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仕込まれた“意味深”な配役「最高のキャスティング」「とんでもない脚本」現実と役柄を重ねた“メタ的な構造”の妙【水曜ドラマ】

  • 2026.3.6
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『冬のなんかさ、春のなんかね』第6話(C)日本テレビ

『冬のなんかさ、春のなんかね』第6話では、ついに文菜(杉咲花)が恋愛にまっすぐ向き合うことが怖くなったきっかけが描かれた。きっかけとなった恋愛の相手・田端亮介を演じたのは、timeleszの松島聡だ。SNSでは「最高のキャスティング」「ひどい男なのに抗えない」「とんでもない脚本」と、儚く優しげな存在感を持ちながらも、ずるい立ち回りに注目が集まった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

自分が自分でなくなってしまった冬の恋

ホテルで山田線(内堀太郎)と会っていた文菜は、過去にとても好きだった男性に送ったメールを見返していた。そのメールは、文菜にとってまだ生傷のまま残っており、2年後の現在も行動に影響を及ぼしているようだ。山田にメールを見せつつ、文菜は2年前の恋愛を回想する。

相手は音楽関係の仕事をする田端亮介(松島聡)。既婚者や彼氏持ちと関係を持つ彼と文菜は、関係を持っていなかった。重たいメールを送ったときの文菜は、亮介が自分にだけ開いてくれる心の扉、あえて関係を持たず特別視されていることに喜びつつも、それでも触れ合えないことに苦しくなっていた。そばにいたい。同じ時間を過ごしたい。でも、その分だけ執着し、自分が自分でなくなってしまう。それをわかっているのに、呼び出されると会いに行ってしまう。文菜にとって亮介への思いは、自分を制御できなくなる恐ろしいものだったのだろう。演じている杉咲の表情には、第5話までの男性の前では見せなかった切迫感が見えた。

1人でいるときは亮介への思いに苦しみ、会いたいでも会いたくないと揺れている文菜。亮介に会えないときの文菜のこわばった表情は、まるで厳しい寒さにさらされているようだった。しかし、亮介に会うと心がゆるっと解けてしまう。松島が田端として醸す雰囲気には、制御できない感情ごと包み込む毛布のような安心感と、あたたかさゆえに抗えない麻薬的な魅力があった。文菜のものになる気はないのに、優しく包み込んでくれる。ただただずるい男だ。

好きな人には、好きな人がいる

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『冬のなんかさ、春のなんかね』第6話(C)日本テレビ

文菜が口にしてしまった「キスしてほしいです」という切実な願望が、亮介の本音を引き出した。

亮介には片思いしている幼なじみ・麻衣子(鈴木愛理)がいた。その幼なじみは元アイドルで、現在はレズビアンであることを公表し、パートナーと共に活動している。亮介は、過去にその幼なじみに告白していたが、麻衣子が片思いしているであろう女性への歌詞を受け取るという形で、遠回しに振られていた。

亮介は、好きな人は絶対に自分を見てくれないという残酷な現実をはっきりと告げられるのではなく、察する形で恋を諦めることになったのだ。文菜に話しているときの亮介は不自然に顔を逸らせて、涙を我慢したかのような仕草を見せた。麻衣子への恋に破れたときの傷はまだ治りきっていないのだろう。

文菜は、亮介からの「両思いは結果でさ。そのために人を好きになることはないよ」という言葉で、もう亮介への思いを諦めるしかなかった。亮介は自分を好きになられても答えられないから、既婚者や彼氏持ちとだけ関係を持っていたのだろう。文菜からもできれば好きになってもらいたくなかった。亮介の中に麻衣子への思いがまだある以上、文菜の好意には応えられないからだ。一方で、亮介が麻衣子と違うのは、きちんと言葉にして文菜を振ったことだ。それは麻衣子への恋で傷ついた亮介なりの優しさなのかもしれない。

小太郎(岡山天音)は文菜が好きで、文菜は亮介が好きで、亮介は麻衣子が好き。一方通行の辛さが分かるから、文菜も亮介も安易に好きを返さない。誠実さがあるように見えるが、文菜も亮介も自分に好意を向けている相手を急に呼び出すなど、都合の良さもある。恋が絡むと、人間はなんと愚かなのだろう。

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『冬のなんかさ、春のなんかね』第6話(C)日本テレビ

第6話は、現役アイドルの松島が元アイドルに恋をしていた(演じたのは元アイドルの鈴木愛理)というメタ的な構造もある回だった。麻衣子をアイドルという設定にしたのは、たった一人と向き合わず、大勢のファンへ愛情を向ける存在だからだろうか。アイドルは、レズビアンである麻衣子が恋から逃避するための術だったのではと考えてしまった。

文菜や亮介の状態を見ると、好きな人に好きな人がいるから結ばれなかった恋愛は恋愛観に大きく影響するようだ。思えば、文菜に長年片思いをしている小太郎も、第2話で文菜への思いと彼女との狭間でとても苦しんでいた。

今回、文菜が痛々しい過去の傷と向き合ったことで、文菜が過去を振り返る物語前半が終了といったところだろうか。後半は悲しいことに、第4話で描かれた元彼・小林二胡(栁俊太郎)の死から始まるようだ。二胡を失ったことは、文菜の恋愛観にどんな影響を及ぼすのか。


日本テレビ系 水曜ドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』毎週水曜よる10時~

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202