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【池袋駅から5分・大山】甘辛いたれで焼き、白飯をかっこむ"九州焼肉"「焼肉 一」

  • 2026.10.29

進化を続ける東京の町焼肉。今回ご紹介するのは、熊本・八代の老舗焼肉店の三代目が営む、大山の「焼肉 一(いち)」だ。九州ならではの甘口醤油を使った“甘辛いたれ”で肉を焼き、白飯をかっこむのがこの店の醍醐味。祖母から受け継いだ味噌だれ、父が考案した醤油だれ、そして三代目が東京の味覚に合わせて生み出した“うま辛ダレ”。三代の味が並ぶ肉は、和牛カルビから大判のロースまで、どれも白飯との相性抜群だ。熊本で育まれたたれ焼肉の魅力を東京で味わえる、新たな町焼肉に迫ります。

【池袋駅から5分・大山】甘辛いたれで焼き、白飯をかっこむ"九州焼肉"「焼肉 一」

■九州焼肉の味が大山にやってきた!

東京には全国の焼肉がある。「大阪焼肉」を冠する店は無数にあるし、京都の「洗いダレ」様式や北海道の北見仕様の焼肉店だってある。東京は全国の食の集積地だ。焼肉文化の深みとしては関西圏に譲るところもあろうが、焼肉とて例外ではない。
一昨年、また新しい焼肉が地方からやってきた。東武東上線の大山駅ほど近くに「九州焼肉」の看板を掲げたのだ。店主は、熊本は八代にある老舗焼肉店の3代目・朱 星一(チュ・ソンイル)さんだ。
1968年創業の「本町へいじょうえん」は星一さんの祖父母が始めた店だ。1988年生まれの星一さんにとって、店は物心つく前から家のような場所だった。サッカーの試合に勝つとおばあちゃんがチームメイトにも焼肉を食べさせてくれた。
中学・高校は福岡、大学は東京で過ごし、卒業後は福岡の企業に就職。その後、実家に戻って厨房に入った。修業をするうちに「小さな頃から食べてきた、実家のたれ焼肉の味を外の世界で伝えたい」という気持ちが膨らんでいった。6年間、祖母と父の下で修業をした後、2024年、この地に「一」を開店させた。

□祖母の味噌だれ、父の醤油だれ、自分の“うま辛ダレ”

「一」のメニューには、三代の味が並んでいる。
まずは祖母の味。秘伝の味噌だれは、味噌にヤンニョム(合わせ甘辛味噌)、醤油、みりんなどを合わせて1日寝かせる。日替わりのホルモンミックスは、この味噌だれをレバーにシマチョウ、ミノにセンマイなどに揉み込む。

ホルモンミックス
ホルモンミックス

次に父の味。父が考案した醤油だれは熊本の甘口醤油を使う。「甘口」で知られる九州の醤油も地域ごとに味わいは異なる。使う醤油は江戸時代から続く熊本の醤油蔵「山内本店」のもの。星一さんが「一番好きな醤油だれができる」のがこの醤油だという。店名を冠した「和牛一カルビ」は味噌を使わず、醤油だれにヤンニョムを加減して揉み込む。父の味をベースに少しの工夫を加えた。この味つけが唸るほど白飯に合う。

肉
肉
白飯と肉
白飯と肉

「一」を象徴する味つけの“うま辛ダレ”は、星一さん自身の味だ。東京に出店する際、東京の焼肉店を徹底的に食べ歩いた。
「熊本では圧倒的に味噌だれが出るんですが、東京は断然醤油が人気ですね」
そこで上ロースなどの正肉は、醤油だれを主体に味噌だれを2割ほど合わせ、ヤンニョムとニンニクを効かせた。上ロースのように揉むと形が崩れる部位には、別に調合したたれをまとわせて出す。
ロースターのまわりから歓声が揚がるのが数量限定の「和牛ロース一枚焼き」だ。日によって判のサイズは微妙に違うが、この日のロースは大皿を埋め尽くすほどの大きさだった。

肉
肉
肉
肉
肉
肉
肉
肉

網いっぱいに広げて焼いた肉をカットしてまずはそのまま白飯の上へ。さらに胡麻のかかった卵黄をまとわせてライスを巻き込む。醤油だれの甘辛いカルビでも、“うま辛”味のロースでも白飯がみるみる減っていく。器に残ったたれと卵に白飯を入れ、白飯でたれを徹底的にぬぐってかっこむ。
味噌、醤油、うま辛といずれのたれも少しずつニュアンスが違いながらも、ほの甘くて旨い。白飯との相性が抜群にいい、肉と味つけなのだ。

肉と白飯
肉と白飯

〆の人気は塩味のテールスープ。大きなテールがごろりと入った塩スープは長ねぎとにんにくのパンチがバッチバチ。テールの濃厚な旨味も相まって永遠に食べ進められる一杯だ。

塩味のテールスープ
塩味のテールスープ

□一本きゅうりは、実家へ“逆輸入”

触れそびれたままここまで来てしまったが、実はサイドメニューにも物語が隠されている。箸休めの一本きゅうりには、カルビと同じ醤油ベースの“うま辛ダレ”がたっぷりかかっている。濃厚な味わいの奥からシャクシャクと瑞々しい食感が噴き出すきゅうりとの相性もいい。しかもこの一皿「実はうちで考案して、その後実家の『本町へいじょうえん』でも出している」という“逆輸入”メニューなのだとか。祖母、父から受け継いだ味が形を変えて源流へと遡上する。なんとも美しい継承の循環だ。

一本きゅうり
一本きゅうり

店には、星一さん自身が確かめて選んだ味も並ぶ。キムチは大阪・鶴橋の「山亀商店」から。鶴橋を訪ねたとき、大阪の知人に薦められて、その旨さに惚れ込んだ。
デザートは福岡・久留米の「焼肉の大昌園」が営むデザート工房のアイスクリームを東京で初めて仕入れた。一番人気の地元「熊本はちみつ」、二番人気「福岡あまおう」を含め、九州の産地名を冠したフレーバーが並ぶ。

アイスクリーム
アイスクリーム

「一」の味は祖父母が編み出し、父の代で磨かれてきた。熊本の実家の味は「九州焼肉」として東京でまた一歩前へと歩を進めた。実家の本町へいじょうえんは、2026年の熊本地震で被災し、断水などの影響で1ヶ月ほど休業を余儀なくされたが、8月末に通常営業を再開し、八代の人々の顔をほころばせている。
今日も東京・大山と熊本・八代の網の上で、三代のたれをまとった肉がじゅうじゅうと音を立てている。

外観
外観

◇店舗情報

「焼肉 一」
【住所】東京都板橋区大山東町60‐15 大島ビル1階
【電話番号】03‐6905‐7999
【営業時間】月・水・木・日・祝日17:00〜23:00、金・土・祝前日17:00〜24:00
【定休日】火曜
【アクセス】東武東上線「大山駅」より1分


文・写真:松浦達也

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