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「助けてもらえる」か「痴漢に狙われる」のか「ヘルプマーク」助け合いのしるしの是非

  • 2025.4.19
息子のかばんにつけた「ヘルプマーク」(※立石美津子さん提供)
息子のかばんにつけた「ヘルプマーク」(※立石美津子さん提供)

外見からは分からない障害や疾患のある人が、配慮や援助を必要としていることを周囲に知らせることを目的とした「ヘルプマーク」。この取り組みは「人間は善い行いをする」という性善説のもとで成り立っているものなのだと思いますが、「人間の本性は悪である」という性悪説に立ってみると危険なものにもなり得る……ということもあります。

性善説か、性悪説か――。この捉え方によって、ヘルプマークをつけるのか、つけないのかの判断は変わってきます。

「抵抗できないだろう」と狙われる

私の息子は知的障害を伴う自閉症で、現在24歳です。

電車の中でニヤニヤしたり、独り言を言ったり、パニックを起こしたりすることがあるので、「これをぶら下げていれば少しは理解されるだろう」とヘルプマークをつけています。体は丈夫なので優先席に座る必要はないのですが、たまに席を譲ってくださる方がいます。

ヘルプマークには、何の障害なのかまでは記載されていないので、いろいろと戸惑うこともあります。

ある自閉症の女の子がいました。電車の中で奇声を発したり、パニックを起こしたりすることがあるのですが、親御さんはヘルプマークをつけさせていませんでした。「痴漢に狙われる」という理由からです。

電車内に車いすの乗客がいると、そのことを駅員同士で連絡する放送が流れますが、これを悪用した痴漢やつきまとい事件も実際に起きています。「家までついて来られた」という人もいると聞きます。

これと同様に、配慮や援助が必要なことを知らせるために生まれたヘルプマークをつけたことによって、かえって被害に遭うこともあるということです。

妊産婦であることを示す「マタニティーマーク」も同様です。マタニティーマークをつけていたら「席を譲ってほしいアピール」「気を使ってほしいアピール」だと思われ、嫌がらせを受けたり、おなかを蹴られたりした――。そんな事件も実際に起きているようです。

子どもが騒いだら舌打ちをされたり、ベビーカーを蹴られたりする世の中です。マークをつけていても、寛容ではない世の中ですね。

ヘルプマークを悪用するケース

療育手帳は「手帳を見せると運賃が割引になる」などの補助やサービスが受けられますが、ヘルプマークには何らかの公的なお金の補助があるわけではないので、中にはこれを悪用する人もいます。

「ヘルプマークをつけていると、電車で優先席に座っていても、おとがめなしだよ」とどっさりもらってきて、友達に配りまくっている人も実際にいました。

実際、役所の受付のカゴに、ヘルプマークが山のように置かれていて「お取りください」と書いてあるのを目にしたこともあります。「対象となる人や代理人の申し出により、1人1つまでの配布」「代理人が受け取る場合、1家族につき2枚まで」などとする自治体もある一方で、どんどん渡す自治体もあるなど、自治体によってヘルプマークの配布の仕方は異なるようです。駅の構内に置いてあることもあります。

以前、“性善説MAX”と言えるようなプラス思考の親御さんがいました。その人は自分の家の鍵につけたキーホルダーに、自宅の住所を書いていました。これはつまり、キャッシュカードに暗証番号が書いてあるようなものです。

「こんなことを書いていたら『泥棒に入ってください』と言っているようなものですよ」と注意したら、その人は「誰かが拾って、届けてくれると思って」と言っていました。それを聞いた私は正直、「おめでたい人だなあ…」と思ってしまいました。

「ヘルプマークをつけていれば、みんなが優しくしてくれる。助けてくれる」と信じ込むのは、やはり“おめでたい人すぎる”のでしょうか。

ヘルプマークをつけているだけで、まるで「困っている」という印籠のように捉える人が出てくるのも、「抵抗できない人」と思われて犯罪の餌食となるのも困ります。

そんなヘルプマークを、私の息子は必要としていますが、「いつかなくなってしまうのではないか」と心配しています。

子育て本著者・講演家 立石美津子

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