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空気階段・水川かたまり「“誰も売れるな”と思っていた」売れる前の自身に重なる主人公役で舞台デビュー

  • 2026.8.19

空気階段としてコントで独自の世界を築き、近年は俳優としても存在感を放つ水川かたまりさんが、今秋上演の舞台『春よ来い、マジで来い』で初舞台・初主演に挑む。本作は、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本を手がけた足立紳さんの青春小説を、マギーさんの脚本・演出で舞台化する物語だ。脚本家を目指す主人公と自身の20代を重ねるかたまりさんに、舞台主演という新たな挑戦への思いや、何者にもなれずにもがいていた日々について聞いた。

初舞台で初主演を務める水川かたまりさん
初舞台で初主演を務める水川かたまりさん

“どこか愛される役柄”のアプローチはコントと違った新しい挑戦

――オファーを聞いたときの感想から教えてください。

【水川かたまり】マネージャーがすごくかしこまった感じで入ってきたので、「仕事で、ものすごいミスをしたのかな」とビクビクしていたんです。何か大変なことになったのかと思っていたら、「主演舞台の話が来ました」と告げられて…まずは安心したのを覚えています。大ミスをしたかもしれないと怯えていた分、よりうれしかったですね。

――舞台で主演をやってみたいという気持ちは、以前からあったのでしょうか?

【水川かたまり】「やりたい」以前に、舞台の主演なんて僕の人生には関係のないものだと思っていたので、びっくりしました。映画に出演したときもそうですが、自分でやりたいと思ってどうにかなるものではないので、オファーをいただくたびに驚いています。

――かもめんたるなど、コントから演劇へ活動の場を増やす芸人もいますが、かたまりさんはもともと演劇に興味はありましたか?

【水川かたまり】「劇団かもめんたる」の公演は毎回観ていますが、僕にとって舞台は観るものという感覚でした。もし自分が演劇に出るとしても、芸人がたくさん出演する、お笑いと演劇の中間のような作品ならあるのかなと思っていたくらいで。でも、今回のような大きな劇場での演劇作品に自分が出ることは、全く想定していなかったです。

――台本を読んだときの印象はいかがでしたか?

【水川かたまり】まず、会話劇がおもしろいと思いました。登場する人物たちそれぞれの会話がすでにおもしろい。そこが台本の段階で確約されていることに、すごく安心しました。僕が演じる孝志は本当にダメな人間で、弱点がたくさんあるんですけど、読んでいて「彼が過ごしている時間はすごく楽しいだろうな」と思ったんです。脚本家を目指すものの泣かず飛ばずで苦しいことも多いはずなのに、どこかうらやましかったですね。

――演じる孝志は小心者でプライドが高く、自分勝手なところもある一方、どこか憎めない人物ですよね。どのように演じたいですか?

【水川かたまり】ものすごく人間臭い人ですよね。プライドの高さで、どうにか自分を保っている。そのなかにあるかわいらしさが、演じるうえですごく大事な気がしています。

観ている方が「本当に腹が立つな」と感じる部分は大いにあると思うんです。でも、そこもひっくるめてかわいらしい。その部分を少しマシマシで演じたほうがいいのかなと。とはいえ、役をどう演じるかをこれまで深く考えたことがなかったので、現場でマギーさんに質問しながら、僕らしい孝志を作っていけたらと思っています。

――コントとはまた違うアプローチが必要になりそうでしょうか。

【水川かたまり】確かに、考えたことのない部分かもしれません。コントで演じる役柄は、ウケるためにどうするかをひたすら考えます。観客に嫌われたまま終わってもいいですからね。でも今回はコントとは違って、愛される部分も必要です。どうアプローチするのか、実際に演じながら勉強していけたらと思います。新しい挑戦になりそうですね。

何者でもない苦しい時間は、振り返ると楽しかった

――孝志と若いころのご自身が、特に重なる部分は?

【水川かたまり】孝志が、ルームシェア仲間の芸人・菅井にコントの台本を書く場面です。そこで孝志は、本気を出さないんですよ。つまらないと思われるのが怖いから。それはすごく、気持ちがわかるんです。

僕も若いころ、ユニットコントを書くときに、本気でやってスベったら怖いから、逃げのナンセンスにして、うやむやにしていた時期がありました。スベっても「別に本気じゃないし」という雰囲気を出そうとしていたんです。すごく卑怯者だったと思います。まさにプライドゆえですよね。

――逆に、孝志と異なる部分はありますか?

【水川かたまり】意外とコミュニケーション能力が高いところです。どこに行っても、わりと平気でいられる人物なのかなと。100%素を出しているわけではないと思いますが、臆さないところがあるのは、少しうらやましいです。

あとは、名作をパクってしまうところですね。芸人の世界でそれをやったら大バッシング、大ひんしゅくですから(笑)。そういうタブーを軽々と越えて、さらに言い訳までできるのは、ある意味で肝が据わっている。そこは僕とは違いますね。

――孝志は、脚本家を目指すも振るわない生活を送っています。空気階段が売れる前の時期とも重なりますか?

【水川かたまり】もちろん重なります。僕も芸人仲間とルームシェアをしていましたし、恋愛のすったもんだもありました。多くの20代が抱えるものが描かれていると思います。

そのときは「めちゃくちゃしんどい」「もうやめたい」と思うこともあるんですけど、35歳になった今、20代後半を振り返ると、すごく楽しかったなと思うんです。だから台本を読んだときも、孝志たちは本当に苦しいだろうけど、なんだかんだで楽しんでいるのだろうなと感じました。

――実際のルームシェアでは、どんな時間を過ごしていたのでしょう。

【水川かたまり】ガーリィレコードのフェニックス、まちるだの広永、今は芸人を辞めた元ガキダンディの佐藤と一緒に4人で住んでいたのですが、全く努力をせず、ただ遊ぶだけの日々でしたね。振り返ると、現実から目を背けていたなと。それぞれの親が仕送りの食料品を送ってくれるんですけど、それを本人に内緒で全部食べて、ゴミだけその人の部屋に置いておくとか。そんなことばかりしていました。

一緒に住んでいたころにガーリィレコードがYouTubeを始めて、すぐにバズって登録者が80万人くらいになったんですよ。それはちょっと許せなかったですね。「ふざけんなよ」と思っていました(笑)。

――仲間が先に売れていくことへの焦りがあったのでしょうか。

【水川かたまり】20代のころはありました。お笑いを始めたばかりのころなんて、「誰も売れるな」と思っていましたね(苦笑)。空気階段は同期のなかでは比較的早くアルバイトを辞められたほうだと思いますが、それでも8年かかっています。僕らの同期は、全体的に時間がかかった世代なのかもしれません。

僕が過ごした20代を役に投影できたら

――「好きなものを作りたい」という気持ちと、「評価されたい」という、ものづくりをする人ならではの相反する気持ちについて、かたまりさんご自身はどう捉えていますか?

【水川かたまり】僕の場合は、場面によって変わります。ルミネtheよしもとなどの劇場で毎日行われている寄席の出番では、ウケることが正義だと思っています。吉本のお笑いを観に来たお客さんが、たくさん笑って帰る。それが一番大事で、そこではウケることが評価でもあります。

一方で、空気階段だけで2時間やる単独ライブでは、自分たちがやりたいこと、自分たちが見たいものを基準にしていますね。このバランス感覚は、経験を積まないとわからないものかもしれません。

――タイトルの『春よ来い、マジで来い』には、希望だけでなく焦りや切実さも感じます。この物語における“春”とは何だと思いますか?

【水川かたまり】夢も恋愛も含めて、いろいろなものを包括している言葉だと思います。孝志たちは、今の苦しい期間を「後々、伝説にするんだ」と言っています。この時期をいつか語れるところまで進むこと、恋愛も含めて次の段階へ進むことが、春なのかもしれません。今、パッと答えたので、明日考えたら全然違うことを言っているかもしれませんけど(笑)。

――夢がなかなか叶わず、まわりに取り残されていると感じている人に、この作品をどのように受け取ってほしいですか?

【水川かたまり】結果が出なければ、絶対に焦ります。そこには抗えない。でも、作品の中に「続ける才能」という言葉が出てくるんですけど、僕自身もそれは確かに才能だなと感じているんです。苦しい期間を、ただ苦しいだけだと思っていると、続けようという気概がどんどん削がれていく。結局、自分は楽しいからやっているんだろう、ということを思い返してほしいですね。

――最後に、かたまりさんが孝志を演じる意味を、どのように感じていますか。

【水川かたまり】芸人を始めたころから、「作家っぽい見た目」「構成作家っぽい見た目」と言われることが多かったので、まずビジュアル面はクリアできているのかなと(笑)。それだけでなく、芸人のなかでも僕は孝志とのリンク度が高い気がしています。30歳になるまでの感覚や、僕が過ごした20代を、役に投影できたらと思っています。

 舞台『春よ来い、マジで来い』のキービジュアル
舞台『春よ来い、マジで来い』のキービジュアル

撮影=TOYO

取材・文=イワイユウ

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