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「日本にもクィアの親はいる、でもそれを支える制度がない」──細野まさみ、ローラ・チャウティン、心が体現する家族の在り方【プライド月間 2025】

  • 2025.6.9

近年、LGBTQ+という言葉が広く認識されるようになってきた。そこには多様なセクシュアリティや性自認などで暮らしをおくる、さまざまな当事者が含まれる。徐々に言葉が広がりをみせる一方、とりわけ特定のコミュニティに対しては差別や偏見が根深く残り続けている現状がある。2025年2月、「特定生殖補助医療法案」が国会に提出された。そこでは第三者の精子や卵子の提供を伴う人工・体外受精の医療を受けられる対象が法律婚の夫婦に限られ、同性同士や事実婚のカップルが生殖補助医療を受けることができなくなる可能性をはらんでいた。6月5日、本法案の審議入りは見送りとなり廃案が濃厚視されているが、今改めてロールモデルの存在を示すことで、日本社会の枠組みや法制度、メディア表象などでは未だに不可視化される多様な家族の在り方を肯定し、社会の変化を促したい。

ニューヨークにあるジェンダーニュートラルなヘアサロン、ベーカンシー・プロジェクトを経営する細野まさみと、セラミックアーティストのローラ・チャウティンは2018年に出会い交際をスタート。2022年に挙げた結婚式の様子が『VOGUE』でも取り上げられた2人は、今年2月に娘の心を迎えた。クィアのカップル、とくに女性そしてノンバイナリーとして子どもを持つ経験はどのようなものだったのか、そして今何を考え社会に求めるのか。

6月のプライド月間に合わせ、3人のストーリーを聞いた。

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出会ってすぐ、とにかく一緒に家族になりたかった

〈左から〉ローラ・チャウティン、心、細野まさみ
〈左から〉ローラ・チャウティン、心、細野まさみ

──今年の2月に心さんが産まれてから、3カ月が経ちます。どんな気持ちで毎日を送られていますか。

まさみ 最初の頃は気持ちに余裕がなくて、あまりよく憶えていないんです。この小さな命を守れるのか不安でいっぱいで、ただ必死で。睡眠時間が少ないのもきつかったですが、それ以上にこの子がちゃんと生きているのかを確かめるようにずっと気を張っていました。それにあの時期のニューヨークは本当に寒くて、周りから切り離されたような孤立した時間でもありました。

ローラ 感情のすべてが剥き出しだった。産後のホルモンバランスの変化もあってよく泣いていました。

まさみ 私もずっと泣いてた。

ローラ 悪い意味じゃなく、うれし涙でね。気持ちがいっぱいいっぱいになることもあり、そのすべてがすごく濃密で、今振り返ると毎日が特別な時間だったなって思います。

──現在は子どもを持つクィアとしてニューヨークにお住まいですが、改めておふたりがご自身のセクシャリティに気がついたころのことを教えてください。

ローラ 14歳のころに初めてガールフレンドができました。友人たちにはカミングアウトしていましたが、21歳になるまで親には伝えませんでした。その後別のガールフレンドと真剣に交際していたときに、ようやく言おうと決心がついて。とはいえ、その間自分でも自身のセクシュアリティに確信が持てていたわけではなく、男の人と関係を持とうとしたこともありました。でも、やっぱりうまくいかなかった(笑)。

──カミングアウトをしたときのご家族の反応はいかがでしたか。

ローラ 母はあまり寛容ではなく、父が優しく穏やかに受け止めてくれたからこそ、母が受け止めてくれなかったことがショックでした。彼女の周りには何人もゲイの友達がいたにもかかわらずです。でも、2017年に母から謝罪を受けました。「もっと若いときに、あなたが私に話せなかったこと、本当にごめんね」と。

まさみ 今では、ローラの両親はすっかりココ(心の略)に夢中です(笑)。私は自分のセクシュアリティにはずっと気がついていて、日本に住んでいたころに彼女がいたこともありました。でも、ゲイとしては生きていけないとどこかで思い込んでいたので、子どもが欲しかったらいつか男性と結婚して家族をつくるしかないんだろうなと考えていて。そんななかでニューヨークに来てから、自分が100%クィアだと確信し、またそれが普通のことだと知ったんです。

──日本では、周囲にご自身のセクシュアリティについて話していましたか。

まさみ 話せる相手はほとんどいませんでした。2011年にニューヨークに移住して、家族にカミングアウトしたのが2014年、27歳のときでした。母は戸惑うことなく受け入れてくれて、「あなたがニューヨークに住んでいて本当によかった。クィアとして日本で生きるのはきっとすごく大変なことよね」と言っていたのを憶えています。母はいつも私の味方です。私のセクシュアリティよりも、誰と一緒にいるかを気にかけてくれていて、ローラのことが大好きなんです。

──2018年に交際をスタート、2022年にはおふたりの結婚式の様子が『VOGUE』でも取り上げられました。子どもを迎えることについては、いつごろから考えていましたか。

まさみ 赤ちゃんが欲しいという気持ちは、割と出会ってすぐの頃からありました。たしか付き合って2回目のデートでそんな話をしていた気がする。

──2回目のデートで! 何かきっかけがあったのでしょうか。

まさみ トンプキンスクエアパークに行って、コーヒーショップに寄ったとき、そこに赤ちゃんがいて、あまりの可愛さにテンションが上がっちゃって。ふとローラを見たら、彼女も同じように目を輝かせていたので、「あ、同じ気持ちなんだな」って思ったんです。

ローラ いつか子どもが欲しいとは考えていましたが、これまで誰とも2回目のデートで話すなんてことはなかったです(笑)。

まさみ どんなカップルでも結婚や子どもの話って、ちょっと探り合いみたいなところがありますよね。でも、不思議とローラとはそういう駆け引きが全然なくて、子どもが欲しいよね、とすごく自然に話せた。いつ、“どうやって”はこれからだけど、2人で子どもを持ちたいという気持ちは最初から共有していました。「結婚しよう」よりも、「一緒に家族になろう」の気持ちのほうが強かったですね。

──親としてお互いに尊敬できるところはどんなところですか。

まさみ たくさんあります。毎日そのことについて話しているよね。

ローラ まさみがどれだけココのことを愛しているか。ほんのちょっとした変化にも、すぐ気がつくところです。ココが何かできるようになるたびまさみは泣いちゃって、初めて寝返りしたときも、成長の節目だと感動して思わず涙が(笑)。

まさみ ローラは“産みの母”だからこそ、特別な感覚があると思うんです。とくにココの小さな感情の変化というか、私よりも彼女のほうがココのことをわかっているかも、と感じることもあります。私たちは同じ目線に立っているけれど、すごくいい意味で役割が違う。私はどちらかというとそっと寄り添って支える存在で、ローラの母としての直感を信じるようにしています。

背中を押したのは周りにいた子どもを持つクィアたちの存在

──クィアとして子どもを持つことを考えるのは、ときに簡単ではないと思います。そのきっかけはありましたか。

まさみ ここがニューヨークというのもありますし、サロンのお客さんや友人にも子どもを持つクィアの人が多かったので、割と自然にイメージできていて。かれらに精子ドナーや精子バンク、養子についての話を聞いて、いろいろなケースがあると知ることで前向きに考えられました。もちろんお金や制度のハードルもあるから簡単とは言えないんですが、それでも思っていたよりずっと現実的でした。

ローラ きっかけはやっぱり赤ちゃんがいるクィアの友人たちの話からでした。正直お金もすごくかかることだし、ずっとまだ準備ができていないっていう気持ちだったんです。でも、みんな口を揃えて言うのは、「完璧なタイミングなんてない」ということでした。

──今回はローラさんが心さんを妊娠されました。もしよければその理由も教えてください。

ローラ 正直ここだけは譲れないという気持ちがあって、自分がお腹のなかで赤ちゃんを育てたいとずっと思っていたんです。

まさみ ローラの両親の年齢のこともあったね。

ローラ 私の両親はそれぞれ70代半ばと後半で、元気なうちになるべく孫との時間を長く過ごして欲しいという想いもありました。

──今回は精子ドナーを利用されたそうですね。そのプロセスについて少し聞かせていただけますか。

ローラ すごく長いプロセスだったので、生殖医療クリニックを利用して医師のもとで進めようと決めました。自宅で助産師さんと一緒に進める方法や、助産師なしで自分たちだけでやる方法もありますが、成功率は下がります。また、私たちは知人ではなく、精子提供をドナーバンクから受けようと決めていました。それから遺伝性の疾患などが重ならないように、精子ドナーと遺伝子の相性を調べる検査も受ける必要がありました。

まさみ プロセスは異性カップルと変わらないと思います。日本ではまだあまり一般的じゃないですが、健康な赤ちゃんを迎える準備をするために、卵子や精子の状態を事前に細かくチェックするんです。とても“アメリカ的”かもしれませんね。

ローラ 本当に。でもそれがまたすごく安心感があって、やってよかったと思います。2月〜6月に4回トライして、妊娠しました。そのあいだは、プロゲステロンやエストロゲン、卵子を育てるためのホルモン剤や排卵を促す薬まで……、多くの薬を飲まなければならず、心も体もついていくのがきつかったです。友だちと会う余裕なんてなかったくらい。

──クィアの親として、違和感や不便さを感じたことがあれば教えてください。

ローラ マイクロアグレッションでしょうか。「夫がいるんですよね?」って、当然のように思われることがすごく多い。とくに、電話やメールなど顔が見えないときにです。

まさみ 戸籍関連のオフィスに電話したとき、「子どものことで相談したいんですが」って伝えたらすぐに、「夫の名前は?」って聞かれました。ニューヨークでは仕組みとしては異性カップルと平等でも、日常のなかにはまだマイクロアグレッションみたいなものが残っていると感じます。

──レズビアンやノンバイナリーのカップルが子どもを迎える表象は、とくにアジアでかなり少ないです。影響を受けた存在やその重要性を感じる場面はありますか。

まさみ 私は今、日本の人たちに向けて、自分の経験をできるだけオープンに伝えようとしています。というのも、日本に住んでいたときロールモデルが全くいなかったから。でも日本にもクィアの親はたくさんいます。普通に暮らしているけれど表に見えてきづらいのは、日本にはその存在をちゃんと支える制度がないから。どちらか一方しか、法的に「親」と認められないのが現実です。

ローラ ニューヨークには、レズビアンカップルのロールモデルがたくさんいます。友人のなかにもいますしね。

まさみ 私たちがほかと違うって思わないよね。まわりにも同じような友人たちがたくさんいます。

──それぞれニューヨークに移住し、互いに出会い、今では愛犬のベントー、そして心さんとともに暮らしています。そのなかで“家族”の捉え方に変化はあったのでしょうか。

まさみ ココが生まれてからは、すべてがココ中心の生活に変わりました。

ローラ ベントーには申し訳ないけど(笑)。この子のことを守らなきゃと強く感じています。とくに今のような、政治的に不安定な空気のなかではなおさらです。ココにとって、私たちが一番安心できる存在でありたい。

まさみ ココの親がクィアだから……、と気にする人はあまりいないと思いますが、誰も私たちを理由に彼女を傷つけてほしくないです。

ローラ 6月に3人で初めて日本に行く予定なんです。日本でどんなふうに受け止められるのか、楽しみでもあり、ちょっとドキドキもしています。

まさみ ちょうど先日、日本の航空会社にバシネットの手配が必要で電話したら、「ご主人と一緒ですね?」って、当たり前のように言われて。説明したけど、なかなか伝わらなくて……、結局は長いメールを書いて説明することにしました。そういうのもあって、日本ではある程度マイクロアグレッションを受ける覚悟はしています。

家族の在り方をもっと自由に想像できるようになったらいい

──これまでも、日本では思ってもみなかった反応をされることもあったとか。

まさみ 「赤ちゃんはどうやって作ったの?」だったり、「子どもと血が繋がっていないことをどう考えているの?」などと、普通に聞かれることもありました。悪意があるわけではなく、ただ純粋に興味があるだけだと思うんですが、配慮が足りていないと感じるのも正直なところです。特別扱いはされたくないけど、どうやったら自然に受け入れてもらえるか、そのバランスがいつも難しいです。

──日本では、あえて話題にしない空気も少なからずありますよね。

まさみ 私はオープンに発信している立場なのでまたちょっと違いますが、全体的に日本では、LGBTQ+やクィアの文化に反対しているわけじゃないけれど、あえて積極的に話そうとしない、もしくは見て見ぬふりをする、そんな空気を感じることもあります。もしかしたら自分の友だちや家族がクィアで、同性のパートナーがいるかもしれない。人々が家族のかたちをもっと自由に想像できるようになったらいいなって思うんです。家族って、ひとつのかたちだけが正解だけじゃないから。

──まさみさんは、日本での婚姻の平等を求める声もあげています。アメリカで受けられてよかったサポートや改めて制度の必要性なども聞きたいです。

まさみ 実際にアメリカでは本当にすべてが異性カップルと一緒なんですよ。結婚、出産育児、パスポートの取得にしても、クィアの家族だからといって対応が違うことはなくて、赤ちゃんがいて親がいる、ただそれだけです。それにここにはクィアのコミュニティがたくさんあります。ピアノレッスンや服の譲渡に至るまで、こんなにクィアの親がいるんだって最初は驚いたくらいです。

ローラ 私たちもクィアの親同士がつながれるような何かを始めたいと考えています。子どもを持つクィアの友人はたくさんいるけれど、そういうつながりがあること自体を知らない人も多いですから。

まさみ 少しでもひとりじゃないって感じてもらえたら。

──最後に、過去の自分にかけたい言葉と、日本のLGBTQIA+コミュニティに伝えたいメッセージを教えてください。

まさみ 過去の自分には、本当に愛する人と一緒に家族をつくれるんだよって伝えたい。子どもを持つために無理に男性と結婚する必要はないよって(笑)。学校では、「いつか男女が出会って結婚して、家族になる」とだけ教えられてきました。でも、もしあのとき誰かが同性を好きになる人もいるって教えてくれていたら、きっと私の人生はまったく違っていたと思います。

ローラ ほかの人にどう思われるかは関係なく、自分が何者かを受け入れて、心地よく直感を信じて前に進んでほしい。私自身、自分のセクシャリティが最初はよくわからなくて、ただの恥ずかしがり屋なのか、もしくは自信がないだけかもしれない、と確信が持てませんでした。だから、周りに合わせようとしたり、こうあるべきだとプレッシャーを感じて無理に何者かになろうとしなくても大丈夫です。少し話は逸れますが、最近の映画やドラマは、昔のように男女の恋愛だけを描く作品ばかりじゃないですよね。登場人物の代名詞がいろいろあったり、多様な在り方がごく自然に描かれていたりして、すごくいいなって思うんです。私が育ったころにはそういう表現や言葉もほとんどなかったので。

まさみ すごくわかる。以前東京に帰ったとき、自分の出身校の制服を着た女の子がスラックスを履いているのを見かけて、うれしくなったんです。私の時代にはそもそもそういう選択すらなかったし、型を破るような勇気もなかった。もしあのころ、こんなふうに自由があったらよかったのになって。属性に関係なく、自分らしくスラックスを履いていたらクール!──と言いながら、ココにはガーリーな服ばかり着せてるんですけど(笑)。

ローラ 日本のコミュニティに伝えたいのは、ゲイの人はどこにでもいるからねってことかな。

まさみ 「家族ってこうあるべき」、「恋愛はこうじゃなきゃ」、「自分はこう見えなきゃいけない」なんて、本当はなに一つ決まっていないはずなのに、それを貫くのは簡単じゃない。日本はよくも悪くもすごく伝統的で、周りと同じじゃなきゃいけない空気がありますよね。きっと時間はかかるけど、世代ごとに社会が変わっていくと本気で信じています。だからもし自分だけ“違う”って感じることがあったとしても、それはラッキーなことなんだと思ってもらいたいです。

ローラ その“違い”こそが魅力ですからね。

Photos: Shina Peng Text: Maki Saijo Editor: Nanami Kobayashi

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