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作家・燃え殻が映画『mentor』の深遠な人間描写に感じた恐怖と共感「人は誰もが自分の過去に意味を見出したくなる“運命論者”」

  • 2026.10.14

『空白』(21)では娘を事故で亡くしたことを受け入れられない父親、『ミッシング』(24)では行方不明となった娘を必死に捜す母親の心の歩みを見つめた吉田恵輔監督。最新作『mentor』(10月16日公開)では、火事を起こした加害者と被害者の奇妙な関係と感情の揺らぎを、吉田監督にしかできない視点で描き出している。

【写真を見る】「自分に関係のない話と思ったら、俺の話だった」と『mentor』の感想を語る燃え殻

15年前の花火遊びでアパートを全焼させ、大火傷を負った男・埜本(綾野剛)から妻子を奪ってしまった龍之介(磯村勇斗)と拓海(末澤誠也)。すべてを奪われながらも拓海を優しく赦し、“メンター”として寄り添う埜本との再会が、3人の運命を再び狂わせていく――。

公開に先立ち、MOVIE WALKER PRESSでは、ひと足早く本作を鑑賞した作家の燃え殻にインタビューを敢行。かねてより吉田作品の大ファンで、ロケ地である沼津に父方の実家があり、映像の中に見慣れた風景があったという燃え殻。「オチが1ミリも読めなかった」と振り返りつつ、“小さなメンター”“運命の点呼”とキャッチーなワードを連発しながら、自身の体験も交えて作品の感想を紡いでいった。

「『これでもまだ気持ちを爆発させないんだ…!』の連続でした」

【写真を見る】「自分に関係のない話と思ったら、俺の話だった」と『mentor』の感想を語る燃え殻 撮影/木村篤
【写真を見る】「自分に関係のない話と思ったら、俺の話だった」と『mentor』の感想を語る燃え殻 撮影/木村篤

――燃え殻さんは、もともと吉田作品の大ファンだったそうですが、本作についてはどんな心構えでご覧になりましたか?

「まず、『mentor』というタイトルを聞いて、それから予告編を見て、『これ、どうするんだろう?』と思っていました。本編が始まってからも、ずっと『オチが見えない!どうするんだろう?』という状態でした」

――作家の燃え殻さんでも、展開は読めませんでしたか?

「もちろん、まったく読めませんでした。ずっと裏の裏をかかれて、『まだ爆発しない、まだ爆発しない…!』の連続で。綾野剛さん演じる埜本がいつブチ切れるのか。登場してから、ずっと気が気じゃない。『自分だったらもう40分前にブチギレてる!』と(笑)。でも、綾野さんはキレない、キレない、キレない…。綾野さんがブチギレないことで、物語がどんどん不穏なほうに転がっていく(笑)」

埜本は龍之介の気持ちにも寄り添う [c]2026「mentor」製作委員会
埜本は龍之介の気持ちにも寄り添う [c]2026「mentor」製作委員会

――「笑える」という評判も聞いていましたが、私はとても喰らってしまいました。燃え殻さんは笑えました?

「僕は節々で笑いましたよ。後から振り返ると、それぞれのキャラクターの感情の針が振り切れるポイントが、『絶対ここでしかない』って思える絶妙なタイミングなんですよね。『コップの水、いま決壊しました!』っていう(笑)。予測不可能なうえに、あの3人が次々と見舞われていく状況があまりにもひどすぎて、心の底から『ひでぇ~!』って叫びたくなるような感じが、めちゃくちゃおもしろかったです(笑)」

――綾野さん演じる埜本の存在感も強烈でした。

「綾野さん、普段よりだいぶデカくなってましたよね?身体がデカいから迫力があって、拓海と再会する場面なんて、『えっ、なに!?走ってきた!絶対不穏。もうヤダ~』と思いながら観ていたら、『あ、抱きついた!』っていう(笑)。ずーっと一定の不穏さが刻まれている感じ。笑っていいんだか、いけないんだか。不謹慎なんだか、そうじゃないんだか……。言うなれば、“これぞ、吉田恵輔監督の映画”」

「メンターの胡散臭さを描きたかった」ことから本作を構想した吉田恵輔監督 [c]2026「mentor」製作委員会
「メンターの胡散臭さを描きたかった」ことから本作を構想した吉田恵輔監督 [c]2026「mentor」製作委員会

「辞めた途端に連絡が来なくなった後輩のことを思い出しました」

――拓海が埜本を“メンター”として慕っていく様子は、どうご覧になりましたか?

「拓海を見ていて、『ああいう人いるよなあ』と思いました。僕が会社を辞めた時の話なんですが、辞めるまでは『一生ついていきます!』という勢いで慕ってくれた後輩がいて、『これからも月に1回ぐらい飲んで、近況報告しましょう』とまで言ってくれてたんです。そんなこと言われたら、こっちも悪い気はしないじゃないですか。ところが、いざ辞めたらパタッと連絡が来なくなった。あの梯子を外された感じ(笑)。映画を観ながら、久しぶりにその後輩のことを思い出しました」

――メンター側として慕われた挙句の、手のひら返しですね。

「メンターって聞くと、ものすごく特殊な人の特殊な話のように感じるかもしれないですが、実は僕たちの日常にも、ああいった人間関係は、多かれ少なかれ転がっている。しかもそれがこの映画の中では、ちょっとコミカルに描かれるから、『こいつ本当にムカつくな~』となるし、いるいるってなる。拓海役の末澤さんの演技が上手いから、余計に腹が立つんですよ(笑)」

罪の意識で苦しむ拓海を優しく包み込む埜本 [c]2026「mentor」製作委員会
罪の意識で苦しむ拓海を優しく包み込む埜本 [c]2026「mentor」製作委員会

――人はなにをもって反省していると言えるのか、ということも、本作のテーマの一つと言えるのではないかと。

「確かに。途中までは、龍之介に対して心底ムカついてました(笑)。『もっと誠意をもって謝れよ』と言う拓海を、最初は『そうだそうだ!』なんて思いながら観てたのに、途中から拓海に対して『お前、それはちょっとさ』となってくるんですよ」

――拓海の過剰すぎる土下座が、神経を逆撫でしてきます。

「あれ、笑ったなあ。テーブルの下から映した意地悪なカットとか。土下座しながらお尻がどんどん上がってきて、気持ちよくなってるのがわかる。あれを見ちゃうと、簡単に『すいません!』と謝るような人に出会った時、逆に謝らせたくなくなりますよね。『正直いま、気分よくなってるだろ、お前!』って(笑)」

拓海役の末澤は家で何度も土下座の練習をしたという [c]2026「mentor」製作委員会
拓海役の末澤は家で何度も土下座の練習をしたという [c]2026「mentor」製作委員会

――一方で、被害者の埜本には、なぜあそこまですべてを赦して受け入れられるのか、という疑問もあります。

「でも、赦して受け入れることで、ドーパミンが出るっていうのもあるじゃないですかね。埜本と拓海が海岸のゴミ拾いをするシーンの、『俺はいいことしてるんだ』っていう、あの揺るぎない感じ。僕も中学の時、新横浜公園を清掃する行事があって、『大人はちゃんとしてないよね』なんて言いながらゴミを拾っていて。でも、思い返せば、自分もポイ捨てしたことがあったなと。人は正しい行為にだんだん酔っ払っていくんですよね。映画を観ていると、反省の気持ちを表すために、人はなにをすべきなんだろうって考えさせられました」

「人の“本当”ってみんなグロいから、行動で見せてくれよって思う」

「ものすごいナックルボールのようでもあり、直球ど真ん中でもある」と『mentor』の印象を語る燃え殻 撮影/木村篤
「ものすごいナックルボールのようでもあり、直球ど真ん中でもある」と『mentor』の印象を語る燃え殻 撮影/木村篤

――登場人物は、善にも悪にも揺らぎ続けますね。

「全員揺らぐ。いい人だと思って観てると『いやいや、よくないか。一回信じそうになったわ!』みたいに(笑)。でも実際の人間は、そうじゃないですか。実は今年、僕の母が亡くなったんです。父が毎朝、母の好きだった味噌汁を作って遺影に供えてるんですけど、うちの父親は、そんなにいい人じゃなかったと僕は思ってるんです。でも、もう10か月ぐらい毎日それをやっている。父がいい人かどうかは、まあ置いといて、少なくともいまそれができているなら、誠実な人に思えてくる。気持ちの中にはいろんな邪心が入るし、自分も日々、悪いことも、いいことも考えたりするけれど、行動さえ伴っていれば、それがその人の人格になる。この映画を観ながら、父のことを思い出したりしていました」

――周りから「こいつはそういうやつだ」と思われるくらいその行動を続けていれば、それが真実になるということですね。

「そう思うんですよねえ。『俺、本当はさ…』とか言われても、『いや、別にいまお前の“本当”とかいらないから。いいから行動で見せてくれよ!』って思うんですよ。人の“本当”ってみんなグロいから、見せられたら『ほら、やっぱりグロい!』ってなる。でも、行動が揺らがなかったとしたら、『その人はそういう人だ』になる。収まる、きっと」

ポジティブな行動を取り続ける埜本の真意は!? [c]2026「mentor」製作委員会
ポジティブな行動を取り続ける埜本の真意は!? [c]2026「mentor」製作委員会

――そういう意味では、埜本が、“なにを本心にしたかったのか”も、気になります。

「結局わからないですよね。怒りは6秒待てばやり過ごせるというセリフが、映画の中に出てきますが、6秒数えた先が自分の本当の気持ちだ、あれが本当の自分なんだと思いたかったんじゃないかな。彼が最後まで本当に6秒待てるかどうか、が見ものです。それから人は誰もが、自分の過去に意味を見出したくなる“運命論者”なんだよなあ、と考えさせられました。『この傷にも意味があった』『ここで会ったのも運命だ』と思いたい。でも僕は『運命』という言葉がすごく怖いんです。後から『それも運命だった』と言い切れるぐらいやり切れば、どんなに道を外れていても運命にできてしまうので。『これも運命』『あれも運命』って、まるで“運命の点呼”を取っているみたいだなって、運命に翻弄されるあの3人を観ていて思いましたね」

――“運命の点呼”って、名言ですね(笑)。

「結局のところ映画『mentor』を観ていると、いつまで経っても、一度負った傷は癒えない、と感じました。埜本が負っている物理的な火傷の痕もそうですが、出てくる人たちの様々な傷も基本的には癒えない。ただ、龍之介がアーチェリーに夢中になるように、人はなにかに熱中することで、傷をやり過ごすことはできるのかな、って。この作品が伝えたいテーマとは、真逆かもしれませんが(笑)」

アーチェリーでオリンピックを目指す龍之介 [c]2026「mentor」製作委員会
アーチェリーでオリンピックを目指す龍之介 [c]2026「mentor」製作委員会

「登場人物が取る行動ひとつひとつに、『自分の中にもその要素あるわ』と思い知らされる」

吉田恵輔作品のファンだったという燃え殻 撮影/木村篤
吉田恵輔作品のファンだったという燃え殻 撮影/木村篤

――燃え殻さんご自身は、誰かにすがりたくなった経験はありますか?

「昔、誰かのサイン会やトークイベントに自分がお客さんとして行った時、登壇者と、『あ、いま目が合ったな』と思ったことがあります。実際にはきっと合ってないんですけど(笑)。その人がなにかを啓蒙していなくても、目の前で生きているだけで、自分へのメッセージだと受け取って、拓海じゃないけど、勝手に“メンター語録”を取り始める。『これ、僕に言ってるな』と、どんどん自分ごとにしていくんです。距離感がバグる感じ。でも、そのほうが楽だし気持ちいい。若い時は特にそうですけど、「東に行け!」「南へ行け!」と指示してもらったほうがラクなんですよ。自分でなにか決めるって、面倒だしツラいし経験ないしで、若いころは特にできなかった。とにかく誰かにすがりたいと思っていました」

――自分がメンター側になった時、気持ちよくなってしまう危険性もありますよね。

「それこそ、この映画のロケ地のひとつでもある沼津に、僕がよく行く美味しい餃子屋さんがあって。何度かメディアでもオススメの店として紹介したことがあるんです。つい最近も一人で行って、餃子を食べていたんですよ。そしたら店員さんがすごくこっちを見るんです。『あっ、気づいてくれたのかな?こちらとしては、本当においしいから紹介しているだけなんで、別に感謝とかいいんですよ』くらいに思っていたら、会計の時に『いつもありがとうございます。よく食べに来ていただいてますよね』って言われたんです(笑)。『あ、作家の!』とかじゃなくて、ただ単純に『常連の客』として認識されていただけだった。めっちゃ恥ずかしかったです(笑)。やっぱりどこかで気持ちよくなっている自分がいたんですよ。みっともない話ですが」

フィールドアーチェリーを楽しんでいた3人だったが… [c]2026「mentor」製作委員会
フィールドアーチェリーを楽しんでいた3人だったが… [c]2026「mentor」製作委員会

――観終えたいま、『mentor』というタイトルをどう感じますか?

「最初は、メンターというと狂信的に信じてしまう教祖みたいなものを想像して、『そういうのに引っかかる人っているよね。まあ、自分の人生には関係ないけど』という注釈が入っていたんです。でも観終えたら、『いやいや、自分にもめちゃくちゃ関係あったわ!俺の話だった』になりました。自分の中にもメンターはいたし、すがりたくなる気持ちもあった。でも、『その取り扱いを少し間違えるとこうなりますよ』という実例を見せられた感じがしました。しかも、それをおもしろおかしく見せられた。最後の最後に、ゾッとさせてくれるところもすごかった」

――人間のいろんな側面が詰まっているからこそ、誰しも自分と重なる部分が見つかるのかもしれません。

「『mentor』って、観た人たちが『なるほど、そう来ましたか…』って、予想外の結末に唸りながらも、『いや、でもそうですよね…』って、言わざるをえない。吉田監督が用意したオチは、自分はまったく想像できなかった。ものすごいナックルボールのようでもあり、振り返って見たら、直球ど真ん中でもあるような。どっちにしても、『こんな球、絶対打てねえよ!』なんですけど(笑)。この映画のなかで描かれるすべての裏切りが、『でも、そうでしかないよね』という選択なんですよね。だから、自分ではまったく考えていなかったのに、無理がなかった。登場人物が取る行動ひとつひとつに、『自分だったら、そうはしないけどさ』がなかった。『ああ確かに。自分の中にもその要素あるわ』と思い知らされる。いやぁ、本当にすごい映画です」

取材・文/渡邊玲子

※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記

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