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愛するほどに、壊れていく。坂口健太郎が『私はあなたを知らない、』で挑んだ新境地

  • 2026.8.28
Takuya Maeda[TRON]

『私はあなたを知らない、』で、“家族”という幸せの形を追い求めるあまり、破滅へと向かっていく主人公・西山夕平を演じた坂口健太郎。愛する人を手にかけてしまうという重いテーマに向き合い、リアルで繊細、そして複雑な感情を体現した。これまでにない表現へと踏み込んだ彼が、俳優としての現在地と、新たな挑戦について語った。

ELLE 『私はあなたを知らない、』は中野量太監督にとって、『湯を沸かすほどの熱い愛』以来、10年ぶりのオリジナル作品です。監督は坂口さんと濃密にコミュニケーションを取りながら行われた撮影を振り返って、「坂口さんは本当に気持ちのいい人だと思います」とコメントを寄せています。心に残った監督とのやり取りについて教えてください。

坂口 原作がある作品は行き着く先がある程度決まっていますが、オリジナルにははっきりとした正解がないですよね。ひとつひとつのシーンを撮影しながら、どんな演じ方を選択してもいいという楽しさと怖さの両方を感じました。監督とは「実際にこういう瞬間に直面したら、こんな難しさを感じるんじゃないか」「夕平だったらどうすると思う?」という対話を重ねていって。監督が夕平の気持ちが一番わかる人だとしたら、僕は夕平の一番の隣人でいたいなという気持ちがあったので、話していくなかでまったく違う方向に進んでいくことは、一度もなかったと思います。ただふたりが思っている夕平像を細かくすり合わせる作業は、毎シーンの段取りのタイミングでさせていただきました。

ELLE 坂口さんからお芝居のアイデアを提案することもあったのでしょうか。

坂口 そうですね。このパターンの夕平もあると思うけれど、別の角度から見た夕平の芝居を一度やってみるので、見てもらっていいですか? というように構築的な話をさせてもらった現場だったと思います。オリジナルだからこそ監督は夕平というキャラクターにものすごく強い愛情を持っていたと思いますが、撮影を重ねていく中で、「このシーンは坂口さんに任せますね」と言ってもらえるようになってきて。ありがたいことにふたりで夕平についての対話を重ねる時間があったからこそ、そういう信頼関係を築くことができたのだと思います。

©IDKYPs./Pyramide Productions

リハーサル時に涙が止まらなくなったシーンも

ELLE 20代から40代までを演じるうえで、どんなことを意識しましたか?

坂口 僕は今35歳なのですが、お芝居を始めた20代の頃の自分とそれほど変わっていない気がするし、5年後に40歳になるときにも同じように感じるのではないかと思います。ただ夕平の場合は刑務所に入っている時間が13年間もあるわけで、一般の社会にいる人との違いはあるだろうと。ただ痩せているということではなく、疲れ果てている感じを出したいということは、監督にお話させていただきましたね。ある程度の減量をして、あとはナチュラルな範囲でメイクの力に頼らせてもらいました。

ELLE 髪の毛を短く切ることも、夕平を演じるうえでは大きな要素でしたか?

坂口 夕平は仮出所を控えているので、社会復帰のために髪を少し伸ばしてもよかったのですが、見え方としてわかりやすくビジュアルを変えたいという思いはありました。スタッフの方が力を尽くして下さって、過去の夕平の場面はほぼまとめて一気に撮れたんです。その後で髪を切って、大人になった朝子と面会室で再会するところから撮影ができたので、とても助かりました。でもその分、「私のこと、本当の娘のように可愛がってたって」「あなたは、憶えてますか?」という風に言われると、朝子の小さい頃のことを思い出して泣けてきてしまって。そうなんだよ、すごく大事にしていたんだよ……という思いが先行して、リハーサルの時に涙が止まらなくなったんです。それを見て早瀬(憩)さんも涙が止まらなくなって、監督に「ここはまだそういうシーンじゃない」とストップをかけられたこともありました。

©IDKYPs./Pyramide Productions

ELLE 夕平は日々のルーティンを守りながら暮らしています。坂口さんが日常の中で大切にしているルーティンはありますか?

坂口 朝、コーヒーを飲むこと。マネージャーさんに聞いたときも同じ答えだったので、たぶんそれくらいだと思います。深煎りよりは浅煎りが好きですね。コンビニのコーヒーをよく飲んでいます。

ELLE 夕平にとっての高級生食パンのように、坂口さんにとっての暮らしのなかでの小さな喜びや楽しみは?

坂口 おいしいお酒とご飯かな。嬉しいとか楽しいって思う瞬間が多いから、逆にこれ! っていうものがないのかもしれない。現場に行って「おはよう!」ってあいさつをして、その場の空気を楽しい感じにすることもすごく好きです。

©IDKYPs./Pyramide Productions

ELLE 完成作をご覧になった感想をお聞かせください。

坂口 監督と僕が表現したいことは存分に出せた作品かなと思っていますが、やっぱりとても繊細で難しい話だなと思いました。それは最初に台本を読んだときも、芝居をしていても感じていたことです。家族という幸せのかたちを求めた夕平のチョイスについてすべてを肯定することはできないですし、この映画は彼の行動の是非を見せる作品ではないと思っています。彼を取り巻く環境や葛藤をのぞき見するような映画なので、すべての人の心に響く作品ではないかもしれません。だからこそいろいろな人の感想を聞いてみたくなりました。

Takuya Maeda[TRON]

世界を飛び回るなかで、自分の心の置きどころを考える

ELLE ボーダーレスな活躍が期待されている現状については、どのように受け止めていますか?

坂口 それこそ昨日、ミラノから帰ってきて今日はこれから地方で撮影なんですね。ミラノでのファッション系の撮影も楽しかったのですが、相手の俳優さんとふたりで芝居をするような世界に身を置いていると、自分の心の置きどころはどこなんだろうな、と思うときもあって。考えてみると、配信で観てもらうことで作品を取り巻く環境には変化があったけれど、人と人が向き合って作品をつくっていく過程はずっと変わらないという感覚があります。ただ海外の方と仕事をしたときに、僕への評価がそのまま日本人俳優への評価につながるところもあるので、いい芝居をしていい結果を残していくということを丁寧にやっていきたいと思っています。

ELLE 俳優の枠を超えてプロデュース業に進出する方が増えている印象があります。坂口さんは映画やドラマの制作に興味はありますか?

坂口 役者とは違うかたちで作品を背負うということには、とても興味がありますね。でも自分も出たくなっちゃうと思います(笑)。自分で言うのもなんですが、僕はすごく器用な方なんです。でもそういうことに関しては、器用にできない気がするんですよね。普段、主演をやらせてもらっているときに現場で摩擦が生まれた空気を感じると、自分からそこに飛び込んでいくタイプです。でもそれはあくまでも俳優部の一番手としての行動であって、プロデューサー的な責任を背負ったときの自分がどうなるのかは、やってみないとわからないですね。潤滑油になることは嫌いじゃないからできるかもしれないけれど、プロデューサーと出演者の両方を兼ねるのは難しいかな。……今はまだ想像の範疇ですが、いつかプロデューサー的な責任を負って作品をつくる苦しみを知ってみたいという気持ちはあります。

ELLE 以前のインタビューでは、絵を描くことにハマっているとお話しされていました。最近も続けていますか?

坂口 アジアのファンミーティングツアーの頃ですよね。最近は全然描いてないです(笑)。今は誕生日イベントで「ハッピーバースデー」の曲をピアノで弾く予定なので、練習しなきゃなと思っているところなんです。ピアノは保育園の頃に習っていたのと、なぜか役で弾くことが本当に多いんですよね。とりあえず今は「ハッピーバースデー」の曲を弾くだけの予定です(笑)。

『私はあなたを知らない、』

天涯孤独の28歳・西山夕平は、自らに課したルーティンを淡々とこなす日々を送っていた。そんな彼の前に、職場の新しいパート職員でシングルマザーの紗月と、その娘・朝子が現れる。夕平は2人との出会いを通して初めて“家族”という幸せの形を知るが、狂おしいほどに求める愛は、やがて悲劇へと向かってしまう。 ユーモアと愛情に満ちた、感動のヒューマンサスペンス。

監督:中野量太
出演:坂口健太郎、早瀬憩、堀田真由、倉田瑛茉、原田美枝子

2026年8月28日より、新宿ピカデリーほか全国公開。

Profile
坂口健太郎/1991年、東京都生まれ。2014年に俳優デビュー。主な主演作に『今夜、ロマンス劇場で』('18年)、『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』('21年)、『余命10年』('22年)、『盤上の向日葵』('25年)など。'24年、韓国のCoupang Playオリジナルシリーズ「愛のあとにくるもの」の主演により、韓国やアジアで大人気に。10月からは、イ・ジュンギと共演するフジテレビのドラマ「kiDnap GAME」がスタート。

photo TAKUYA MAEDA/TRON styling TAICHI SUMURA hair & makeup RUMI HIROSE

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