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7年前の朝ドラに出演していた“超有名俳優”「知らなかった」「日本の宝」すでに光っていた“カメレオン的な演技力”

  • 2025.9.27

2018年に放送されたNHK連続テレビ小説『まんぷく』が描いたのは、単なる発明家の成功譚ではない。塩作りから栄養食品・ダネイホン、そして世界を席巻する即席ラーメン、さらにはカップ麺へと至るプロセスは、幾度となく挫折と敗者復活を繰り返した歴史だ。その背後には、家庭の台所で生まれた小さな気づきと、家族の支えによる意思決定があった。“失敗学×家族学”の視点から、朝ドラ『まんぷく』の核心を読み解いてみたい。

製塩業に学ぶ、敗者復活の初期形

戦後間もない泉大津。萬平(長谷川博己)と福子(安藤サクラ)が始めたのは、倉庫に残された鉄板を使った製塩業だった。しかし収益は伸び悩み、世良(桐谷健太)による横流し事件が発覚する。

絶望的な状況を救ったのは、福子の判断だった。

経済界の三田村(橋爪功)に直接訴え、資金援助を取り付けたことで事業は継続。ここで重要なのは、塩そのものの品質向上だけでなく、毎日の賄いを担当した台所の知恵が、作業効率や組織の再編に活きていた点だ。失敗を“仕組みの再設計”へと転換する、敗者復活の第一歩である。

次なる萬平の挑戦は、栄養食品・ダネイホン。戦後の人々が栄養失調に苦しむ姿を目の当たりにした萬平の発想だった。ここでも、味の調整や販売先の選定に迷う萬平を、福子が現実的に支える。昆布に置き換えるアドバイスや、病院に販路を絞るという提案は、まさに家庭の食卓目線から生まれた実践知だった。

家庭的なセンスが社会実装を可能にし、商品は病院で評判を得る。ここに“家族学”の力が見て取れる。

天ぷら油が生んだ逆転の発想

敗者復活を象徴する瞬間は、即席ラーメン開発のシーンにもある。麺づくりに行き詰まるなか、福子が天ぷらを揚げる姿を見た萬平が、“麺も油で揚げればいい!”とひらめいた場面だ。

台所での何気ない一瞬が、世界初のインスタント麺を誕生させた。さらに、福子の“テレビCMをつくろう”という発案や、歩行者天国で若者に試食させる販売戦略も、生活者の直感に根ざしたアイデアだった。家庭が研究所となり、台所が最大のR&D部門となったのだ。

やがて市場が飽和すると、萬平はまんぷくヌードルに挑戦する。ヒントはアメリカ出張での経験。箸もどんぶりもない文化を前に、容器一体型の発想に至った。

若者にターゲットを絞った販促、自販機導入、歩行者天国での試食。いずれも“食の体験”を再設計する戦略だった。高価格ゆえに苦戦したが、福子の“柔らかい頭で若者に売るべき”という現実的判断が功を奏し、ヌードルは大成功を収めた。

萬平の発明はしばしば暴走気味で、金銭や経営の視点が抜け落ちることもあった。そんなとき、福子は“止める・言い換える・小さく試す”という三つの技で彼を軌道修正した。彼女の希望は根拠のない楽観ではなく、生活実感と市場の反応を踏まえた“現実的希望”だった。家族の台所から社会へ。その橋渡し役を担ったのが福子なのである。

東太一(菅田将暉)が拓いた制度の道

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菅田将暉(C)SANKEI

敗者復活のもうひとりの担い手が、若き弁護士・東太一(菅田将暉)だ。

社員への奨学金が脱税と誤認された事件では、理路整然と論点を整理し、世論を味方につける戦略を提示。初登場時の東は、人と目を合わせられないシャイな青年だったが、理不尽な権力に向かう場面では、視線を逸らさず、間を活かした説得力を見せた。

声を張るのではなく“間”で押す演技は、東を演じた菅田の繊細な身体表現の強みだ。さらにNetflix『グラスハート』で演じたカリスマ的ボーカル・真崎桐哉の“攻めの表現”と対比すれば、東太一の“静のカリスマ”が際立つ。

舞台映えする華やかさと、内面に宿る正義を体現する透明感。菅田のカメレオン的な演技力は、すでにこの時点で光っていた。SNSでも、「この役はとても“はまり役”」「日本の宝だなぁ」「出演されてるの知らなかった」といったコメントも見られた。

ビジネス実装としての“台所イノベーション”

『まんぷく』の物語は、技術史であると同時に生活文化史でもある。台所での気づき(油・具材・CM)と、制度的な守り(東の法廷)、そして市場での体験設計(販路・価格戦略)。これらが三位一体となって、敗者復活の道を切り拓いた。

発明は工房だけで生まれるのではない。家庭と社会が協働することで初めて完成するのだ。

『まんぷく』が伝えるのは、失敗を恐れない発明家のロマンではなく、失敗を生活文脈で再設計し直す力の物語だ。天ぷら油の発想、CMの着想、若者への戦略、そして弁護士による制度的支え。すべては“台所”から始まり、家族が伴走し、社会が制度で受け止める。

そのレシピはこうだ。「家庭の小さな発見が、産業を動かす。失敗は台所で“次の一手”に変わる」。敗者復活の物語は、いまを生きる私たちにもなお力強く響いてくる。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_