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「正直、なんとかしてほしい」家庭菜園に熱中していた近隣住民。だが、私が日々感じていた不満とは

  • 2026.8.24

少しずつ花で埋まっていった

越してきたばかりのころ、近くのお宅の前には小さな鉢が並んでいるだけだった。

それが季節がめぐるたびに増えて、いつのまにか自宅前の公共スペースいっぱいに、立派な花壇ができあがっていた。

ブロックを積み、土を入れ、支柱まで立てて、素人の手仕事とは思えない出来だった。

「ここ、日当たりがいいから、よく育つんですよ」

ご主人はそう言って、目を細めて笑う。悪い人ではない。

というより、深く付き合わなければ、むしろ感じのいい人だ。

ゴミ出しの朝に会えば挨拶を交わすし、こちらが荷物を抱えていれば手を貸そうとしてくれる。

だからこそ、私は何も言えなくなっていった。

「よかったら、切って持っていきませんか」

困っていることは、いくつもあった。風の強い日は、花粉と種が細かい粒になってこちらの窓に張りつく。

秋には枯れ葉が道を渡ってきて、玄関の隅にたまる。乾いた土が舞い上がり、洗ったばかりの車がうっすら白くなることもあった。

(正直、なんとかしてほしい)

肥料を使っているのだろう、生ぬるい風に混じって独特のにおいが流れてくる日もある。

「今年は根がよく張ってねえ」

うれしそうな声を聞きながら、私はあいまいにうなずくだけだった。

言葉は、いつも喉の手前で止まる

いちばん気を使うのは、水撒きの時間だ。

ご主人は道路をまたぐようにホースを伸ばし、花壇の端から端まで水をやる。

車で出ようとすると、そのホースが目の前を横切っている。踏んでいいものか迷って、私はいつも半端な速度で徐行することになる。

「ああ、ごめんなさいね、すぐどけますから」

気づいたご主人は慌ててホースを持ち上げてくれる。悪気はまったくない。ただ、そのわずかな時間、私はハンドルを握ったまま頭を下げ続けている。

バイクで通るときは、もっと怖い。濡れた路面と、たわんだホースの黒い影。あそこでタイヤを取られたら、と考えるだけで肩に力が入った。

「植木鉢は、道の端に寄せておくから」

ある朝、ご主人はそう言ってくれた。こちらの気配を、たぶん少しは感じ取っていたのだと思う。ありがたかった。けれど寄せられた鉢はやはり道の上にあって、花壇そのものは何も変わらない。

「いえ、こちらこそ、すみません」

結局、私の口から出るのはそればかりだ。後から来たのは自分のほうで、この道の朝の風景を先に作っていたのは向かいの家だった。

それを崩してくださいと言う権利が、自分にあるとはどうしても思えない。

今朝も窓の外で、ホースの水が光っている。私は鍵を持ったまま、しばらくその場に立っていた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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