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「坂本龍一の音楽を聴くととても幸せな気持ちになれる」──ミシェル・ザウナーが愛するカルチャー【FAB FIVE】

  • 2025.6.9
ミシェル・ザウナーの音楽ソロプロジェクト であるジャパニーズ・ブレックファストの最新アルバム『For Melancholy Brunettes(& Sad Women)』をリリース。 6月11日と13日の来日公演の詳細はこちら。Photo_ Pak Bae(『For Melancholy Brunettes(& Sad Women)』)
ミシェル・ザウナーの音楽ソロプロジェクト であるジャパニーズ・ブレックファストの最新アルバム『For Melancholy Brunettes(& Sad Women)』をリリース。 6月11日と13日の来日公演の詳細はこちら。Photo: Pak Bae(『For Melancholy Brunettes(& Sad Women)』)

ミシェル・ザウナーにとって2021年は大きな転機となった。作家デビュー作である回顧録『Hマートで泣きながら』がベストセラーを記録し、ソロプロジェクトのジャパニーズ・ブレックファスト名でリリースしたサードアルバム『Jubilee』が第64回グラミー賞の主要4部門を含む2部門にノミネート。2022年はその成功アーティスト、作家により、カルチャーアイコンとして一気にメインストリームへと駆け上がった。しかし、その成功を喜ぶ一方で、彼女は不安にも苛まれていた。「ずっと望んできたことを達成した喜びは大きかったですが、同時に恐怖にもかられたんです。このまま調子に乗っていたら、何がしかの形で罰を受けるのではないかと。本来は自分と自身の芸術と向き合い、パフォーマンスをすることだけに集中しているのに、その均衡が大きく崩れたので、このままではいけないと。私は欲しいものを手に入れたいという、欲望という名の誘惑に負けて、人生の歯車が狂っていくのが怖かった。そんな思いを形にしたのが、新作アルバム『For Melancholy Brunettes(&Sad Women)』です」極上のメロディに乗って語られるザウナーの繊細で詩的な歌詞の行間には、欲望を抑えきれずに堕ちていく哀しみのメランコリーと、柔らかな光が差し込んでいる。2024年は韓国に滞在して語学学校に通った。「ヨーロッパからの若い留学生のほうが、母親が韓国人の私よりもずっと優秀だったりして、恥ずかしい思いもしました(笑)。ただ、毎日10分、日記を書くことを自分に課していたので、1年分のネタはたまりました」。次の著書は、そんな韓国での体験を題材にする予定だ。

1 新作アルバムのタイトルに絡めて、あなたが メランコリックな気分のときに聴く楽曲は?

坂本龍一の「美貌の青空」です。オープンワールド探索ビデオゲーム「Sable」のサウンドトラック(『Sable』)を手がけているときに、アンビエントなクラシック音楽をいろいろと聴いていたのですが、そのときに改めて彼のストリングス・アレンジに惚れ直しました。彼の音楽を聴いているととても幸せな気持ちになれるんです。

坂本龍一の音楽は幸せをもたらすそう。 Photo_ Luciano Viti/Getty Images(Ryuichi Sakamoto)
culture_fabfive_Michelle_Zauner_ryuichi_sakamoto.jpg坂本龍一の音楽は幸せをもたらすそう。 Photo: Luciano Viti/Getty Images(Ryuichi Sakamoto)

2 『Hマートで泣きながら』で作家としても知られるあなたの人生を感動に包んだ1冊は?

数年前にトーマス・マンの『魔の山』を読んだのですが、スイスのサナトリウムを訪れた主人公が、現地で出会う人たちの異なる思想に次々と影響を受けていく姿がとても興味深く、強く影響を受けました。実は、アルバム収録曲「Magic Mountain」は、この本にインスパイアされて創った曲なんです。

作家・アーティストと して強く影響されたトーマス・マン著『魔の山』。 Photo_ The Magic Mountain by Thomas Mann/Vintage International
作家・アーティストと して強く影響されたトーマス・マン著『魔の山』。 Photo: The Magic Mountain by Thomas Mann/Vintage International

3 必ず涙してしまう愛しの映画は?

『となりのトトロ』で、お母さんが入院している病院を見舞いに訪れたサツキが、病室でお母さんに髪をとかしてもらうシーンは、観る度に涙があふれてきます。『Hマートで泣きながら』でも書きましたが、私の母も長きにわたり闘病生活を送っていたので。あのシーンを観ると、当時の感情や体験を思い出すからです。

4 衝撃を受けたアート体験は?

2023年にマドリードのプラド美術館に行き、ホセ・デ・リベーラが手がけた「フューリー(断罪者)」と呼ばれる4つの絵画シリーズのうち、現存するティテオスとイクシオンを鑑賞しました。罰せられる男たちの絵画を見て、この数年の間に自身に起きた素晴らしい変化について恐怖を感じたんです。欲しいものをすべて手に入れる誘惑と、その誘惑にハマって幸せな人生のバランスを失ってしまうのではないかと。その思いが、新作アルバムの原点になっています。

5 今年は韓国で多くの時間を過ごしたと思います。改めて韓国文化で素敵だなと感じたことは?

「空気を読む」という人々の習慣に感動しました。アメリカにはその言葉はもちろん、概念すらないので(笑)。

Text: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto

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