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ビートルズの幻のデモテープ、所有権めぐる裁判が新局面へ

  • 2026.10.29

ザ・ビートルズが1962年にアビー・ロードで録音したデモテープをめぐり、ユニバーサル ミュージックと著名な音響エンジニアの遺産管理側が2018年から争ってきた裁判が、2027年1月の審理へ進むことになった。テープは廃棄されたのか、それとも無断で持ち出されたのか。(フロントロウ編集部)

ピート・ベストがドラムを叩いていた「最初のアビー・ロード」

問題のテープが録音されたのは、1962年6月6日。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、そしてリンゴ・スターが加入する前のドラマー、ピート・ベストの4人が、のちのアビー・ロード・スタジオ(当時のEMIスタジオ)で「ベサメ・ムーチョ」「ラヴ・ミー・ドゥ」「P.S.アイ・ラヴ・ユー」「アスク・ミー・ホワイ」の4曲を録音したものだ。

ビートルズにとって、このスタジオでの初めてのセッションだったとされる。ユニバーサルは裁判資料のなかで、これを「最初期のビートルズの録音」と位置づけている。ただ、それ以前にもクオリーメン時代の音源や、有名なデッカのオーディション音源が存在するため、ビートルズの「最古の録音」というわけではない。

それでも、バンドが「ラヴ・ミー・ドゥ」でデビューする直前の姿を記録した貴重なテープであることに変わりはない。ビートルズの伝記作家ボブ・スピッツ氏は米Billboardに対し、「ビートルズほど大きなバンドになると、彼らが残したあらゆる断片が歴史的な価値を持ち、大切にされるべきものになります」と語っている。

2018年、ジェフ・エメリックの自宅から発見

テープの持ち主とされてきたのは、ジェフ・エメリック。10代でEMIスタジオに見習いとして入り、1966年の『リボルバー』からはビートルズのチーフ・エンジニアを務めた人物だ。『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』などでグラミー賞を受賞し、バンド解散後もポールと長年にわたって仕事を続けた。

そんなジェフが2018年に心臓発作で72歳で亡くなったあと、ローレル・キャニオンの自宅を整理していた遺産管理人が、このテープを発見した。ジェフには遺言がなく、配偶者や子どももいなかったため、遺産は裁判所での手続きを経て、いとこたちが相続することになっていたという。

ところが、ジェフの死去から数週間後、テープが「最高額の入札者」に売却される形でインターネット上に出品されたことで、ユニバーサルがその存在を知る。2012年にEMIのレコード音楽事業を買収していた同社は返還を求めたが拒否され、双方が自らの正当な所有権を主張して裁判所に申し立てを行った。

「ゴミ捨て場」か「保管庫」か、争点は1964年の出来事

写真:ゲッティイメージズ

争いの焦点は、ジェフがテープを入手した経緯にある。双方の主張が一致しているのは、1964年に同僚エンジニアのケン・スコットからテープの存在を知らされ、スタジオの向かいにあるスカッシュ・コートに置かれていたテープを持ち帰ったという点だ。ジェフ本人は、1962年6月の録音には立ち会っていなかったとみられている。

遺産管理側は、そのスカッシュ・コートは「テープの墓場」、つまり実質的な廃棄場所であり、EMIはテープを処分することで所有権を放棄していたと主張。ジェフが持ち帰らなければ、テープは現在まで残っていなかったと訴えている。遺産管理側の代理人弁護士は、「1964年にこのテープをゴミとして捨てようとしていた企業が、60年後になって歴史を書き換えることはできません」と反論した。

これに対してユニバーサルは、スカッシュ・コートは会社が管理する保管場所であり、テープは「作業に使用されなくなった」だけで、廃棄されたわけではないと主張している。同社の弁護団は、作家が手書きの原稿を捨てたとしても、それを拾った人物が自由に出版できるわけではないという例を挙げ、反論している。

判事がユニバーサルの申し立て資格を認め、2027年1月に審理へ

米Billboardが独占で報じたところによると、ロサンゼルスのデヴィッド・コーワン判事は米時間10月16日、ビートルズの楽曲カタログを管理するユニバーサル傘下のカルダーストーン・プロダクションズに、テープの返還を求める法的資格があると判断した。遺産管理側は、同社がアビー・ロードの正当な権利承継者であることを示す一連の書類が不十分だと主張していたが、判事はこれを退けた。

これにより、残る最大の争点は、EMIがテープの所有権を法的に放棄していたかどうかとなる。審理は2027年1月に予定されており、陪審員ではなく、同じ判事が判断を下す。時効が成立しているかどうかも争点になる見通しだ。一方、遺産管理側はすでに判断の見直しを求める申し立てを提出しており、こちらはまだ結論が出ていない。

なお、争われているのはあくまで「現物のテープ」の所有権であり、録音された音楽そのものの権利がユニバーサル側にあることは双方とも認めている。遺産管理側はすでにデジタルコピーをユニバーサルに渡しているといい、裁判の結果にかかわらず、ピート・ベスト時代の4曲が公開される可能性は残されている。もっとも、裁判で勝訴した場合にテープをどう扱うつもりなのかについては、双方ともコメントしていない。

ビートルズは今年も『ラバー・ソウル』がオリコン週間アルバムランキングで54年ぶりにトップ10入りを果たすなど、日本でも話題が尽きない。ジェフが亡くなった際、ポールは「彼の仕事は、音にこだわる人たちに長く記憶されることでしょう」と追悼していた。

ビートルズの快進撃が始まる直前に録音された1本のテープは、いま法廷でその行方が決まるのを待っている。

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