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「いい宿を選べたな」申し分のないホテル。だが、エレベーターで出会った客の態度で台無しに

  • 2026.8.20

部屋もスタッフも、申し分なかった

イベントに参加するため、その日は日帰りではなくホテルに一泊することにした。

ひとりで知らない街に泊まるのは久しぶりで、駅からの道を歩いているあいだ、少しだけ気持ちが浮き立っていた。

チェックインを済ませて通された部屋は、隅々まで掃除が行き届いていた。

フロントの人の案内も落ち着いていて丁寧で、ホテルそのものには何ひとつ不満がなかった。

「いい宿を選べたな」

そう思いながら備え付けの館内着に着替えて、地下にある大浴場へ向かった。

私の部屋は上の階だったから、行きも帰りもエレベーターを使うことになる。

湯上がりで少しほてった顔に、廊下の空調がちょうどよかった。

エレベーターホールに着くと、扉が開いたままになっていて、先に乗っている人がいるのが見えた。

「あ、間に合った」

目が合ったような気がした。扉が閉まる気配もない。待っていてくれているのだと思って、私は小さく会釈をしながら、乗り込もうと一歩を踏み出した。

挟まれた瞬間と、そのあとの沈黙

その瞬間、両側から扉が迫ってきた。閉じるのボタンを押されたのだと気づいたのは、避ける間もなく肩と腕が挟まれたあとだった。

「痛っ!」

自分でも驚くほど大きな声が出てしまい、慌てて口をおさえた。扉はすぐに開き直り、私はよろけるように箱の中へ入った。

押し間違えたのかもしれない。閉じるのボタンと開くのボタンは並んでいるし、誰にでもあることだと思った。

だから私は、相手の方をちらりと見た。

「大丈夫ですか、の一言があれば」

それだけで、この出来事は笑い話になるはずだった。

けれどその人は正面を向いたまま、表情ひとつ動かさなかった。私の声が聞こえていないはずのない距離だった。

エレベーターは静かに動き、次の階で止まった。その人は何事もなかったような足取りで降りていき、扉が閉まって、箱の中には私だけが残された。

何が起きたのか頭が追いつかないまま、私は階数の表示をただ見つめていた。

「……行ってしまった」

部屋に戻って腕を見ると、うっすらと赤い跡が残っていた。

それも翌朝にはきれいに消えていて、痛みそのものはたいしたことがなかったのだと思う。

わざとだったのか、本当に押し間違えただけなのかは、今も分からない。分からないままでいい、とも思う。ただ、あの一言がなかったことだけが、あの旅の記憶にずっと引っかかっている。

※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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