1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 「スーパー氷」、第二次大戦の氷の軍艦計画から生まれた――極地や宇宙の建材をめざす

「スーパー氷」、第二次大戦の氷の軍艦計画から生まれた――極地や宇宙の建材をめざす

  • 2026.9.17
第二次大戦の氷の軍艦計画から生まれた「スーパー氷」、極地や宇宙の建材をめざす
第二次大戦の氷の軍艦計画から生まれた「スーパー氷」、極地や宇宙の建材をめざす / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

製氷皿から出したばかりの氷は、グラスに落としただけで角がぱきっと欠けます。

氷は硬いのに、力を受けると急に割れる。

そのもろさを、魚のタンパク質で変えた研究があります。

イスラエルのヘブライ大学の研究チームが、割れる前に純粋な氷の70倍のエネルギーを受け止める氷を作りました。

比べたのは、実験室で作った円柱の試験片と、純粋な氷です。

壊れ方そのものが変わった氷です。

使ったのは、魚が持つ「氷にくっつくタンパク質」を作り変えたのりと、セルロース(木の繊維を作っている成分)の細かい粒。

着想のもとは、第二次世界大戦のさなかに真面目に検討された「氷で軍艦を造る」計画です。

戦時中の案は木のパルプを氷に混ぜるだけでしたが、今回は繊維と氷を分子のレベルで結び付けます。

新しい氷は「バイオパイクリート」、あるいは「スーパー氷」と呼ばれています。

そもそも、なぜ氷で軍艦を造ろうとしたのでしょうか。

目次

  • 鉄が足りない戦時中に生まれた「氷の軍艦」計画
  • 魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ

鉄が足りない戦時中に生まれた「氷の軍艦」計画

鉄が足りない戦時中に生まれた「氷の軍艦」計画
鉄が足りない戦時中に生まれた「氷の軍艦」計画 / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

鉄とアルミが足りなかったからです。

第二次世界大戦のさなか、イギリスの発明家ジェフリー・パイクが、ほぼ凍った水だけで船を造る案を出しました。

連合国側は、この案を真面目に検討しました。

氷山の上を平らに削って、史上最大の空母にする。

名付けて「ハバクック計画」。

ところが、ノーベル化学賞を受けた化学者マックス・ペルツが、天然の氷山では大きさも安定さも足りないと指摘します。

そこでパイクが考えたのが、水に木のパルプを混ぜて凍らせた、丈夫な氷でした。

型に流しやすく、削りやすく、安く作れる。

この氷は「パイクリート」と名付けられ、見込みがあると思われました。

しかし、遠くまで運べる船が急に手に入るようになったこともあり、計画はほとんど進まないまま終わります。

以来パイクリートは、技術者の間で「変わった材料」として知られるだけでした。

弱点も、はっきりしていました。

研究チームによると、木のパルプのセルロース繊維が氷の中でばらばらに散らばっているため、強さに限りがあるのです。

繊維をもっと細かくし、細かい網の目を立体の骨組みとして結び付ける。

そうすれば、氷はもっとコンクリートに近づくと研究チームは考えました。

では、氷の中で繊維同士をどうやって結び付けるのでしょうか。

魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ

魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ
魚のタンパク質を「のり」にして、繊維を氷につなぐ / ※画像はイメージです。Credit: Generated by Codex (gpt-image), ナゾロジー編集部

研究チームが「のり」に選んだのは、魚が持つ、氷にくっつくタンパク質です。

遺伝子を組み換えて、炭水化物(セルロースもこの仲間)にもくっつく部品を付け足しました。

氷にも繊維にも、両方にくっつく。

このタンパク質を、セルロースのナノ粒子(目に見えないほど細かい粒)を散らした液に混ぜ、凍らせました。

すると、氷の中にしなやかな分子の骨組みができ、引っ張ったときの強さが大きく上がりました。

研究を率いた生化学者、イド・ブラスラフスキー氏の言葉です。

「繊維を氷に混ぜるだけで終わらせず、材料同士が分子のレベルでどうつながるかを操りたかったのです」

変わったのは、強さだけではありません。

急に砕ける代わりに、ずっと多くのエネルギーを受け止めながら、少しずつ形を変えるようになりました。

円柱の試験片で測ったのが、冒頭の70倍という数字です。

この結果は、有望な概念実証(考えが成り立つことを示す実験)と位置づけられています。

北極や南極で使う材料の候補として、評価する価値があるとされています。

持続可能な建材が求められる中で、氷を建材にする考えへの関心も再び高まっています。

ナゾロジーでは以前、廃コンクリートと二酸化炭素から新しい建材を作る研究を紹介しました(廃コンクリートとCO2でつくる新しい建材が開発される)。

ただし、この試験は実験室で作った円柱の試験片で行われたものです。

極地の建物に使えるかどうかは、これから評価する段階です。

のりのタンパク質を作るのは、遺伝子を組み換えた細菌。

試験片の分なら足りても、小さな建物ひとつ分となると、二酸化炭素を出さずに細菌を育てる大きな設備が要ります。

一方で言えるのは、繊維をただ混ぜるのではなく分子のつながりを設計すれば、氷の強さと壊れ方を変えられるということです。

「氷は割れやすい」という当たり前が、繊維のつなぎ方ひとつで変わりうると、小さな円柱が示しました。

氷山を空母にする話は立ち消えましたが、氷を建材にする話は、まだ凍り付いてはいないようです。

参考文献

WWII battleship made from ice inspires strong new building material (New Atlas)
https://newatlas.com/engineering/super-ice-new-material/

廃コンクリートとCO2でつくる新しい建材が開発される(ナゾロジー)
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/97883

ライター

天道銀河: 科学、歴史、心理、宇宙、生き物、テクノロジーなど、気になるものにはジャンルを問わず首を突っ込む雑食系ライターです。ひとつの分野を深く極めるというより、さまざまな知識を広く集め、意外なつながりを見つけるのが好きです。専門家ほど深くはなくても、好奇心の広さなら負けません。「こんな世界もあるのか」と思えるような、面白くてわかりやすい話題を届けていきます。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ