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夏休み明けの「学校に行きたくない」は怠けじゃない…子どもの訴えに耳を傾けるべき“科学的理由”【精神科医が解説】

  • 2026.9.6
夏休み明けに子どもが学校に行きたくないと主張するのはなぜ?(画像はイメージ)
夏休み明けに子どもが学校に行きたくないと主張するのはなぜ?(画像はイメージ)

9月になりました。ただ、この時期は子どもの不登校が増えるといわれており、子どもが「学校に行きたくない」と主張するケースは珍しくなく、悩む人は多いのではないでしょうか。

そもそも、夏休み明けに子どもが学校に行きたくないと主張するのはなぜなのでしょうか。心理的な背景について、「出雲いいじまクリニック」(島根県出雲市)院長で、精神科医、心療内科医、臨床心理士の飯島慶郎さんが解説します。

9月は心身の不調が増える時期

夏休み明けのこの時期は、子どもの行き渋りや不登校が大きな社会的関心を集めるとともに、多くのご家庭が頭を悩ませるタイミングでもあります。新学期の朝、お子さんから「学校に行きたくない」と告げられ、どう受け止めるべきか戸惑う親御さんも少なくありません。

その際、大人はつい「急に怠け心が出たのではないか」「休み癖がついてしまったのではないか」と考えてしまいがちです。しかし、不登校や行き渋りを見せる子どもたちは、決して休み明けに突然登校を放棄したわけでも単に甘えているわけでもありません。

これを考える上で参考になる公的なデータがあります。千葉県教育委員会が2023年度に行った不登校の実態調査(本人回答1753人)によると、最初に「行きたくない」と感じ始めた時期は1学期が30.7%で最多でした(2学期は28.6%)。

また、思い始めた時期と実際に休み始めた時期が違うと答えた子ども(全体の27.9%・489人)をみると、休み始めた時期は2学期が36.6%で最も多くなっています。

つまり、夏休み明けに休み始めるお子さんの中には、休み中に突然行けなくなったというよりも1学期からつらさを抱えながら必死に持ちこたえ、2学期の再開をきっかけにいよいよ限界を迎えてしまったというお子さんが確かにいると考えられます。

表面上は1学期を普通に過ごしていたように見えても、子どもの「行きたくない」という訴えは、夏休みの気の緩みというより、それまで張り詰めていた緊張の糸が切れたサインと捉える方が実態に近いのではないかと感じています。

また、教室へ入ることが難しくなる「保健室登校」の開始時期も、全国調査で9月が最も多い月の一つになっています。日本学校保健会の2022年度の全国調査では、保健室登校を始めた子のうち小学校・高校では約2割が9月で最多、中学校も4月(19.6%)に次いで9月(16.6%)が多く、4月と9月に2つの山があります。

4月が新しい環境の始まりであるのに対し、9月は長い休みを挟んで久しぶりの集団生活へ戻る節目にあたります。

さらにこの時期の子どもたちの心理的な危機を示すものとして、日本の41年分・約11万件の自殺統計を分析した研究では、2学期が始まる時期の中学生の自殺が7月の週と比べて2倍以上に増加することが報告されています。

この研究で印象的なのは、同じ時期でも18〜26歳の年齢層では、こうした動きが見られないという点です。つまり、暑さや日照といった季節そのものではなく、学校という場が関わっていることをうかがわせます。行き渋りが、そのままこうした事態に直結するという意味ではありません。

ただ、これが命に関わる最も深刻な表れであることに変わりはありません。この時期に子どもたちの抱える苦しさが全体として高まっていることを示す数字として、私は重く受け止めています。

米国の疾病予防管理センター(CDC)が約1900施設の救急受診を追った大規模な調査でも、新学期が始まると10歳から17歳の子どもの救急受診のうち、うつ状態や、自殺を考えたり自分を傷つけたりしたことによる受診の割合が夏休み中よりおおむね1割から6割ほど高くなっていました。

これは秋だけでなく春の学期始めにも見られます。もちろん、新学期は学校や医療機関で不調が見つかりやすくなる面もありますが、裏返せば、夏休みの間は同じ苦しさがあっても気付かれにくかったと言えるのかもしれません。

これらのデータから見えてくるのは、目に見える欠席という形になる前から、子どもたちの心理的な苦痛やSOSがこの時期に大きく高まっているという現実です。

1学期からの苦痛の蓄積と環境変化が背景に

では、なぜ2学期の始まりとともに、こうした心身の不調や行き渋りが表面化しやすくなるのでしょうか。

私が日頃の診療を通してお子さんたちと向き合う中で感じている背景の一つは、「1学期からの苦痛の蓄積と、休み明けの環境変化による二重の負荷」という側面です。

私の診察室を訪れる、行き渋りや不登校のお子さんを診ていても、その多くに休息や何らかの心身のケアを必要とする状態が認められます。これは受診にまで至ったお子さんたちの話で、行き渋りのあるお子さんがすべてそのような状態だという意味ではありません。

親御さんの多くは「1学期は普通に通えていたのですが…」とおっしゃいます。実際、そう見えていたのは無理もありません。日々の様子を一緒にさかのぼってはじめて「そういえば朝起きるのがつらそうだった」「日曜の夜に頭痛や腹痛を訴えていた」と思い当たることも多く、毎日通えている間は「ちょっとした疲れや一時的な体調不良だろう」と受け止められがちだからです。

こうした「時間をかけて蓄積していく負担」は、他の調査研究からも示唆されています。国内の心理学研究でも、不登校になる2年前の時点では周囲と同じように通えていた子どもたちが、2年をかけて少しずつ学校を避けたい気持ちを強めていたことが示されています。

また、文部科学省の委託調査(2024年)で不登校当事者の子ども239人に学校に行きづらくなったきっかけを尋ねたところ、「気持ちの落ち込み、いらいら」を感じていた子が76.5%、「朝起きられない、夜眠れない」が70.3%、「からだの不調」が68.9%に上っていました。

この数字だけで不登校のお子さんに特有の高さとまでは言い切れませんが、不登校に至る背景として、実に7〜8割近くのお子さん自身が心身のつらさを感じていたことになります。

実際の診察室でも、背景にうつ状態や不安障害が隠れていることがあります。発達障害(ASDやADHDなどの発達特性)のあるお子さんが、周りに合わせようと無理を重ねて疲れ切っていることもあります。そうしてすでに限界を抱えながら、時間割や友人関係といった「日常の枠組み」に必死につかまって持ちこたえていたというケースが少なくありません。

そこへ訪れる夏休みは、張り詰めた心身にとっての「休戦期間」となります。学校というプレッシャーから解放されるため不安や緊張は和らぎ、家庭内では見違えるように元気を回復したように見えます。しかし、これは学校という負荷から離れたことで、1学期から続いていた適応の難しさや限界が一時的に覆い隠されていたという側面もあります。

さらに、夜型の生活による体内時計のずれや、運動不足によって朝起き上がる体の力が落ちてしまうなど、体調のリズムの乱れが静かに進行してしまうことがあります。週末に2晩夜更かしをするだけでも体内時計は後ろにずれることが知られています。

そして迎える新学期の朝、心身のリズムが落ちたところへ学校生活の負荷が一気に押し寄せます。しかも新学期の教室は「初めての場面」ではなく「久しぶりの場面」です。

ここは直接の調査データがあるわけではありませんが、臨床の視点から見ると、「久しぶり」だからこそ「みんなにどう見られているだろう」と周囲の視線や評価が過剰に気になりやすくなる側面があると考えています。夏休みの間にSNSなどで自分抜きに動いていた人間関係の輪へ、遅れて再合流することへの不安も重なります。

1学期に支えとなっていた「日常の枠組み」も、いったんリセットされています。低下した身体機能と対人不安という二重の負荷が、限界を迎えていた心身の許容量を超えてしまう、そうした形で表に出てくるお子さんが多いのではないかと、日々の診療の中で感じています。

もちろん、夏休み明けに「学校に行きたくない」と口にしても、新学期の最初だけ気が重そうで、そのまま何ごともなく通い始めるお子さんも大勢います。

ただ、その訴えが何日も続いたり頭痛や腹痛といった身体の不調をともなっていたりする場合は、少し立ち止まって丁寧に様子を見てあげる必要があります。休み明けに突然わがままになったのではなく、1学期から抱えていた心身の限界が近づいている切実なサインであることも少なくありません。どうか甘えや怠けと捉えず、丁寧に受け止めてあげてほしいと感じています。

オトナンサー編集部

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