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医師から『膀胱がん』を宣告された60代女性Cさん→数週間前から身体に起きていた“異変”に「あの時、放置しなければよかった…」

  • 2026.10.19
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

 

こんにちは。泌尿器科専門医の小内友紀子です。

「BCGって、子どものころに受けた予防接種のこと?」

がんの治療の説明でその名前を聞いたら、驚く方は多いのではないでしょうか。実はBCGは、膀胱がんの治療にも使われている大切な薬です。今回は、膀胱がんの手術時に「上皮内癌」が見つかり、BCG治療を受けられた女性のエピソードをご紹介します。

※本エピソードは複数の患者さんの経験をもとに再構成した架空のものです。特定の個人を指すものではありません。

痛みのない血尿がきっかけに

Cさん(64歳・女性)は、ある日トイレで、尿が赤く染まっていることに気づきました。

「痛みも何もないし、翌日には色も戻っていたので、膀胱炎か、疲れが出たのかなと思っていたんです」

しかし数週間後、再び赤い尿が出ました。娘さんに話すと、「痛くない血尿のほうが怖いって聞いたことがあるよ。すぐ病院に行って」と強く勧められ、泌尿器科を受診されます。

膀胱鏡検査(細いカメラで膀胱の中を見る検査)で、膀胱の壁に腫瘍が見つかりました。診断は膀胱がん。

「あの時、放置しなければよかった…」Cさんは後悔しました。

削った腫瘍の周りに「上皮内癌」が

Cさんは、TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)という手術を受けられました。尿道から内視鏡を入れて腫瘍を削り取る方法で、お腹を切らずに行えます。

目に見える腫瘍は取りきれたものの、後日、医師からこう説明がありました。

「周りの粘膜から『上皮内癌(じょうひないがん)』が見つかりました。見た目ではわかりにくいタイプのがんです」

膀胱がんの多くは、ブドウの房のように盛り上がった「乳頭状(にゅうとうじょう)」の腫瘍として見つかります。一方、上皮内癌は、膀胱の内側をおおう粘膜の表面を這うように広がるがんです。見た目は普通の粘膜とほとんど変わらないか、少し赤みがある程度で、膀胱鏡でも見分けにくいことがあります。尿の中のがん細胞を調べる「尿細胞診」や、粘膜の一部をとって調べる検査で見つかることが多いのです。

粘膜の表面にとどまっているとはいえ、放っておくと膀胱の筋肉の層まで深く進む(浸潤する)ことがあるため、しっかりと治療することが大切です。

「粘膜の表面にとどまる」というと初期の軽いがんのように聞こえるかもしれませんが、上皮内癌の細胞は悪性度(顔つき)が非常に高く、放置すると膀胱の筋肉の層深くまで急速に進む(浸潤する)危険な性質を持っています。そのため、見落とさずにしっかりと治療することが極めて大切です。

なぜ予防接種のBCGが、膀胱がんに効くの?

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

そこで勧められたのが、「BCG膀胱内注入療法」でした。

「BCGって結核の予防接種ですよね? どうしてそれががんに効くんだろうと、不思議でした」

BCGは、毒性を弱めたウシ型結核菌からつくられたワクチンです。これを尿道から細い管で膀胱の中に入れると、膀胱の粘膜で体の免疫が強く反応します。集まってきた免疫細胞が、粘膜に広がるがん細胞を攻撃する——いわば、体がもともと持っている「守る力」を利用した治療です。粘膜を這うように広がる上皮内癌は削りきることが難しいため、膀胱全体に薬を行き渡らせられるこの治療がよく用いられます。

治療は週1回、6〜8回ほど続けるのが一般的です。注入後は薬を膀胱にとどめるため、2時間ほどトイレを我慢します。
副作用として、頻尿や排尿時の痛み、血尿、微熱などが出ることがあり、担当医と相談しながら進めていきます。ただし、BCGは「生きた菌」を用いる治療です。もし38度以上の高熱が続いたり、ガタガタと震えるような悪寒や強いふらつきが現れたりした場合は、菌が血液中に侵入して全身に広がった「重篤な感染症(BCG敗血症など)」の疑いがあります。命に関わる危険な状態ですので、我慢せず直ちに担当医や医療機関へ連絡・受診してください。

また、注入後当日の尿には生きた菌が排出されます。ご家族などへの感染を防ぐため、排尿時は飛び散らないよう必ず便座に座ること、排尿後は便器に家庭用塩素系漂白剤を入れて少し時間を置いてから流すこと、そして念入りな手洗いを徹底することが重要です。

なお、BCGが効きにくい場合などには、膀胱を全部取る手術(膀胱全摘除術)を検討することもあります。

「膀胱を取らずに済むかもしれない」と前向きに

「毎週の通院は大変でしたが、娘が送り迎えをしてくれて。血尿やトイレが近くなる時期もありましたけど、なんとか乗り切りました」

治療後の検査では、がんは見つかっていないとのこと。膀胱がんは再発しやすいため、今も定期的に膀胱鏡や尿の検査を受けていらっしゃいます。

「膀胱を取らずに済むかもしれないと聞いて、前向きになれました。あのとき娘に言われて病院へ行って、本当によかったです」と話してくださいました。

痛みのない血尿は、一度でも受診を

膀胱がんの代表的なサインは、痛みのない血尿です。一度きりで治まることも多いため、「もう大丈夫」と見過ごされがちです。特に50代以上の方や、喫煙歴のある方は注意が必要です。尿が赤い、茶色っぽいと感じたら、一度でも泌尿器科で検査を受けてください。

また、膀胱がんと一口にいっても、タイプや広がり方によって治療はさまざまです。すべてが膀胱を取る手術になるわけではありません。

「たった一度の血尿」にきちんと向き合うこと——それが、膀胱を守る大切な一歩になります。


執筆・監修:小内友紀子
公益財団法人ときわ会 常磐病院 泌尿器科 診療副部長、東京女子医科大学病院 泌尿器科 講師、医師、医学博士 女性泌尿器科医師として、普段は女性によくある尿もれから、男性の前立腺癌をはじめとする泌尿器科領域の癌診療まで診療しております。 【資格】医師 / 医学博士 / 泌尿器科専門医・指導医 / 透析医学会専門医・指導医 / 排尿機能学会専門医


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