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クルマのコックピットの変遷【1】 シフターの歴史

  • 2026.10.30

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第496回)

■位置、操作形式……、時代によって盛衰を繰り返す1本の“スティック”

マツダ・CX-5のシフター

クルマの新車発表会の取材にしばしば足を運んでいますが、実は一番注目するのがコックピット=運転席です。スタイリングや走行性能、燃費性能も重要ですが、やはり運転時に直接手に触れる部分が大事だと思うからです。

そのコックピットは様々な要素で構成されていますが、今回はシフターについて取り上げます。かつてはシフトレバー、セレクタレバーと呼ばれていましたが、最近は必ずしもレバーでないものもあるため、このような呼称とさせていただきます。

シフターの位置には、運転席と助手席の間の床から伸びるフロアシフト、ステアリングホイールの裏側脇=コラムから伸びるコラムシフト、そしてインパネのほぼ中央に位置するインパネシフトがあります。この3つに加えて、ステアリングホイールのすぐ裏に重なるように設けられる「パドルシフト」があり、レーシングカーに多用されているほか、フロアシフトを補完する機能としても用いられています。時代によって、そのトレンドは変化してきました。

「ベンコラ」の時代はベンチシートとコラムシフトが定番だった(日産・初代ブルーバード)

私が生まれたころ、1960~1970年代の国産車はいわゆる「ベンコラ」の時代、大きなダッシュボード(「絶壁インパネ」とも言われた)にコラムシフトとベンチシートが定番でした。このコラムシフト、アメリカの高級車ブランド、キャデラックが1938年に採用されたのが始まりとされています。「ハンドルギア」とも呼ばれ、キャデラックに倣い、日本でもプレジデントやセンチュリー、クラウンやセドリックなど後席が主役のクルマはコラムシフトが主流でした。運転席の利便性、そして、ベンチシートという“壁”により、後席のプライバシー確保が容易という意味合いもあったとみられます。

また、当時の日本はマイカー時代に入ったとはいえ、まだまだ「貨客両用」の使い方が多く、足元に目をやることなく運転に集中できること、そして、ちょっとした荷物を助手席側にポンと置いておけるビジネス上の利点もありました。タクシーなどの営業車はもちろん、乗用車でも量販グレードにはコラムシフトが根強く残っていました。

■少年の憧れ……、フロアシフトの時代

フロアシフトは当時、床からニョキっと伸びるクルマも多かった(日産・三代目ブルーバード)

一方で、フロアシフトは大衆車のスポーツグレード、豪華版で増えていきました。構造自体は自動車黎明期から存在する最も歴史のある形式ですが、日本で拡がるきっかけとなったのは、トヨタ自動車の初代カローラとされています。変速機構から直接伸びたレバーはダイレクトな変速が楽しめ、「スポーツ感覚」がアピールされました。さらに、当時は計器類が多いほどカッコいいと言われました。通常の速度計、水温計、燃料計のほか、スポーツグレードの象徴だったのがタコメーター=回転計。さらに油圧計、電圧計、油温計、電流計、ターボ仕様ではブースト計といった具合です。ステアリングの枠内では収まらず、ダッシュボード中央にデンと構えるサブメーター。そうした多様な計器類にフロアシフトは不可欠であり、少年の憧れでもありました。運転席と助手席が独立したセパレートシートも、カッコよさに拍車をかけました。シートの調整が独立してできる機能上のメリットもあります。少年野球の試合の移動で友人の車の助手席に乗せてもらった時には、友人の父親のMT=マニュアルのギアさばきを羨望のまなざしで見ていたことを思い出します。

フロアシフトはそんなカッコよさが原体験としてあり、子供心にコラムシフトは「ダサい」と感じていました。見た目だけでなく、コラムシフトは変速機からリンケージを通して操作するため、ギクシャクした感覚があり、乗用車では少数派になっていきました。特に頻繁にギアを操作するコラムMTは変速ギアの数が3速→4速→5速と増えるにつれて操作がわかりにくくなったこともあり、タクシー仕様を除き、ほぼ姿を消しました。ワンボックスカーも「乗用車感覚」と称してフロアシフトの採用が多くなっていきました。

■消えては甦る……、しぶとく生き残るコラムシフト

左上:軽自動車やミニバンを中心に普及するインパネシフト(日産・ルークス)右上:ジョイスティック風(日産・ノートオーラ)左下:ボタン式(日産・キックス)右下:ダイヤル式(スズキ・eビターラ)

このままコラムシフトは絶滅するのか……、あにはからんや、1990年代に入って復活を遂げます。その背景には「ミニバンブーム」がありました。乗用車、とりわけファミリーカーの主流はセダンから多人数が乗れるミニバンへと移ります。さらに自動車運転免許は女性の取得率が4割を超え、家族で運転を交代するケースも増えてきました。……となると運転席と助手席の間、あるいは前席と後席の間への移動、いわゆる「ウォークスルー」の機能が求められ、フロアシフトは邪魔になります。商用車と共用していたキャブオーバー、エンジンの上に前席がある構造から、エンジンを前方に出す「1.5ボックス」のミニバンが現れたことで、運転席と助手席の間には空間ができ、ウォークスルーが可能になりました。さらにベンチシートを採用すれば、3列シートまでをフルフラットにできます。シフト感覚に難があるコラムシフトでも、操作機会の少ないATならば……、コラムシフトが第二の全盛期を迎えます。

ただ、全盛期は長くは続きませんでした。やがて、シフターがダッシュボードに取り付けられる形式、通称「インパネシフト」がミニバンやスペース効率を追求する軽自動車を中心に普及します。このインパネシフト、古くはフランスのシトロエンに採用され、日本でもホンダN360、日産エスカルゴなどにありましたが、足元の自由度を高めるものでした。コラムシフトの多くはインパネシフトにとって代わられ、いよいよ“絶滅”の時がやってきたかに見えました。

しかし、クルマの電動化によって、シフターは動力源と機械的に直接つながることのない「バイ・ワイヤ」「電子制御シフト」が増えていきます。となると、もはやシフターはどこにあってもどんな形でも成立します。操作形式も従前のレバーに加えて、ジョイスティック風、ボタン、ダイヤルと多様になっていきます。そして、メルセデス・ベンツが軽い操作で行える小さなコラムレバーのシフターを採用しました。機械的につながっていた従来のコラムシフトとは違って、操作は軽く、ステアリング周辺で完結できる……、こうして、コラムシフトはまたまた不死鳥のようによみがえったのです。ただ、ステアリングコラムにはすでにライト、ワイパーなどの重要機能を担うレバーがあり、そうした機能との“争奪戦”が予想されます。「ベンツ方式」がどこまで拡がるか注目されます。

■時代が変わっても、守るべきもの、それは……?

電動化の時代もあえてレバー(ゲート式)を残すクルマもある(スズキ・eSKY)

このように、見た目、車室の広さ、操作感……、時代のニーズに応じて、シフターは様々な形で進化、復活を遂げてきました。一つだけ言えるのは、完全自動運転の社会が訪れるまでは、前進、後退、変速などの操作を人間の手で行うということには変わりがないということです。ある程度の力と触感により、「しっかり操作した」という実感が得られることが運転感覚を養う上で大切なことだと思います。それは何よりの安全機能だと私は信じています。

(【2】に続く)

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