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コーヒーで旅する日本/四国編|コロナ禍の逆境を好機に変えて。太平洋を望む海辺の店から新たなコーヒーの波を広げる「SUNLIFE COFFEE WAVES.」

  • 2026.10.22

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。4つの県が独自のカラーを競う四国は、県ごとの喫茶文化にも個性を発揮。気鋭のロースターやバリスタが、各地で新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな四国で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが推す店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

砂浜の目の前に立つ店からは太平洋を一望。思わず時間を忘れる開放感が魅力
砂浜の目の前に立つ店からは太平洋を一望。思わず時間を忘れる開放感が魅力

四国編の第50回は、高知県黒潮町の「SUNLIFE COFFEE WAVES.」。雄大な太平洋に面した入野海岸にある店は、海風と波音が心地よい開放的な空間。スケールの大きなロケーションは、ほかにない魅力だ。店主の斉藤さんは、学生時代のある間違いがきっかけでコーヒーの道へ。コロナ禍の逆境を転機に変えて、コーヒーの探求を通して新たな道を拓いてきた。紆余曲折を経て、自身の店を構えた斉藤さんは、今も絶えず研鑽を重ね、海辺の町から新たなコーヒーの波を広げつつある。

店主の斉藤さん
店主の斉藤さん

Profile|斉藤成希(さいとう・みずき)

1997年(平成9年)、高知県黒潮町生まれ。高校時代に理学療法士を目指し、大阪の専門学校へ入学。4年後、帰郷したタイミングでコロナ禍に見舞われたことで、コーヒーで新たな道を模索。独自に抽出や焙煎を学び、2020年、土佐入野駅内に「SUNLIFE COFFEE WAVES.」をオープン。4カ月の出店を経て、2025年に入野海岸の公園内にある海のバザールへ移転リニューアル。自店での焙煎の勉強会やイベントにも力を入れている。

些細な間違いから始まったコーヒーとの縁

店を構えるのは、入野海岸内にある海のバザール内
店を構えるのは、入野海岸内にある海のバザール内

店先に広がる浜辺から望むのは、彼方から波が打ち寄せる太平洋。遥かに伸びる水平線とどこまでも広がる空と海を眺めていると、気持ちも大らかになっていく。「SUNLIFE COFFEE WAVES.」が店を構えるのは、高知の南西・黒潮町、長い砂浜が広がる入野海岸。早朝7時の開店から、出勤前や犬の散歩の途中に立ち寄る人、サーファーの姿も見える。「朝一番にコーヒーを飲める場所が界隈には意外になかった。ここはビーチの休憩所でもあって、夏の人出が多いですが、普段は海外の観光客や、お遍路さんも毎日数人は来られます」という店主の斉藤さん。刻々と表情を変える海と空と波音に包まれると、思わず深呼吸したくなる。

水出しのザ・コールドブリュー530円。テイクアウトしてビーチで飲むのも気持ちいい
水出しのザ・コールドブリュー530円。テイクアウトしてビーチで飲むのも気持ちいい

斉藤さんは2020年に創業して、2025年に移転オープン。ここまでの道のりは、コロナ禍の中でのスタートだった。さかのぼれば、斉藤さんとコーヒーとの縁は、関西で過ごした学生時代、あるうっかりミスが始まりだった。「あるとき、インスタントコーヒーを買うつもりが、間違えて豆を買ってしまって(笑)。量が多かったから捨てるのももったいないと思って、抽出用の道具をそろえたのがそもそもの発端でした」。当時、理学療法士を目指して勉強中だった斉藤さんにとって、コーヒーは勉強のときの眠気覚まし程度の存在だった。

「自分でも毎日飲めるデイリーな味が好みですね」と斉藤さん
「自分でも毎日飲めるデイリーな味が好みですね」と斉藤さん

ところが、豆を挽いて淹れ始めると、俄然、抽出の過程に楽しさを見出すようになった。以来、コーヒー店を訪ねては、“粉より豆で買ったほうがいいのか?”、“グラインダーがあったほうがいいのか?”と、道具や豆に関する質問を重ねた。「話を聞くたびに、どんどんやることが広がっていって。当時、コーヒーのことを何も知らなかったからこそ、素直に知識を吸収できたと思います」と、コーヒーの世界に没頭していった。

「地元の町の雰囲気が好きで、卒業後、Uターンすることは決めていた」という斉藤さん。しかし折悪く、黒潮町に帰郷したタイミングで、コロナ禍に見舞われる。先行きも見えず、日常が混沌としていたなかで、斉藤さんはコーヒーで新たな道を模索し始めた。「ひどい社会人1年目でしたが、逆に、今なら自分で店を開くことができるのでは、とも思って。1年限定で、ともかく始めてみようと」

逆境を好機に変えた探求心と行動力

「焙煎の経験をさらに増やして、クオリティを上げていきたい」と斉藤さん
「焙煎の経験をさらに増やして、クオリティを上げていきたい」と斉藤さん

斉藤さんを動かしたきっかけの一つが、当時の豆の仕入れ先の一つだった、東京のスペシャルティコーヒー専門店・ライトアップコーヒー。コロナ禍を機に家でコーヒーを淹れる人が増えたこともあり、コーヒーの知識や技術の解説、豆の販売を発信するSNSのライブ動画が、貴重な情報を得る場になった。「その中で、自分が知らない味覚表現が多いことに気づいた。フルーティーとか、紅茶とかが出て来て、そんなコーヒーがあるのかと思って、実際に豆を取り寄せて飲んでみたら好みになって。コーヒーを飲めなかった友人が、“これなら飲める”と言ったことで、コーヒーの新しい可能性を感じたのは大きい」と振り返る。

ここで手応えを得た斉藤さんは、理学療法士の資格試験の勉強を続けつつ、手ごろに出店できる場を探し、最寄りの土佐入野駅の駅舎内の小さなテナント募集に応募。チャレンジショップのような形で、2020年、「SUNLIFE COFFEE WAVES.」をスタートさせた。開店後は、自身も手鍋で焙煎を始め、豆のラインナップに加え、オリジナルブレンドを提案するようになった。4カ月間の駅での出店を経て臨んだ理学療法士の資格取得はあえなく叶わなかったが、店を再開して以来、今や生業となっているのだから、まさに禍福はあざなえる縄のごとしだ。

プアオーバーコーヒー540円~。時季ごとに替わる自家製の焼菓子も好評
プアオーバーコーヒー540円~。時季ごとに替わる自家製の焼菓子も好評

駅舎での営業は期間が決まっていたため、再開後は移転を視野に入れていたという斉藤さん。兼ねてから「もし、店をできるならここで」と考えていたのが現店舗のある海のバザールだった。「地元出身なので、ここが一番いい場所だと思っていて、以前から何かできないかと漠然と思っていたんです」。その思いが通じたのか、2025年にテナント募集があり、望む新天地へと店を移した。

いっきに開放的になった店内には、焙煎機も新たに設置。本格的に焙煎を始めるにあたり、移転の前年にオーストラリア・メルボルンを訪問。現地の人気店・マーケットレーンコーヒーで焙煎セミナーにも参加し、ヘッドロースター・石渡さんとの縁も得た。「もともと、海外志向があり一度行ってみたかった。当地のカフェ文化、雰囲気はここにも活かされています」と、大いに刺激を受けた。

コールドブリューに生クリームを浮かべた、モンブランリッチ680円。柑橘とナツメグの芳しい香りが印象的
コールドブリューに生クリームを浮かべた、モンブランリッチ680円。柑橘とナツメグの芳しい香りが印象的

黒潮町の海辺からコーヒーの新たな波を

ガラス張りの空間は天井が高く、心地よい風が通る
ガラス張りの空間は天井が高く、心地よい風が通る

現在、豆の品ぞろえは、SUNSETとSEASIDEの定番ブレンド2種、シングルオリジン各2種と、シンプルに。時季替わりのシングルオリジンで多彩な風味の個性を提案する。また、移転後はエスプレッソマシンも導入し、メニューも広がった。地元の牛乳を使ったカフェラテ、柑橘やスパイスの香りが印象的なモンブランリッチなどのアレンジコーヒーも好評だ。自身は浅煎り志向ではあるが、「ブレンドも好きですし、どれが正解ということはない。選択肢はあったほうがいいし、飲み比べてこその気づきもあるから、それをきっかけに嗜好が広がることもある。メルボルンのような都会的な浅煎りと、黒潮町のローカル好みのグラデーションを体現していきたい」という。

移転後にエスプレッソマシンを導入。メニューの幅も広がった
移転後にエスプレッソマシンを導入。メニューの幅も広がった

この間、イベント出店などを通じて、同業者のつながりも広がり、近年は自店でもさまざまな交流を企画している。「昨年は、石渡さんをここに迎えてイベントもしました。そこで初めてエスプレッソの淹れ方をちゃんと教えてもらった(笑)。ずっと自己流、自主練だけでやってきたけど、ちゃんと教わったほうがいいと感じました」。そう話すとおり、もともと横のつながりないまま始めただけに、これまでは自分で試行錯誤するなかでチューニングしてきた。

「今思えばコーヒーに出合ったタイミングがよかった。コロナ禍でなければここまでハマらなかったし、コーヒーに関わって、好きなことがうまくハマって自然とこうなった感じです」。どこか鷹揚な語りは、太平洋を見て育った大らかさを感じる。今後は、地元を代表するブランドを目指し、店も広げていけるように体制を整えている。「より焙煎にフォーカスしたい。関西にもたびたび訪ねているが、ほかと比べるともっとやらないとと思う。細部までこだわれるように、環境を整えたい」と、ロースターとしての充実を模索している。

地元のヒマワリ牛乳を使うカフェラテ550円など、エスプレッソ系ドリンクも人気
地元のヒマワリ牛乳を使うカフェラテ550円など、エスプレッソ系ドリンクも人気

当初はサードウェーブの影響もあり、コーヒーのスタイルに気負いもあったが、続けるうちにどんどん幅は広がってきたという。「深煎りも浅煎りもバランスよく。淹れ方もハンドドリップにこだわらず、バッチブリューでも、コールドブリューでもいい。店名に入れたウェーブは、海辺にあるのもかかってますが、コーヒーの文化や楽しみを広げていくイメージを重ねています。この場所から、自分だからこそ生み出せるウェーブを起こしていきたい」。研鑽を続ける斉藤さんの取り組みが、高知の海辺から新たな波を広げ始めている。

入野海岸は、長い砂浜を約1000枚のTシャツが飾るTシャツアート展で知られる
入野海岸は、長い砂浜を約1000枚のTシャツが飾るTシャツアート展で知られる

斉藤さんレコメンドのコーヒーショップは「Café n2」。

次回、紹介するのは、高知県四万十市の「Café n2」。

「2020年、四万十市・中村にできた新たな商業施設・はれのばにオープン。市の中心である天神橋商店街へ、新たに人を呼び込むきっかけになっています。店主の守崎さんは、元はアパレル業界出身で、店作りにもその経験が活かされています。喫茶店が多い土地柄ですが、より多くの人に開かれた場所として界隈へのインパクトは大きく、中村に新たなカフェカルチャーを広げつつあります」(斉藤さん)

【SUNLIFE COFFEE WAVES.のコーヒーデータ】

●焙煎機/ハマ珈琲 1キロ(半熱風式)

●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(サンレモ)

●焙煎度合い/浅~深煎り

●テイクアウト/あり(550円~)

●豆の販売/ブレンド2種、シングルオリジン4~5種。100グラム800円~

取材・文/田中慶一

撮影/直江泰治

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