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娘より息子のほうが、お産は難しい――人間もウシもゾウも、息子は母親に「高くつく」

  • 2026.9.11
娘より息子のほうが、お産は難しい――人間もウシもゾウも、息子は母親に「高くつく」
娘より息子のほうが、お産は難しい――人間もウシもゾウも、息子は母親に「高くつく」 / Credit:Canva

オーストリアのウィーン大学(UNIVIE)などで行われた研究によって、娘より息子のほうがお産が難しいという傾向が、哺乳類に広く共通するものだと明らかになりました。

人間の男の子は、女の子より平均して100〜200グラム重く生まれます。

同じことが、調べられた哺乳類140種のうち3分の2で起きていました。

わずかな差が、母親と赤ちゃん自身の危険を押し上げていたのです。

論文では「大きな息子を産んで得られるものと、出産時の合併症や死亡のリスクとが釣り合っている」と記述されています。

大きな息子はリスクを負ってでも生む価値があるというわけです。

研究内容の詳細は2026年に『The Anatomical Record』にて発表されました。

目次

  • 人間では男の子のほうがお産が難しい
  • 哺乳類140種の3分の2で、オスは大きく生まれていた
  • 大きな息子を生むリスクは回収できるのか?

人間では男の子のほうがお産が難しい

人間では男の子のほうがお産が難しい
人間では男の子のほうがお産が難しい / Credit:Canva

妊婦健診で赤ちゃんの性別を告げられたとき、多くの人が思い浮かべるのは、名前や服の色、上の子との相性といったことです。

お産そのものの難しさが性別で変わるという話は、あまり聞いたことがないでしょう。

けれども産科の統計を大きくまとめると、差ははっきり現れます。

人間の男の子は、生まれたとき女の子より平均で100〜200グラム重く、体重にして3〜4%の差があります。

頭のまわりの長さ(頭囲)も0.4〜0.6センチ大きくなります。

この体重差は、1768年にさかのぼる記録以来、これまで調べられたすべての人間集団で確認されてきました。

工業化した国でも、そうでない社会でも、大陸を問わず例外がありません。

そしてこの偏りは、産道でのつまずきやすさに直結しています。

実際、子宮がしっかり収縮しているのに、赤ちゃんが産道の途中で進まなくなってしまう状態(分娩停止)は、男の子のほうが多く報告されています。

頭が出たあとに肩が引っかかる肩甲難産も、男の子のほうが発生率が高くなっているのです。

またインドの大規模な調査では、母親の体格も、暮らし向きも、赤ちゃんの大きさもそろえて比べたうえで、息子を産む母親が帝王切開になる確率が3%高いという結果が出ています。

ネパールの調査では、男の子を産む母親がこの分娩停止に見舞われる確率は、18%高くなっていました。

100グラムや200グラムは、体重計の上ではわずかな差です。

それでも結果が変わるのは、出産が「通れるか、通れないか」で決まる出来事だからです。

たとえば引っ越しでソファを運び入れるとき、玄関のドア枠を通るかどうかは数センチで決まります。

1センチ大きいソファは1センチ分だけ通りにくくなるのではなく、ある一線を越えたところで、突然まったく通らなくなります。

産道でも同じ仕組みが働きます。

男の子が平均して数%大きいということは、生まれてくる男の子ぜんたいが、ほんの少しずつ大きいほうへずれるということです。

そうすると平均の差は小さいようにみえて、危険なお産の数はそれよりずっと大きな勢いで増えるのです。

ではこの差は人間だけのものなのでしょうか?

哺乳類140種の3分の2で、オスは大きく生まれていた

哺乳類140種の3分の2で、オスは大きく生まれていた
哺乳類140種の3分の2で、オスは大きく生まれていた / Credit:Canva

「女の子より男の子のほうがお産が大変」という傾向は人間だけのものなのか?

それとも「出産」を行う哺乳類にそもそもそういう傾向があるのか?

謎を確かめるため、ウィーン大学のニコール・グルンストラ氏とUCLのジョナサン・ウェルズ氏は、哺乳類の繁殖データを集め直しました。

獣医学、畜産、動物園と野生動物の文献から、オスとメスに分けて出生体重が記録されている種を拾い集め続けたのです。

集まったのは140種で、サルの仲間、ネズミの仲間、ウシやシカの仲間、イヌやネコの仲間などで、胎盤を持つ哺乳類を大きく分けたときの19のグループのうち、11グループにまたがっています。

結果、140種のうち93種、全体のおよそ3分の2で、オスのほうが大きく生まれていることがわかりました。

さらに大人になったときの状態と比較すると、大人になったときにオスのほうが大きい種では、78%でオスが大きく生まれていました。

一方で、大人のメスのほうが大きい種では、オスが大きく生まれる割合は38%まで下がります。

大人の体格差は、思春期どころか、生まれる前からもう始まっているということになります。

さらに研究では直感に反する結果も得られました。

ウマのように生まれてすぐ立って歩く子を産む種でも、ネズミのように目も開かない子を産む種でも、同じようにオスのほうが大きく生まれる傾向があったのです。

実際、子宮の中で体格差がつきはじめる時期は、かなり早いことがわかっています。

たとえばブタでは115日の妊娠期間のうち58日目には、すでにオスの胎児のほうが長く重くなっています。

さらにウマでは11か月ほどの妊娠のうち、最初の1か月半で胎児の大きさに差がついていました。

では、その差は本当に難産につながっているのでしょうか?

実は畜産の現場では昔から、ウシ、ヒツジ、ヤギではオスの仔のほうがお産に手を借りることが多い、と知られていました。

また近年では飼育下のアジアゾウやカピバラ、ベルベットモンキーからも、同じ方向の報告があります。

ですが最も興味深いのは、体重だけでは説明がつかない点です。

ウシやヒツジでは、たとえ体重が同じ場合でも、それでもオス胎児のほうが難産になりやすい傾向があったのです。

研究者たちが目を向けているのは、体の大きさ以外の違いです。

たとえば人間の胎児を調べた研究でも、男の子は頭が大きく、そして幅広い一方、太ももの骨の長さは女の子と変わりません。

男女の差は体じゅうに均等に出るのではなく、産道をいちばん通りにくい部分に集まっているのです。

体の形に加えて、生まれてくるときの赤ちゃんのふるまいの違いも関わっているのではないか、と研究者たちはみています。

しかしなぜ哺乳類の多くでは、危険をおかしてまで男の子を大きく生むのでしょうか?

大きな息子を生むリスクは回収できるのか?

大きな息子を生むリスクは回収できるのか?
大きな息子を生むリスクは回収できるのか? / Credit:Canva

なぜ息子は、母親を危険にさらしてまで大きく生まれるのか?

その答えは、繁殖の成功率にありました。

大人のオスがメスより大きい種では、体の大きいオスが繁殖において圧倒的に有利になることが知られています。

一方、メスの繁殖の成功は体の大きさにあまり左右されません。

大きなメスも小さなメスも、生涯に産む子の数はそれほど変わらないからです。

そのため同じ量の栄養を注ぐなら、息子に注いだほうが、孫の数として返ってくる期待が大きくなります。

この考え方自体は50年以上前からあり、提唱した2人の名をとってトリヴァース=ウィラード仮説と呼ばれています。

ただしこの理屈が数えていたのは、エネルギーと見返りの孫の数だけでした。

比較も「妊娠と子育て時期」と「大人になったとき」というかなり離れた部分で行われます。

なにより既存の考えには、息子を産むときに母親と赤ちゃんが負うお産のリスクが、勘定に入っていなかったのです。

そこで研究者たちは、50年前の計算に、この出産の場での支払いを書き加えたものを新たに「高くつく息子(costly son)」仮説として提唱しました。

ただ研究者たちは、この見落とされていた費用を含めても、なお息子を大きく生むことはリスクと釣り合っていると述べています。競争の激しい世界では体が小さいオスが子供を持てる望みはかなり低いからです。

また研究が正しければ、人類のお産の難しさは、脳が大きくなってから始まったわけではないことになります。

というのもアウストラロピテクスなど初期の人類は、現代人よりオスとメスの体格差が大きかったと考えられています。

大人の体格差が大きい種ほど赤ちゃんの体格差も大きいという今回の結びつきをあてはめるなら、アウストラロピテクスのオスの赤ちゃんもまた、メスより大きく生まれていた可能性が高いことになります。

脳が今ほど大きくなる前から、人類のお産はすでに難しかったのかもしれません。

現代の医療にとっても、この視点は他人事ではありません。

栄養の豊かな環境では、母親の肥満や妊娠糖尿病が胎児を大きく育てます。

そこに男の子という条件が重なれば、限界の向こう側へ押し出される赤ちゃんは、さらに増えることになります。

赤ちゃんが何グラムかとは別に、男の子か女の子かも数に入れるべきだというのが、この研究が医療に向けて示した結論です。

もっとも、性別ごとのお産のデータが揃っているのは家畜や飼育下の動物に偏っていて、野生の哺乳類のことはまだほとんどわかっていません。

それでも、ヒトの出産の難しさを二足歩行と大きな脳だけで説明する時代は、終わりつつあります。

論文は次の課題として、野生のサルなどから性別ごとの出産の記録を集めることと、母親が胎盤を通してどれだけ息子に注いでいるのかを調べることを挙げています。

元論文

The “costly son” hypothesis: Sons exacerbate obstetrical dilemmas in humans and other mammals
https://doi.org/10.1002/ar.70331

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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