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小説のモデルにした「殺人犯」が目の前に現れた。「小説に刺された」と言う彼の目的は? 創作と過去、そして罪と向き合うヒューマン・ミステリー【書評】

  • 2026.3.19

【漫画】本編を読む

「創作」と「過去」というふたつの“呪い”が、小説家とひとりの男を運命的に結びつける――。『正しいナイフの使い方』(幌山あき/KADOKAWA)は、ある小説家の鮮烈なデビュー作とその影響を巡る人間ドラマを描いたヒューマン・ミステリーだ。

物語の主人公は、ある未成年による実際の殺人事件をモデルにした小説「正しいナイフの使い方」で鮮烈なデビューを果たした小説家・眞家准(まいえじゅん)。次々と著作を重ね一見順調なキャリアを築いているが、どこか空虚で充実しない日々を過ごしていた。そんなある日、彼のもとに突然現れた男・西は「その小説に刺されぐちゃぐちゃにされた」と語り、自分がモデルとなった事件の犯人だと告げる。そして西は眞家に「小説の書き方を教えてほしい」と不気味な依頼を持ちかけ、物語はやがて小説家と殺人者の奇妙な関係へと進展していく。

本作はサスペンスや復讐劇にとどまらず「創造する側」の心理を描く点が見どころだ。一定の成功をおさめた眞家だが、デビュー作以降、自身が生み出した作品についての達成感や自己肯定感は低く、行き詰まっていた。西の登場は本来、自分の作品が他者の人生に与える影響を真正面から突きつけられるものであるはずだが、眞家にとっては自身の閉塞感を打破する起爆剤になるかもしれないという希望の光なのだ。その姿は、創作に伴う苦しみを切実に訴えかけてくる。

一方の西の行動も、動機は単なる恨みや怒りだけでなく、自身の人生や社会との関わり方そのものを見つめ直させるものとして描かれる。ふたりが惹かれ合い、互いの内面を探りながら壊し合う関係になっていく展開は、読み手の心に重い余韻を残すだろう。

眞家と西、彼らが対峙することで明らかになるのは、小説というある意味で形のないものが、誰かの人生に確かな痕跡を残すということ。その意味を読者とともに考える作品だ。

文=富野安彦

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