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安田章大だからこそ生まれた映画『平行と垂直』。自閉スペクトラム症を「天才にしない」意義とは

  • 2026.8.31
映画『平行と垂直』は天才的な特殊能力を持たない、でも自分の特性を活かして生活をしている自閉スペクトラム症の人物を描く意義を強く感じる作品でした、主演の安田章大が“企画”から参加した理由を含めて解説しましょう。(画像出典:(C)2026「平行と垂直」製作委員会)
映画『平行と垂直』は天才的な特殊能力を持たない、でも自分の特性を活かして生活をしている自閉スペクトラム症の人物を描く意義を強く感じる作品でした、主演の安田章大が“企画”から参加した理由を含めて解説しましょう。(画像出典:(C)2026「平行と垂直」製作委員会)

8月28日より映画『平行と垂直』が劇場公開中です。本作はSUPER EIGHTの安田章大と、のんが兄妹(きょうだい)を演じるダブル主演作。そして、安田章大が自閉スペクトラム症(以下、ASD)の男性を演じていることのみならず、安田章大が“企画”にクレジットされていることに、ぜひ注目してほしいのです。

「通勤と仕事の仕方」からも分かる、ASDの特性

ASDとは、「主に社会的なコミュニケーションの困難さや空間・人・特定の行動に対する強いこだわりがある等、多種多様な障害特性のみられる発達障害のひとつ」とされています(日本自閉症協会公式Webサイトから抜粋)。

そうした説明以上に、劇中の安田章大演じる大貴の「通勤と仕事の仕方」から早くも、そのASDの特性が分かるでしょう。何しろ、早朝から仕事に行くまでの道行きで、曲がり角や路面の模様に足を合わせて「直角に曲がる」のです。しかも清掃の仕事の仕方は念入りそのもので、トイレットペーパーの補充では「きちっとした並べ方」に時間をかけすぎて、先輩から「ちり紙なんか適当にちゃちゃーっと並べたらええねんて」などと軽く苦言を呈されていたりもします。

それでいて、彼はアパートでひとり暮らしをしています。「水曜日の19時に必ず食事会をする」ことが決められていて、その時間に妹が少しでも遅れてしまうと大慌てしてしまう……ということもありますが、一定の”決まりごと”の中でちゃんと自立していることが伝わりますし、それを踏まえてASDの“生活”の1つの例を知ることは、とても意義深いと思うのです。

ASDの“天才的な特殊能力”を示す作品が多いからこそ……

ASDを扱う作品では「サヴァン症候群」だからこその驚異的な才能を示すことがよくあります。

会計士を主人公としたアクション映画『ザ・コンサルタント』や、医師が謎めいた事件を解決する小説『天久鷹央の推理カルテ』など、社会的地位が高い職業に就いていたり、“天才的な特殊能力”を持つことを強調する作品も少なくありません。10月19日よりNetflixで配信される韓国ドラマのリメイク『南田南弁護士は天才肌』の主人公も、サヴァン症候群である可能性が高いと思われます。そうした作品やキャラクターももちろん良いのですが、この『平行と垂直』のように、実際にもいる多くのASDの人たちのように、決して天才でも、サヴァン症候群とは言えなくても、自分の特性を活かして、社会で必要な仕事に就き、自立して生活している人を描く作品は、もっとあってほしいと思いました。

(C)2026「平行と垂直」製作委員会
(C)2026「平行と垂直」製作委員会

また、劇中には「自閉症って世間では全部ひと括りにしがちやけど、実際は個人差は大きいやろ? そんなかで言うたら、大貴はめちゃくちゃ頑張っているほうや」というセリフもあります。

その言葉通り、ASDに「スペクトラム」という“連続体”や“幅広い範囲”を意味する言葉が付けられているように、その特性や症状は軽度から重度まで途切れることなく連続していてさまざまです。本作だけで「ASDってこうなんだ」と決めつけず、ほかのASDを扱った作品に触れることで、多様性を知ってみてもいいでしょう。

ASDの特性を「キレイゴト」にしない出来事や心理

この『平行と垂直』のもう1つの大きな特徴は、「妹の希の婚約」が物語の主軸になっていることです。

前述したように兄の大貴はちゃんと自立して生活をしているのですが、それでも希の「自分が結婚して大丈夫なの?」という気持ちも伝わるでしょう。実際に大貴はしっかり希の婚約を嬉しく思っている(ように見える)のですが、“(婚約相手の両親がいる)東京に行く”という言葉から、彼女が「どこかへ行ってしまうのかもしれない」と勘違いしてパニックになったりもします。

(C)2026「平行と垂直」製作委員会
(C)2026「平行と垂直」製作委員会

その後に居酒屋で大きな誤解を生む出来事があったり、何より「相手の両親との顔合わせの席に大貴を同席させるか」で大きく葛藤したりもします。

さらに、「理解はしているつもりでも不安を隠せない正直な気持ち」を吐露する人物がいたりと、すんなりと結婚へと進めなくなってしまう心理や出来事が丹念に描かれているのです。

これらの描写は、ASDの特性を「キレイゴト」にはしない作り手の覚悟の表れでもあるのでしょう。

「言葉って難しい」「表情のほうがずっと雄弁」なこともある

また、希はカウンセラーの仕事に就いていてクライアントと言葉で真摯(しんし)に向き合う一方、寝癖をつけたまま仕事をしていて気づかなかったりと、少し大ざっぱなところもある人物に見えます。彼女を演じたのんの関西弁が板についていて、何度も率直に言ってのける性格が愛らしく見えるのも本作の大きな美点です。

そうした希の言動は、大貴の仕事と日常動作での几帳面とは正反対。それこそ『平行と垂直』というタイトル通りに、2人が考えも性格も「交わらない」様も示されています。

さらに妹の婚約をきっかけにギクシャクしてしまう兄妹が、どのようにお互いを理解し、支え合い成長するのか。その過程をASDの特性に限っていない、コミュニケーションの寓話(教訓を与える物語)としてみることもできるでしょう。

(C)2026「平行と垂直」製作委員会
(C)2026「平行と垂直」製作委員会

特に、希がカウンセリングの場で言う「言葉って難しいですよね。多すぎたり、少なすぎたり」「表情のほうが、ずっと雄弁っていうか」「心にある想いって、口に出した瞬間から、言いたかったことと遠ざかって行くこと、ありますよね」という言葉に共感する人は多いのではないでしょうか。

実際に大貴はほとんど話すことはなく、そのためにコミュニケーションがうまくいかず誤解を生み、心ない言葉を言われてしまったりしますが、それ以上に希の言うように「表情でこそ雄弁に感情を示す」場面があることにも感動しました。

後述する通りASDに真摯に向き合う安田章大の俳優としての姿勢、さらにはASDの特性を示した一挙一動はもちろん、その表情でも多大な説得力を持たせたことを、称賛したいのです。

安田章大がいてこその映画だった

主演の安田章大は、山野海によるオリジナル脚本に強く心を動かされ、佐藤現プロデューサーに映画化を持ちかけていました(なお、山野海の友人の息子さんが、大貴のモデルになっているのだとか)。

そこに小林聖太郎監督が加わり、ASDの専門家の監修を受けながら、ASDや障害のあるきょうだいに関する文献・映像資料を研究し、約2年をかけて脚本を練り上げていたそうです。さらには福祉施設でASDなど障害のある方々がアートを通して内面を表現している様子も見学しており、安田章大はそのギャラリーでお気に入りの絵を購入したりもしていたのだとか。

(C)2026「平行と垂直」製作委員会
(C)2026「平行と垂直」製作委員会

つまり、安田章大が企画にクレジットされているのは、プロモーションのための名前貸しなどではない、本当に当初から企画に関わっていたからこその名義であり、もっといえば安田章大がいなければ映画化自体がされなかったかもしれないのです。

「普通」よりも大事にする必要があることは

その安田章大はこの『平行と垂直』について、実に的確かつ真摯なコメントをしています。一部を抜粋して紹介しましょう。

「この映画、"平行と垂直"は
自閉症の大貴と定型発達の希、
そんな兄妹の微々たる成長物語であり
その2人と関わる人々が心に棲まわせる寛大、辛辣、
はたまた無関心というあらゆる本音たちと共に生きていく物語です。
(中略)
街中では誰かがこんなことを口にします。
"普通は〜..."
いったい誰が定めた普通なのでしょうか。
僕が感じるにこうです。
"誰かが言う普通は、とある誰かにとっては異常"
"誰かが言う異常は、とある誰かにとっては普通"
意見を持つことも時に大事、
しかし、
それ以上に大事にする必要があることは
"自分の中にはまだ存在してくれてなかった言動に対する受動力"
です。
(後略)」

まさに、劇中の大貴と希という兄妹の成長は客観的には「ほんの少し」と言える程度のこと(それでも、いやだからこそ感動的!)ですし、“普通”という言葉がいかにあいまいであるか、それでいて「何かの言動の意味に気づき受け入れる」ことの尊さも描いています。

安田章大という演者であり企画者が、もっとも作品を深く理解しているからこそのコメントと言えますし、その通りの意義を実際に映画から感じ取ってほしいです。

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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