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男性は「別れた直後」に自殺リスクが急上昇する

  • 2026.8.18
34歳以下の別居男性は、同年代の既婚男性と比べて自殺死亡のオッズが8倍を超える / Credit:Canva

離婚による精神的なダメージは、離婚が成立した後に最も大きくなるように思えるかもしれません。

ところがオーストラリアのメルボルン大学(The University of Melbourne)の大規模な研究レビューから浮かび上がったのは、むしろ離婚が成立した後より、関係が壊れて間もない時期を含む「別居中」の男性で自殺リスクが高いという意外な結果でした。

さらに34歳以下の別居男性では、同年代の既婚男性と比べて自殺死亡のオッズが8倍を超えていました。

どうやら人を追い詰めるのは「一人になったこと」だけでなく、「大切な関係を失いつつある時期」なのかもしれません。

この研究は2025年7月17日付で、心理学誌『Psychological Bulletin』にオンライン掲載されました。

目次

  • 1億人を超える男性のデータから「別れ」と自殺の関係を分析
  • 最も危険だったのは「別れの急性期」にいる若い男性

1億人を超える男性のデータから「別れ」と自殺の関係を分析

世界的に見ると、男性は女性よりも自殺によって亡くなる割合が高く、その背景には精神疾患やアルコールや薬物の使用、経済問題など多くの要因が関係しています。

その中でも以前から注目されてきたのが、恋人や配偶者との関係の破綻です。

親密な関係は、愛情だけでなく、心理的な支えや安心感、社会とのつながりをもたらします。

そのため関係が壊れると、精神的な苦痛に加えて、住居や経済状況、人間関係、子どもとの関わりなど、生活のさまざまな部分が同時に揺らぐ場合があります。

しかし、男性の中でも「誰が特に危険なのか」「関係が壊れてからの時間によってリスクは変わるのか」「どのような心理的要因が関係しているのか」は、これまで十分に整理されていませんでした。

そこで研究チームは、2000年以降に発表された研究を集め、男性の親密な関係の破綻と、自殺念慮、自殺企図、自殺死亡との関連を体系的に調べました。

最終的に対象となったのは30カ国の75研究で、そこに含まれる男性は合計1億671万9740人に達します。

このうち29研究は、異なる研究の結果を統計的にまとめるメタ分析に使われ、残る研究についても共通する傾向が詳しく検討されました。

その結果、別居または離婚した男性では、既婚男性と比べて自殺念慮のオッズが1.64倍でした

また離婚男性では、自殺企図のオッズが1.73倍、自殺死亡のオッズが2.82倍となっていました。

ただし自殺企図については研究間のばらつきが大きく、精神疾患などの影響まで考慮すると結果は一貫していませんでした。

一方、自殺死亡については他の要因を詳しく調整した研究だけに絞っても、離婚男性で高いオッズが残っていました。

そして何より目を引いたのが、単に「離婚しているかどうか」ではなく、関係が壊れてからの時間でした。

より詳細な結果を次項で見ていきます。

最も危険だったのは「別れの急性期」にいる若い男性

研究で特に目立ったのが、離婚が成立した男性よりも、まだ別居状態にある男性の自殺死亡オッズが高かったことです。

別居男性では既婚男性と比べて自殺死亡のオッズが4.82倍となり、さらに未調整のデータで離婚男性と直接比較すると1.96倍でした。

そして34歳以下の別居男性に限ると、同年代の既婚男性の8.63倍に達していました。

この結果は、パートナーがいない状態そのものよりも、関係が崩れ、生活が大きく変化している時期に心理的負担が集中する可能性を示しています。

実際、レビューに含まれたノルウェーの研究では、男性の自殺死亡オッズは別居届を提出してから0~30日で既婚男性の13.20倍と最も高く、31~92日で11.69倍、93~183日で8.08倍と、その後は時間とともに低下していました。

ただし13.20倍という数字は今回の研究全体をまとめた値ではなく、1つのノルウェー研究で得られた結果です。

では、この背景には、どのような要因があるのでしょうか。

今回集められた研究では、孤独や社会的孤立、羞恥心、感情をうまく調整できないこと、既存の精神的問題、失業などとの関連が示されていました。

特に研究者らが注目しているのが、男性の一部では恋人や配偶者が主要な「感情的な支え」になっている可能性です。

友人とは仕事や趣味について話していても、つらさや不安を打ち明ける相手がパートナーに集中していれば、別れによって恋人や配偶者だけでなく、最も重要な相談相手まで同時に失うことになります。

さらに、自立や感情の抑制を重んじる伝統的な男性規範を強く受け入れている人では、苦しい状況でも周囲に助けを求めにくくなる可能性があります。

また、別居によって自分を失敗者のように感じる羞恥心も、男性の自殺念慮との関連が報告されていました。

もちろんこれらの結果は、別れそのものが自殺を直接引き起こすと証明したものではありません。

研究ごとの方法には大きな違いがあり、とくに別居男性と離婚男性の直接比較は未調整のデータに基づいています。

さらに分析の中心は婚姻関係の別居や離婚であり、一般的な恋人同士の失恋や未婚カップルの破局については、まだ十分なデータがありません。

それでも今回の大規模レビューは、男性の自殺予防を考えるうえで、関係が終わった後だけでなく、まさに関係が崩れ、生活や人間関係が大きく揺れている時期こそ注意すべきタイミングであることを浮き彫りにしています。

参考文献

Men face an elevated risk of suicide immediately following a relationship breakdown
https://www.psypost.org/men-face-an-elevated-risk-of-suicide-immediately-following-a-relationship-breakd/

元論文

Suicidality in Men Following Relationship Breakdown: A Systematic Review and Meta-Analysis of Global Data
https://doi.org/10.1037/bul0000482

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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