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やくざ映画の在り方を変えた伝説の1本!『竜二』金子正次が遺したものの大きさ

  • 2026.10.21

金子正次が原作・脚本・主演を務め(原作・脚本は「鈴木明夫」名義)、川島透が監督した『竜二』(83)の4Kスキャン2Kリマスター版が、10月23日(金)より期間限定で公開。40年以上も前に公開されたこのインディーズ作品が、なぜいまも伝説として語り継がれているのか。当時一番ショッキングだった話題は、1983年10月29日に公開初日を迎えたなか、金子が同年11月6日に胃がん性腹膜炎によって、33歳の若さで亡くなったことである。

【写真を見る】原作、脚本も手掛けた金子正次自らが、家族との生活のため、堅気になることを決めた竜二を演じる

俳優兼脚本家だった彼が遺した脚本はほかにもあって、それらは『チ・ン・ピ・ラ』(84)、『ちょうちん』(87)、『獅子王たちの夏』(91)として映画化され、金子の才能を悼む声が後を絶たなかった。ただそれは、金子自身がのちに伝説化されたのであって、公開当時にメイン上映館の新宿東映ホール2が連日満員になり、当初は全国5、6館だった上映館が、12月下旬から全国ロードショーされた作品の盛り上がりとは、切り離して見る必要がある。筆者は公開時に新宿でこの映画を初めて観たが、衝撃を受けたことを覚えている。

アウトローとしてのやくざではなく、今後の進路に悩む等身大の30男として設定

竜二(金子)は新宿のやくざで、直(佐藤金造)やひろし(北公次)といった舎弟がいる。羽振りはよかったがどこか満たされず、別れた妻のまり子(永島暎子)と幼い娘との生活を取り戻すため、堅気になる決意をし、酒屋で真面目に働き始める。だが、覚醒剤に溺れたかつての兄弟分が死に、ひろしの変貌も目の当たりにしたことで竜二の心は揺れ動く。過去のしがらみから、何度もやくざの世界へ引き戻されそうになる彼の葛藤、そして最後に下す決断を作品は映しだしている。

【写真を見る】原作、脚本も手掛けた金子正次自らが、家族との生活のため、堅気になることを決めた竜二を演じる [c]1983 Momo KANEKO ALL RIGHTS RESERVED.
【写真を見る】原作、脚本も手掛けた金子正次自らが、家族との生活のため、堅気になることを決めた竜二を演じる [c]1983 Momo KANEKO ALL RIGHTS RESERVED.

本作は過去に東映のやくざ映画が描いてきた、やくざをヒーローのアウトローではなく、今後の進路に悩む等身大の30男として設定した。竜二は職業としてのやくざの世界と、地道で平穏な家族との幸せを天秤にかけ、家族との生活を選ぶ。酒屋の仕事は羽振りのよかったやくざ時代とは違って、わずかな実入りしかない。それでも妻や娘に囲まれた穏やかなアパート暮らしが幸福であることを、この映画は丁寧に描いている。それは金子と妻を演じた永島暎子の好演によるところが大きく、彼らの生活感漂う日常描写が非常に印象的。そのため公開当時は、“ホームドラマ調やくざ映画”とも呼ばれた。

時代の変化を見据えていた金子正次と松田優作

1960年代は東映任侠映画、70年代には『仁義なき戦い』(73)に始まる東映実録やくざ映画がブームを呼び、アウトローが時代のヒーローになった。70年代後半には、金子と親友だった松田優作が「遊戯」シリーズや『蘇える金狼』(79)、『野獣死すべし』(80)によって、ハードボイルドヒーローとして一躍人気を集めた。だがその優作も『陽炎座』(81)、『家族ゲーム』(83)によって、演技派俳優へと転身。時代を牽引してきた優作が、もはやアウトローの時代ではないと方向性を変えた頃に、この『竜二』は登場した。金子と優作は、同じように時代の変化を見据えていたのである。

やくざを今後の進路に悩む等身大の30男として設定 [c]1983 Momo KANEKO ALL RIGHTS RESERVED.
やくざを今後の進路に悩む等身大の30男として設定 [c]1983 Momo KANEKO ALL RIGHTS RESERVED.

日本映画史に名を刻む1本になった『竜二』

アウトローであるやくざが、自らアウトローであることを否定する。その選択に時代の新たな主人公像を見つけて、筆者も含めた当時の観客たちは心を揺さぶられた。そういう映画を東映セントラルフィルムで配給したのが東映のすごいところで、自分たちが作り上げてきたやくざのヒーロー像を壊すこの作品の登場で、東映のやくざ映画も変化していった。

竜二がいなくなったあと、舎弟たちの生き方にも変化が起こる [c]1983 Momo KANEKO ALL RIGHTS RESERVED.
竜二がいなくなったあと、舎弟たちの生き方にも変化が起こる [c]1983 Momo KANEKO ALL RIGHTS RESERVED.

先に挙げた『ちょうちん』や『恋子の毎日』(88)など、組織の仕事と堅気の間で揺れるやくざを描いた“ネオやくざ映画”が東映で作られた。ただどれも『竜二』ほどのインパクトを持たなかったのは、本作が病を背負いながら自主製作で作品を作り上げた金子の熱意が宿っていたことと、インディーズ映画ならではのささやかでつましい竜二とまり子の生活描写が、圧倒的なリアリティをもって観る者の胸を打ったからだ。

伝説の映画『竜二』が4Kスキャン2Kリマスター版で甦る [c]1983 Momo KANEKO ALL RIGHTS RESERVED.
伝説の映画『竜二』が4Kスキャン2Kリマスター版で甦る [c]1983 Momo KANEKO ALL RIGHTS RESERVED.

金子はこの演技で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞、毎日映画コンクールなどの新人賞に没後輝き、永島もブルーリボン賞、報知映画賞、キネマ旬報ベスト・テンなどの助演女優賞を受賞。彼らの名演と共に、この作品はやくざ映画の方向を変え、日本映画史に名前を刻む1本になったのだ。

10月30日(金)からは、水田伸生監督、柳楽優弥主演による『RYUJI 竜二』が公開される。こちらはストーリーラインこそ『竜二』と同じだが、時代背景は1984年から1990年に移していて、やくざの在り様も竜二夫婦の生活ぶりも、1983年版とは少し違う。そういう意味でリメイクというより、リボーン映画と呼ぶべきものだが、40年以上の時を超えて再びこの題材に光が当てられていることを思うと、金子正次が遺したものの大きさを、改めて感じさせる。一度は観ておきたい、80年代を代表する人間ドラマの名編だ。

文/金澤誠

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