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日本映画の可能性と変わりゆく制作現場。二宮和也、村田千恵子、エイミー・ホンマが語る映画界の未来

  • 2026.11.3
COURTESY OF KERING

ケリング「ウーマン・イン・モーション」は、映画をはじめとする芸術・文化の分野で、女性たちの功績や創造性を伝えてきた。今回のトークでは、世界で注目を集める日本映画の魅力を皮切りに、映画を通じて異なる文化や価値観に触れることの意義、制作現場の変化や女性の活躍を支える環境づくりについて語り合った。

※各登壇者の発言は記事化につき編集されています。

登壇者たちが肌で感じた、海外での日本映画への期待と独自の魅力

今年も映画監督・是枝裕和のオープニングスピーチからスタートした。是枝監督は、10年前と比べて日本映画への国際的な注目が高まっていることに言及。また、2026年に映画制作現場の労働環境に一定の基準が設けられ、世界水準に少しずつ近づいていると、業界の変化についても語った。スピーチ後には俳優の二宮和也、映画プロデューサーの村田千恵子、アカデミー・ミュージアム館長兼プレジデントを務めるエイミー・ホンマが登壇。それぞれの立場から意見を交わした。

最初の話題は海外で期待が高まる日本映画の魅力について。映画『国宝』(2025年)のプロデューサーを務めた村田は、海外から寄せられた評価を通じて感じた「日本らしさ」について語った。歌舞伎という日本の伝統芸能を題材にした映画『国宝』は、米アカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング部門で日本映画として初ノミネートされた。現地の映画人から衣装、美術、撮影、演技などさまざまな分野で作品を支える日本人のクラフトマンシップ(職人技)が評価されたと振り返った。

左から、ファシリテーターを務めた映画ジャーナリストの立田敦子、二宮和也、エイミー・ホンマ、村田千恵子。 COURTESY OF KERING

「日本らしさを日本人自身が考えるのは難しかったのですが、アメリカのアカデミー会員の方々からさまざまな分野で技術の高さを評価していただきました。その頃、大谷翔平さんの活躍も注目されていて、長い訓練に裏打ちされた技術が評価されるという点では、少し重なるところがあるのかなと感じました。映画の見た目だけでなく、作品を支えるクラフトマンシップこそが、日本らしさなのだと感じました」

日本の職人技への関心は、アニメーションの世界にも及んでいる。宮崎駿監督とスタジオジブリの大ファンだというエイミー・ホンマは、アカデミー・ミュージアムで開催している『崖の上のポニョ』の展覧会について紹介。宮崎監督が手描きした作画資料の価値について語った。「宮崎駿監督が紙に鉛筆で描いた作画は、まるで『モナ・リザ』を見ているかのようです。まさに宝物であり、手描きのアニメーション映画を作るのにどれほどの労力がかかるのかを理解するため、来館者は長い時間足を止めて見入っています」

『8番出口』で参加した、カンヌ国際映画祭での経験を振り返った二宮和也。 COURTESY OF KERING

同じく海外で注目を集めた映画『8番出口』(2025年)は、2025年のカンヌ国際映画祭で2300席が満席となり、上映後には8分間のスタンディングオベーションが巻き起こった。主演を務めた二宮和也は、日本映画ならではの表現方法に着目する。「僕が思う日本らしさというのは、ミニマムな空間や展開が非常に得意なところなのかなと思います。あとは抽象的なものの表現。オノマトペもそうですが、表現の手数がすごく多い国なので、そういったところが日本らしいのではないかと思います」

劇場体験で生まれる、多様な感情と価値観

コロナ禍を経て動画配信サービスが普及し、映画を好きな場所で楽しめるようになったが、日本では長年親しまれてきた映画館の閉館が相次いでいる。しかしロサンゼルスでは、小規模な映画館が増え始めているとエイミーは話す。「世界的にアートハウス系の映画館が増えていると感じています。ロサンゼルスでも50〜80席ほどの小さな劇場が生まれていて、映画を観た後に友人と感想を語り合いたいというコミュニティの需要もあるのです」

同じ作品を観ても人によって心を動かされる場面や受け取り方は異なる。村田はそうした違いに触れられることこそ、誰かと映画を観る醍醐味だと語る。「映画館で誰かと一緒に観ると、その人がおもしろいと思ったことに対して『なんでおもしろいんだろう』と興味を持ち、学びが生まれる。自分が知らなかった感情や感覚に出合えるのが、映画館ならではの体験なのかなと思います。一方、配信は自分の『好き』を追求できる。好きな監督や俳優の作品を一気に観られるという、まったく違う方向性があると考えています」

『国宝』のプロデュースを手がけた村田千恵子は、日本映画への海外の期待を肌で感じたという。 COURTESY OF KERING

二宮も「つまらなければつまらなくていいし、わからないものはわからなくていい。でもみんなで映画を観た後にご飯を食べて、誰かが『おもしろかった』と言ったら『何がおもしろかったのか』を聞けますよね。自分とは違う感想に触れることで、なぜ自分はおもしろいと思わなかったのか、改めて考えるきっかけにもなります」と、誰かと映画を観ることで生まれる会話や発見の魅力に共感した。

さらに今回のトーク後には、エイミーが「女性」をテーマに選んだ映画のひとつ、ルル・ワン監督の『フェアウェル』が上映された。中国系アメリカ人の家族を描いた同作について、日系アメリカ人であるエイミーは自身の経験とも重なる部分が多いと語る。

「今後女性の経験を描く女性映画監督がもっと増えてほしいと思っています。この作品は中国系アメリカ人の物語ですが、家族とのつながりや自分自身のアイデンティティを築いていく過程に深く共感しました。自分と少しでも似た人物や、自分が経験したことのある瞬間をスクリーンで目にすることには、大きな力があると思います」

誰かと感想を交わすことで、自分にはなかった考え方や価値観に触れることができる。映画館での体験は多様な価値観を知り、受け入れるための入り口にもなる。

日本の働き方の課題と、女性が働き続けるために必要なこと

トークの後半では、日本の映画制作現場における働き方や、女性の活躍についても議論が交わされた。村田は海外スタッフとの仕事を通じて感じた労働環境の違いに言及。「日本は少し働きすぎなところがあると思います。以前フランス人のカメラマンと映画を作った際には、休憩や労働時間について明確なルールがありました。そうした働き方が日本でも当たり前になれば、業界全体が変わっていくきっかけになると思います」

二宮は「プロデューサーの方のコミュニケーション能力の高さに助けられています。現場に立って、その日その日で役者の表情が違うことに気づいて声をかけてくれたり、一人ひとりをケアしようという動きが広まったりする。役者としても、そういう環境は安心できますね」と語った。

村田も訪れたことがあるという、ロサンゼルスにあるアカデミー・ミュージアム・オブ・モーション・ピクチャーズの館長を務めるエイミー・ホンマ。これまでに企画してきた展覧会やイベントも振り返った。 COURTESY OF KERING

エイミーは多様な個性や価値観を尊重する組織づくりの重要性について語った。「私自身の人生経験や世界観から言えるのは、人々がそれぞれの文化的背景の違いや独自の資質を持ち寄り、それを『強み』として捉えられる環境を作ることです。個性を隠したり遠慮したりしてほしくありません。自分と異なる立場や意見を聞くことは私の好奇心を刺激し、私自身をよりよいリーダーにしてくれます。それによって礼節ある建設的な議論が生まれ、互いから学び合うことができるのです。ジェンダー表現、民族、年齢を問わず、求めているのはそうした人々です。個人の単一的な思考ではなく、多様な思考(プルーラル・シンキング)こそが素晴らしいチームを作るのだと思います」

映画制作の現場に携わる女性が増える中、働き方や日々の生活を支える制度にはまだ課題が残されている。10年後の日本映画界に望むことを問われた村田は、出産や育児と仕事を両立できる環境づくりを挙げた。「女性は増えたと思いますが、子どもを産み育てながら働くための時間や、子どもが熱を出したときにも安心して仕事を休める環境など、男女を問わず、もう少しゆとりを持って働けるよう制度がきちんと整っていくといいなと思います」

女性の活躍を後押しするのは、リーダーの数を増やすことだけではない。一人ひとりの才能や個性を尊重し、誰もが安心して働き続けられる環境を整えること。その積み重ねが映画業界だけでなく、社会に新たな視点や物語を生み出す力となっていく。

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