1. トップ
  2. 東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第45回(野尻)「東京吉本vs大阪吉本? じゃあ俺たち『他事務所』はどうなる!?」

東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第45回(野尻)「東京吉本vs大阪吉本? じゃあ俺たち『他事務所』はどうなる!?」

  • 2026.9.3
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵 野尻
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵 野尻

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第45回は野尻回。

第45回(野尻) 「東京吉本vs大阪吉本? じゃあ俺たち『他事務所』はどうなる!?」

こんにちは。無尽蔵の野尻です。先日放送された『アメトーーク!』の「東京吉本芸人の実情~我々は30年間 間違え続けていたのか~」は大きな話題を呼びました。番組の中では、大阪吉本に比べて東京吉本には盤石な連帯が存在しないことが所属芸人たちによって悲観されていました。内容はとても面白かったのですが、正直なところ私は放送を見て「別に儲かってるんだからまとまらなくてもいいんじゃないか? というか大阪が異常なんじゃないか?」と思いました。今回は、お笑い界に依然として根深く存在する東京・大阪の二項対立の観念についていわゆる「非吉本芸人」である私が考察してみようと思います。

まずもって、日本のお笑いは既に「大阪化」していると言えます。数十年前に東京へやってきた大阪の地域密着型企業だった吉本興業は、人を笑わせることにおいて世界レベルの技術と人材を保持していました。ヴァイキング船に乗ってヨーロッパへ攻め込んだノルマン人のように、鍛え抜かれたなにわの戦士たちは東京のお笑いをオモロいほど侵略しました。

東京NSCやルミネtheよしもとの設立から2~30年の時が経った今、東京の伝統的なお笑いの事務所や演芸場は完全に周縁化しており、その首都である浅草はお笑いのムーブメントの発信源の座を現在退いています。

東京ではお笑いは数ある巨大なエンタメ産業の一部門でしかありませんでしたが、大阪においてお笑いは地場産業、ひいてはフォークロアに近い伝統文化として根付いていました。この時点で武力の差があったことは明らかです。

番組の中では千鳥さんが大阪芸人の強固な結びつきを強調していましたが、ほとんど同じ方言を喋る芸人が東京より狭い都市圏で切磋琢磨している大阪の状況を考えたら、同じ物語を共有する彼らが屈強な兵卒であることは自然ですし、東京からすればとても不自然なのです。

対して、ひな壇に座っていた「東京吉本芸人」たちの中で、東京の出身者がどれだけいるでしょうか。関東地方の出身者に条件を拡大してやっと横浜出身の野田クリスタルさんの名前が挙がります。日本でいちばんの大都会東京は日本でいちばん地方からの移住者で溢れている街でもあり、近年その傾向は強まるばかりです。

東京とはそういう街で、煩わしい共同体の同調圧力がなく、個々人が自由に生活を送れる代わりに互助の精神は希薄であるという土地です。ですから東京吉本が大阪のように一枚岩になることは土台無理な話なのではないか?と私は思ってしまいました。

それでも東京吉本の芸人さんたちは大阪へのそこはかとない対抗意識があるようですが、そもそもみんな東京のNSCで吉本式の教育を受けているし、最近では大阪からの移籍組をどんどん受け入れている時点で仲間同士の甘噛みでしかなく、特に決定的な問題が私には見当たりません。

やはりわれわれのような東京に昔から存在している先住民のごとき零細事務所の所属芸人こそ、この状況をシリアスに考えるべきでしょう。新宿バティオスという怪しげなライブハウスを聖地と呼んで代わりばんこにレンタルしているだけでは、お笑いの楽しさに気を取られて影響力がシュリンクしていることに気付けないのではないでしょうか。ドリフ、シティボーイズ、ウンナン、爆問、さまぁ〜ず、くりぃむ、バナナ…偉大な先人がつないだ東京お笑いのバトンを継承しようという意識すら薄弱になっている気がします。私のような完全なるペーペーが心配することではないのかもしれませんが、それでも東京の事務所が「他事務所」なんて呼ばれて悔しいじゃないですか。「他事務所」って何だよ。

こういうのはどうでしょう。東京の各お笑い事務所が資金を出し合って合同会社を設立し、「TOKYO COMEDY THEATER」みたいな分かりやすい名前の大きい会場を運営するというのは。さすがにヤバすぎますか? 確かにパッと思いつくだけでも数々の障壁がありますが、もうそうでもしないと吉本興業のヘゲモニーが加速するばかりだと思います。でもやはり東京という取り止めのない街でそんな大それたことは難しいのでしょうか。まあ別にお笑いって事務所対抗戦じゃないし、自分が面白くなるためにやるものだから、このままでも良いっちゃ良いのか…?

 提供:無尽蔵 野尻
提供:無尽蔵 野尻

■無尽蔵

サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。

無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao

無尽蔵 野尻 note:https://note.com/chin_chin

無尽蔵 やまぎわ Xアカウント:https://x.com/tsukkomi_megane

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ