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「36分とは感じられない密度」「終始号泣」…『君の名は。』スタジオ最新作『しらぬひ』心を揺さぶる“感情の波”を感想コメントから読み解く

  • 2026.8.21

コミックス・ウェーブ・フィルムが手掛けた短篇アニメーション映画『しらぬひ』が8月21日から劇場公開中だ。それに先駆けて開催されたMOVIE WALKER PRESS試写会で、10代から60代まで約60名の観客にアンケートを実施したところ、「見事に泣きました」(20代・男性)や「一言で表せないほどの感情となり、終始号泣でした」(40代・女性)など、激しく心を揺さぶられた観客たちの生の声が多数届けられた。

【写真を見る】知っていても気づけない?『しらぬひ』で10歳の少年の声を担当したあのの演技に観客から驚嘆の声

わずか36分で完結する短編映画でありながら、なぜこれほどまでに幅広い世代の観客の心を惹きつけたのか?そこで本稿では、『しらぬひ』がどのように作られていったのかというバックグラウンドをたどりながら、アンケートに寄せられた感想コメントをピックアップして紹介。本作の注目すべきポイントを探っていこう。

あのが表現する10歳の少年の“複雑な心の動き”に驚嘆と絶賛の声!

【写真を見る】知っていても気づけない?『しらぬひ』で10歳の少年の声を担当したあのの演技に観客から驚嘆の声 [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会
【写真を見る】知っていても気づけない?『しらぬひ』で10歳の少年の声を担当したあのの演技に観客から驚嘆の声 [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

社会現象を巻き起こした『君の名は。』(16)や『すずめの戸締まり』(22)などの新海誠監督作品で知られるアニメーションスタジオ、コミックス・ウェーブ・フィルム。“新海ワールド”とも称される圧倒的に美しい水や光の表現、緻密で繊細な風景描写を支えるハイクオリティな“美術力”に定評のある同スタジオのもうひとつの特徴といえるのは、2007年の設立以来貫かれてきた“オリジナル企画”へのこだわりだ。

一方、実写作品の映像作家として活動してきた片野坂亮監督は、コロナ禍での巣ごもり生活をきっかけに独学でアニメーションの技術を習得。たった一人で3年がかりで完成させた約2分の短編アニメーション『らお』(23)が注目を集め、それがコミックス・ウェーブ・フィルムのプロデューサーの目に留まる。この出会いをきっかけにスタートした『しらぬひ』のプロジェクトは、そこから様々な困難に直面しながら、また3年の歳月を経て完成に漕ぎつけることに。

海辺の町を舞台に、純真無垢な祈りと呪いを描く [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会
海辺の町を舞台に、純真無垢な祈りと呪いを描く [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

物語の舞台は1996年の夏、海辺にある田舎町。10歳の湊(あの)は、酒におぼれる父マサル(三木眞一郎)と二人暮らし。荒んだ毎日にうんざりしていた湊の唯一の心の拠り所は、海に浮かぶ小さな島・弁天島に現れる少女の姿をした神さま“べんちゃん”(花澤香菜)だけ。ある日、湊が児童保護施設へ一時保護されることが決まり、彼はひとつだけ願いを叶えてくれるという海に浮かぶ不思議な光“しらぬひ”に祈りを捧げる。しかし、父への強い憎しみから、その祈りは取り返しのつかない“呪い”へと変化することに。

「暗いところにある光のような愛」を描きたいという片野坂監督のアイデアから始まった本作。その軸足に、北野武監督作品のような“死のにおい”を漂わせ、コミックス・ウェーブ・フィルムの強みである美しい風景が重なりあう。試写会の観客からの率直な声を見てみると、「全編通してヒリヒリした空気を感じました」(40代・女性)、「感情の波にさらわれ、最後、浄化された気持ちになった」(40代・女性)など、様々な感情がうずまく映画体験になったことが窺える。

心の奥底に秘められた憎しみと苦しみ…ちょっぴりヘビーなテーマがダイレクトに突き刺さる [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会
心の奥底に秘められた憎しみと苦しみ…ちょっぴりヘビーなテーマがダイレクトに突き刺さる [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

その一番の理由は、登場人物たちの感情が全編にわたってとめどなく溢れつづけているからだろう。時に激しく、時に穏やかに、短い上映時間だからこそ、それらが観客の心にもダイレクトに突き刺さっていく。もちろんその中心にいるのは、「主人公の強い感情に胸をうたれた。苦しさやつらさもあったが、気がついたら涙が流れていて止まらなかった」(20代・女性)というコメントからもわかるように、主人公の湊にほかならない。

「あのちゃんだと知ったうえで観ても、まったくわからないくらい上手でびっくりした」(20代・女性)

「あとからそういえば…と思うくらい自然にのめり込んでいた」(40代・女性)

「ここまで声優としての実力があると思ってなく、びっくりしました。声質的に10歳の男の子はまり役だった」(30代・女性)

「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」に続いてアニメ映画で主演を務めるあの [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会
「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」に続いてアニメ映画で主演を務めるあの [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

歌手やタレントとして活躍し、ドラマやアニメなどでも声優を務めた経験のあるあの。彼女が体現する10歳の少年の複雑な心理状態に、観客の多くから絶賛の声が。特にその演技力が輝いていたという意見が寄せられていたのは、物語中盤。湊が願いを叶えるために幼い少年に手をかけようとするシーン。「セリフはないけど、息遣いにすごく心が奪われた」(20代・女性)など、その無意識な残酷さと心の葛藤をかすかな呼吸で表すテクニックで、一気に作品世界へ引き込まれる観客が続出。

また、父親のマサルと衝突するクライマックスについても「湊の叫びに泣きました」(30代・女性)や「演技の声のまま、あの深い感情を乗せられるのはすごい」(30代・女性)というコメントが。「三木さんの演技が上手すぎて怖かった」(20代・女性)とマサル役を務めたベテラン声優の三木眞一郎を称えるコメントも寄せられており、ボイスキャスト陣の熱演が観客のあらゆる感情を引き出したようだ。

「残酷にも希望にも感じるラスト」観客が抱いた“感情”の正体は?

では具体的に、観客たちは本作を観てどのような感情を抱いたのだろうか?アンケートで訊ねてみたところ、もっとも多かった回答は「切なかった」というもの。また「美しかった」や「感動した」というポジティブな感情と同時に「怖かった」や「怒りを覚えた」という感情も目立っており、その両方を挙げる観客も。「一度観ただけではうまく感情が整理できない」(40代・男性)という声も見受けられた。

湊が抱く複雑で不安定な心理状態を追体験する観客が続出 [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会
湊が抱く複雑で不安定な心理状態を追体験する観客が続出 [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

「湊の生きたかったような未来に結局はなれていないとかをふまえるとやりきれない気持ちになった」(10代・女性)

「愛と憎しみという近すぎる思いがぶつかり合って傷つけあってしまう切なさと苦しさに、胸が締め付けられました」(30代・女性)

「思った以上に生ぬるくない、リアルを現実の厳しさを描いていた」(30代・女性)

「祈り続けても願いが強くても叶うとは限らない。だけどラストシーンにひとすじの希望をみた」(40代・男性)

「行き場のない子どもの現実を、ファンタジーチックに残酷にも希望にも感じるラストに感動した」(20代・男性)

観る人自身がそれまで経験してきたことや、作品と出会うタイミングなどで捉え方が大きく変わるのは、アニメや映画に限らずあらゆる作品の醍醐味でもある。この映画を観ることで、自分がどのような感情を抱くのか。それを確かめてみるというのも、多くを語らない短編映画の楽しみ方のひとつなのかもしれない。

津奈木町にある旧赤崎小学校など、実際のロケーションもモデルとなっている [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会
津奈木町にある旧赤崎小学校など、実際のロケーションもモデルとなっている [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

また、コミックス・ウェーブ・フィルムの新作ということもあり、多くの観客が作品全体を包む美しい世界観や映像美を期待していたようだ。もちろんそれについては「空の映像など、見入ってしまうような美しさが随所に見られた」(20代・女性)というコメントからわかるように満点回答。

「不知火(しらぬひ)の情景が印象的で、人物の感情に共鳴するような演出がとても綺麗に映った」(30代・男性)、「セリフで多くは語らず、キャラクターの表情や美しい描写で場面場面の感情を伝えていく。アニメーション作品特有の良さが前面に押し出されていて素敵」(10代・女性)と、大満足の声が寄せられている。

クライマックスシーンでの湊の感情の爆発に注目 [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会
クライマックスシーンでの湊の感情の爆発に注目 [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

片野坂監督は本編の絵コンテをたった1人で1か月半という短期間で描きあげ、さらに全体の325カットのうち3分の2以上のシーンのラフ原画を自ら手掛けたのだとか。「自分の手が入っていないカットはありません」と片野坂監督自身が語っているように、作り手の強い想いがすべてのカットに表れているからこそ実現できた濃密な世界観。かつて新海監督がたった1人で作り上げた『ほしのこえ』(03)を思いだしたアニメファンもいたようだ。

「このようなテーマを短編映画に持ち込むというのも挑戦的で良いと思った」(20代・女性)

「本当に36分とは感じられない密度ですばらしかった」(20代・女性)

「この作品の長尺版も見てみたいです」(30代・男性)

「短い時間での表現がむずかしいなかで、濃い内容、ストーリー、展開の完成度が高かった」(30代・男性)

『しらぬひ』は8月21日より全国順次公開 [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会
『しらぬひ』は8月21日より全国順次公開 [c]2026 片野坂亮/しらぬひ製作委員会

群雄割拠のアニメーション界の次代を担うクリエイターになること間違いなしの片野坂監督。その商業デビュー作である本作は、近い将来、リアルタイムで劇場鑑賞をしたことを自慢できる作品になってもなんら不思議ではない。そんな付加価値にも期待しつつ、なかなか劇場で上映される機会が少ない短編映画をスクリーンで味わう体験と、まだ見ぬ“感情”との出会い。たった36分の濃密な時間を、是非とも味わってみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬

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