツェにあるウフィツィ美術館に所蔵される彫像のレプリカが並び、仮設の美術館と化していた。当初は全く異なる方向性のショーを予定していたが、フィレンツェへアーカイブ研究のために訪れた後に、セットデザインを大きく変更したことを明かしたデムナ。

Courtesy of Gucci

「『グッチ』はボッティチェリやミケランジェロと並ぶ、イタリア文化の一部です。そして私の責任の一つは、『グッチ』に文化的な関連性を取り戻すこと」。神中心の中世から人間中心へと文化を転換させ、感情と個のダイナミズムを解き放ったルネサンスの時代を「グッチ」にもたらす構想なわけだ。

Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ルネサンスの至宝やマニエリスムの代表作を模したレプリカが見守るなか、身体に吸い付くような白いシームレスのミニドレスでショーは幕を開けた。男性モデルは胸筋や上腕のラインが露わになり、ラミネート加工のパンツが脚の動きを強調する。その姿は、ルネサンス期の理想的プロポーションを、現代のストリートへと引き戻したかのよう。

Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

デムナのシグネチャーだったオーバーサイズは姿を消し、代わって登場したのはトム・フォード時代の90年代後半を思わせるミニマルなボディコンシャスなシルエット。「多くの人は、私がモノグラム入りのオーバーサイズのボンバージャケットを作ると思っていたでしょう。ChatGPTですらそう答えたかもしれない」。暗い会場にスポットライトを走らせる照明演出も、フォード時代へのオマージュのように映った。ほぼ全員がタイトな衣服で胸筋や乳首、腰骨、太ももなどのラインを際立たせ、身体を意識せずにはいられない。

Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ヒートシールによる見えない縁取りや計算されたカーブヘムが、視線を自然と肉体へと導く。手元に携えるのは、スリークなフォルムに再解釈された“BAMBOO 1947”。モデルは挑発するような視線を投げかけ、堂々とヒップを揺らし、時には朝帰りを思わせるように足元をふらつかせる。

Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

個をたたえるデムナらしい演出により、ランウェイはキャラクターの競演の場となった。「モデル一人ひとりに『自分らしくあれ』と伝えました。ただし誇張して。自分の個性を隠さず、限界まで押し広げてみてほしかった」。そんなキャラクターを演じたのは、カーリー・クロスやエルザ・ホスクといったアイコニックなスーパーモデルたち。

Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
Daniele Schiavello / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

さらにはイギリス人ラッパーのフェイクミンクや、ヒップホップ界の新星ネットスペンドといったカウンターカルチャーの新世代も並んで歩く。フロントローにはヒルトン姉妹、アレッサンドロ・ミケーレ、日本からはXGのCOCONAが並び、世代もジャンルも異なる顔ぶれが一堂に会した。

Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

ルックはやがて夜のムードへと移ろう。エミリー・ラタコウスキーがきらめくミニドレスにスティレットパンプスで登場。ショー終盤、背中を大胆に露出したブラックドレスがゆっくりと歩みを進める。現れたのはケイト・モス。きらめく“GG”のタンガがわずかにのぞき、観客席は一斉にスマートフォンをランウェイへと向けた。

Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

「ランウェイや観客席には、私が音楽を聴き、アートを消費し、本当に好きな表現者たちが多くいました。彼らを含めた“グッチ・コミュニティ”を築き、私のヴィジョンをここから始めるのは自然なことでした」。デムナにとって今回のデビューショーは、カルチャーの再編であり、コミュニティの再構築という位置付けだ。

Isidore Montag / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

「『グッチ』に文化的な関連性を取り戻す」とはつまり、ドラマチックで情熱的で愛と憎しみさえ交えた、理性ではなく“感情”で結びつくコミュニティ。テーマに“プリマヴェーラ(春)”と掲げた通り、光の差す方へと芽吹くように「グッチ」は新たな季節へと歩み出した。彼は最後にこう締めくくった。「『グッチ』のDNAには、自分自身を祝福すること、恋をすること、誘惑すること、大胆であること、恐れないこと――そうした精神が刻まれています。今日、あなたたちに『グッチ』を“感じて”もらえたならうれしい」

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